第5話 初依頼

 シェカド手前でゴーゴ号を降りる。何処に置いておくのかと聞く前に、レイアが何やらハンドル近くの画面を弄ると、ガシュンと音を立ててゴーゴ号の各パーツが収納されて折りたたまれ、車輪も小さくなり手に持てるくらいの筒になった。


「そんな機能があったのか」

「便利でしょ?どんな場所にも持ち込めるし嵩張らない。軽量化はまだちょっと課題かな」


 俺が拾い上げてみると、確かに大きさの割りには重たく感じた。それでもあれだけの物がここまでの大きさに収まるのだから凄い技術だ。


「もうアーティファクトって言っていいくらいじゃないか?」

「まだまだ全然よ。こんなもの本物に比べたら子供の玩具くらい差があるわ。でも、だからこそ挑戦の甲斐があるんだけどね」


 レイアの言葉に俺は微笑んだ。昔から負けず嫌いだったけれど、今でもそれは変わらないらしい。夢を夢で終わらせない、その覚悟があると分かる。


「じゃあ行くか!シェカドの街へ!」

「おー!!」


 俺とレイアは拳を突き上げた。




 街に入るのには許可証が必要だ、ただしそんなに難しい手続きではない。ちゃんと所定の場所へ行き書類を書けば通して貰える。


 しかしそんな煩雑な事をしなくても通れる方法がある。俺は門番に冒険者登録の仮免許タグを堂々と見せた。


「おっ、冒険者か。しかもなりたてだな」

「そうなんです!いいでしょうこれ!」


 俺が自慢げにタグを見せていると、レイアに後頭部を叩かれた。


「痛っ!何すんだよ!」

「まだ仮免許の癖にそんな自信満々に見せびらかさないの!恥ずかしいでしょ!」

「何だと!」


 喧嘩が始まりそうになる前に門番の人が笑い声を上げた。


「ハッハッハ、元気でいいな。坊主、自慢したくなる気持ちも分かるけれど嬢ちゃんの言う通りだぜ。せめて仮免許は卒業しないとな」

「ちぇっ仮免でも冒険者は冒険者なのにな」

「それもその通りだな。まあ頑張れ、苦労して冒険者になったんだから活躍しないとな」


 門番からタグを受け取る、冒険者登録タグを持っているとギルドと協定を結んでいる国等には自由に出入りが出来る。タグには偽造防止の魔法と所持者と紐づけされた情報登録がなされており、不正利用等は出来ないようになっている。この信頼度の高さも、冒険者の往来を助ける一つの要素だった。


「ありがとうおっちゃん。見ててよ、俺すげえ冒険者になるから!伝説の地を見つけるんだ!」

「おいおい、そりゃ大きく出たな」

「嘘じゃないぜ、俺はやるって決めたらやる男だ。いつか俺が伝説の地を見つけた時には、おっちゃんも周りに自慢してくれよ。冒険者アーデン・シルバーを初めて迎え入れた人としてな!」


