第2話 あわてんぼうのサンタクロース

「サンタとはサンタクロースの事か?」

「うん。そうだよ。サンタさん!」

 そんなものはいない。はっきりそう言ってやろうかとも思った。

 しかし真実を知るにはまだ幼過ぎる。

 もう少しだけ儚い夢の中でのうのうと過ごすがいい。


「そのサンタを追ってここまで来たのか?」

 そんな薄着で。

 よく見たら靴下も履いていないじゃないか。

 足をバタバタさせているズボンの裾からは素肌が見えている。

 まったく、こんな格好で外に出て恥ずかしくないのか?


「あまり足を動かすな。鬱陶しい」

 俺は動かないように足首に俺のマフラーを巻き付ける。

 これでもう動かせないだろう。


「それでそのサンタはどこで見たんだ?」

「僕の家の中」

 はあ?商店街とかなら分かるが、家の中はいくらなんでも早すぎるだろう?

 こいつの父親が本番のリハーサルでもしてて見つかったのか?


「お昼寝しててえ、ちょうど起きたらサンタさんがいてえ、サンタさんだーって言ったら、急いで窓を開けて飛び出していったの。それで急いで追いかけてきたんだけど……」

 おいおい。


「なあ、お前の両親――お父さんとお母さんは何をしている?」

「えっとお、お父さんは朝から出ていっててえ、お母さんは家にいるよ」

 母親は家にいる……空き巣というわけではないのか?

 いや、何にせよ、サンタのような目立つ格好をしてうろうろしている人物がいるはずがない。

 それに母親が家にいるのなら、今頃はこいつを捜しているんじゃないのか?


「お前、自分の家がどこか分かるか?」

「んー。あっちのほう」

 子供は商店街のある方を指さした。


「ふう、家まで送っていってやるから帰るぞ」

「やだ!」

 俺が足の拘束具マフラーを取ろうとしゃがみこんだ時に、子供が大声でそう言った。

 ちょうどしゃがんだ俺の耳元で。


「うるさい!叫ぶな!」

 たとえ相手が子供であっても、ちゃんとした躾けは必要だ。

 他人の子供であっても叱る時は叱る。

 俺に迷惑をかけるような大人になってしまっては迷惑だからな。


「そんなに大声を出さなくても聞こえている。別にお前を無理して連れて帰ろうとは思っていない。まだここに居たいのなら付き合ってやる」

 ダウンジャケットとマフラーは無くなったが、まだ下にはトレーナーの上にセーターを着こんで出てきているから寒くはない。

 なので、ここで多少のこいつの相手をして暇を潰していても何の問題も無い。


「サンタさんに会うまでは帰らない……」

「そんなにサンタに会いたいのか?クリスマスはまだ先だから何も貰えないぞ?」

「欲しいものをサンタさんに言うの」

 そんなものは紙に書いて母親にでも渡しておけば伝わるぞ。

 それか口頭で言っていても大丈夫だ。

 だから俺は――


「どんなプレゼントが欲しいんだ?」

 万が一、億が一、こいつの母親に会うことがあって、その会話の中でうっかりと口が滑る可能性を考えて聞いておくことにした。

 こいつの為などではなく、俺の為に。


「お父さんとお母さんが喧嘩しませんようにって」

 いや、そういうのは七夕の短冊に書け。



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