第6話:もう胡桃ちゃんにはなにも求めない

その夜、胡桃ちゃんは俺に謝ることもなく、グズグズ涙と鼻水垂らしながら

俺に抱かれて眠った。


ひとりで寝かせようと思ったら、イヤだって言うし・・・やたらくっついて

くるから無理に離すのも可哀想だし・・・しかたないので俺はテッシュで

胡桃ちゃんの涙と鼻水を拭ってやりながら寝た。


俺に怒られたのがショックで泣いたのに?

俺の顔も見たくないってなら分かるけど、くっついてくるってどういう

心理なんだよ?

女の子の気持ちは分からない・・・そのへん、とっても複雑。


次の日から胡桃ちゃんは少し、お利口さんになろうと努力してるようにも

見えた・・・けど見えただけ。


この歳までわがまま放題で生きてきたんだ・・・俺に怒られたくらい

じゃ胡桃ちゃんの性格が直るわけがなかった。

いい子にしてたのは1日だけだった。


俺はご機嫌とりに土曜日、胡桃ちゃんを連れてアミューズメントパークに遊びに

行った。

まあ、彼女と仲良くデートだな。

ほんとはウィグに普通の服でよかったんだけど、それだと自分の存在意義が問われるとかで、どうしてもカツラに着物を着て行くって聞かない。


花見にでも行こうってか?

遊園地に遊びに行くんだぞ。

着物なんか着て来るやつなんていないだろ?


でも一概に着て行くって言うんだからしかたなかろう?

じゃ〜パークに行くのやめるか?って言うと、不貞腐れるし・・・。


もういいわ・・・好きにしろ。

そういうわけで俺は胡桃ちゃんを連れて電車に乗ってアミューズメントパークに

遊びに行った。


「幸太郎・・・なんじゃ?ここ」


「分かりやすく言うと遊園地」


「分からんが・・・」


「まあ、いろんなアトラクションがあってどれでも好きなものに乗って

楽しめるんだよ 」

「いいか・・・ここじゃ質問たくさんあるだろうけど我慢しろよ・・・」

「もうさ、君が質問しはじめたら止まらなくなるからな・・・」


「あの大きなものはなんじゃ?」


「お〜い、さっそくかい?」

「だからさ・・・質問はなしって今言ったろ?」


「わらわは黙っていたら口に虫がいっぱい湧くのじゃ・・・ここで口から

虫を吐いてもよいのか?」


「あ〜もう・・・あれは観覧車って乗り物だよ」


「観覧車・・・ほう・・・なにをどうするもんじゃ?」


「説明するより乗ってみれば分かるよ」


んな、わけで俺は胡桃ちゃん同伴で観覧車に乗った。


観覧車が少しづ上に上がるにつれ、向かい合わせで座っていた胡桃ちゃんが

俺の横に座りなおした。


「幸太郎・・・怖いが・・・」


「なに?胡桃ちゃん高所恐怖症?」


「なんじゃそれ?」


「高いところが苦手な人のことをそう言うの?」


「そうかもしれんぞ」

「普段、こんな高いところから庶民の家の屋根など見ることないからの 」


「怖かったら目をつむってな・・・すぐに降りて行くから」


「え〜ん・・・幸太郎、怖いよう」


胡桃姫は恐怖のあまりガタガタ震えだした。


「え〜そんなに?」


俺は高所恐怖症じゃないから、そう言う人の心理状態は分からない。

胡桃ちゃんが俺にしがみついてきた。


おれはどうしてやればいいのか分からなくなった。

だから胡桃ちゃんを恐怖から紛らわそうと思わず彼女にキスした。


俺にキスなんかされた胡桃ちゃんは、しばし怖さを忘れたのか俺の顔を、

目をまじまじと見ていた。


「ごめん・・・そんなつもりじゃなくて」

「怖さを取り除いてあげたかっただけなんだ・・・ いきなりキスなんか

して悪かった」


「大丈夫じゃ、幸太郎、苦しゅうない」

「嬉しかったぞ・・・少し怖さを忘れたゆえ」


「そうか・・・」

「ほら、降りてきたよ、もう怖くないよ」


どうやら胡桃ちゃんはどさくさに紛れて俺とキスしたかったみたいだ。

まあいいけど・・・俺もキスくらいはしてみたかったから。


まあ、とこかく胡桃姫は幸太郎を飽きさせない・・・いい意味でも

悪い意味でも。


「あのさ・・・胡桃ちゃんは俺の彼女だよね」

「そう言うの恋人同士って言うだろ?・・・そこんとこ理解してる?」

「俺たち愛し合ってるって思っていいのかな?」


「そちは、わらわをそういうことに無頓着な女と思っておるであろう?」


「幸太郎がいつかわらわが俺の彼女になってくれたら嬉しいんだけどな

って言ったことがあったであろう?」


「うん・・・言ったね」


「わらわがかのじょってなんっじゃって、そちに聞いたら、そちは

胡桃ちゃんの時代で言うなら思人おもいびと?・・・あとは許嫁とか・・・」

「愛を誓い合った人「女性」のこと?って言ったではないか?」


「ゆえに、わらわは苦しゅうない・・良きに計らえって言ったのじゃ?」


「つまり、わらわとそちの心はその時に結ばれたのじゃ」

「もっと言えば、わらわと幸太郎はいつでも夫婦としての契りを結べるって

ことじゃ」


「分かったか?」


「あ〜・・・俺たちいつの間に夫婦になったの?胡桃ちゃん」


とりあえず遠い過去から時空を超えてやって来たお姫様はこの時代で

これからも幸太郎と言う彼氏と平和に過ごしていくことになるだろう。


なわけで幸太郎は近所の人から


「可愛いお姫様、元気〜?」って言われてまんざらな気持ちじゃなかった。


おっしまい。

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お姫様せるふぃっしゅ。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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