 もう一度レイアに頭を叩かれて、背中をぐいぐい押されて俺達は門から離れた。何だよと抗議したかったが、顔を真っ赤にして睨みつけられたので俺は大人しくレイアに従った。




 二人が足早に立ち去った後、門番は次で待っていた人を呼んだ。受け取った書類に目を通していると、その人は門番に話しかけた。


「元気のいい子だったね。若くて夢があって素晴らしい」

「ええ本当に。若者が元気だと自分も頑張らないとと思わされますよ」


 門番は書類に不備がない事を確認すると許可印をつけて返した。


「しかし冒険者でシルバーか…」

「おや、何かご存知で?」

「いや何、私もこうして門番になる前には冒険者に憧れたもんでね。そんな時よく読んだ本の中に出てくる冒険者の名前がブラック・シルバーだったんですよ」


 二人は顔を見合わせると「まさかね」と口を揃えて言った。アーデン・シルバー、実力名声ともにまだまだ無名の新人だった。




「ああもう!恥ずかしかった!」


 レイアはまだ怒っていた。前を歩く足も早くなっている。


「何だよお、いいだろ別に自慢したってさあ」

「さっきも言ったでしょ?私達まだ仮なのよ?か!り!」

「任せとけって。そんなもん実力でパッとすっ飛ばすから」

「…ハア、頭痛いわ」


 相変わらずレイアは心配性だなと思った。そんなに心配しなくても、俺とレイアだったら大丈夫なのに、それだけの実力はあると俺は思っている。


 しかし連れられるがままに歩いてきたけれど、一体何処へ向かっているのだろうか。そんな事を考えていると、見慣れた紋章が描かれた旗が見えてきた。


「ここがシェカドの冒険者ギルドか」

「目的もなく歩いていると思った?」

「まさか、レイアなら何か考えてるに決まってる」


 自慢気に笑うレイア、恐らくすでに下調べは済んでいたのだろう。スムーズで助かるなと俺はギルドの扉を開いた。


「さあ行けアーデン!私は後ろにぴったりついてるから」


 中に入った途端自信に満ちていたレイアは、怯えた小動物のようになって俺の背に隠れた。賑わう人だかりが怖いのだろう、レイアは人見知りだからなあ。


 俺は取り敢えず近くにいた冒険者らしき人に話しかけた。でかい体躯に鋭い目つき、巨大なバトルアックスを背負っている。レイアは「ひょっ!」と小さな声を上げてより俺の後ろへと隠れた。


「こんにちは。ちょっと聞いてもいいですか?」

「ああ?何だ小僧」

「俺まだ冒険者になりたてでさ、そういう時って何処に行くのが一番いいの?」


 ビビって震えるレイアは放っておいて俺は話を進めた。


「何だよまだガキじゃあねえか。本当に冒険者かお前?」

「勿論!見てよこれ」

「仮免許か、なら嘘はついてねえみたいだな。それならあっちの等級が低い冒険者向け窓口に行きな、そこで聞けば仕事を貰えるぜ」

「そっか!教えてくれてありがとう!」


 教えてくれた冒険者の人に手を振って俺達は指示された受付へと向かう事にした。後ろで震えていたレイアはひょっこりと顔を出して俺に話しかけてきた。


「相変わらずすごいわねあんた。そういう所は本当に尊敬するわ」

「大げさだな。ちょっと話聞いただけじゃん」

「相手が問答無用で襲いかかってくるとか考えない訳?」

「お前なあ…、どんな世界に生きてるんだよ」


 呆れるようなレイアの発言は置いておいて、受付の列に並んだ。ようやく順番がくると、受付員の女の人がにこやかな笑顔で話しかけてきた。


「お待たせいたしました。冒険者登録タグの提出をお願いします」


 それぞれタグを手渡すと、確認の後返却される。


「アーデン・シルバーさんにレイア・ハートさん、お二人共仮免許中ですね。本日はどのようなご要件でしょうか?」

「実績を積む為の依頼を受けたいです。後、冒険者が優先的に借りられる宿泊施設の場所も聞きたいわ」


 俺が何か言う前にレイアが前にずずいと出てきた。こいつこういう事務的に会話してくれる人は平気なんだよなと、呆れつつも心の中で思い留める。


「そうですね、今ある依頼の中でお二人に回せそうな物は…。ああ、これなら丁度いいですね薬草採集の依頼です」


 手渡された依頼書を二人で確認する。シェカドから少し離れた場所にあるアカトキの森で指定された薬草を採集する依頼だった。


「アカトキの森は危険な魔物は生息していませんし、採集する薬草も見分けやすいです。お受けになりますか?」


 ちらりとレイアの顔を見るとこくりと頷いた。俺は受けますと返事をした。


「ではこの依頼書をお持ちください」


 元々渡された依頼書を返して新しい依頼書を受け取る。すると手に取った瞬間その依頼書は光り始めて、一粒一粒の小さな塊がタグの中に吸い込まれていった。


「今のは何ですか?」

「このタグを通じて契約が結ばれた事を示すのと、依頼内容の登録情報がタグに集積されました。依頼を達成出来なかった場合はタグを通じてこちらに分かるようになっていて、契約通り遂行されなければペナルティも課されるのでご注意ください。内容はいつでも確認出来ますのでご活用ください」


 色々出来るなあと感心していると、受付員の人はもう一枚書類を差し出してきた。


「こちらがギルドと提携している宿泊施設です。質については料金によってピンキリですので、戸なし相部屋多人数という事もあります。貴重品の管理は徹底してください」

「分かりました。ありがとうございます」

「依頼された場所まで向かう専用の馬車もありますが、利用されますか?」

「ああ足については問題ないです。宛があるので」

「分かりました。ではお気をつけて、依頼達成をお祈りしています」


 俺達は受付から離れるとギルドを後にした。いよいよ冒険者としての仕事が始まる、そんな予感をさせるやり取りにワクワクが止まらなかった。


 初仕事は薬草採集、責任をもってしっかりやり遂げるぞと心の中でぐっと決意した。一先ずは、人混みの中から開放されてぐったりとしているレイアの介抱からだなと俺は肩を貸すのだった。

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