第3話 お呼びでないサンタクロース

「僕が寝る頃になると、毎日喧嘩してるの。だから、サンタさんに、お父さんとお母さんが仲良くなりますようにお願いするの」

 それを頼まれたサンタはたまったものではない。

 夫婦喧嘩の間に、突然赤白の派手な服を着た白髭の老人が挟まってみろ。

 確かに2人の喧嘩は止まるだろうが、今度は外に赤いランプを回した車が走ってくることになる。


「そういうのはサンタに頼むことではないのではないか?」

「どうして?前に観た映画で、サンタさんが行った家の人は幸せになってたよ」

 それはどんな映画だ?

 サンタが現金でも配ってまわったのか?


「お前が観た映画が何なのかは知らんが、サンタはそういうのじゃなくてだな――お前は何か欲しいものはないのか?玩具とかお菓子とか?」

「笑ってるお父さんとお母さんが欲しい」

 だから!そういうのじゃなくてだな!


「だからサンタさんを見つけてお願いするまで帰らない!」

 その前に風邪をひいてしまうだろう。

 ああ、もちろん俺がな。


「じゃあ一緒に探してやるから」

「本当?!」

「本当だから早く立て」

「うん!」

 子供は単純だから扱いやすい。

 とりあえずここから動かして、こいつの家の方へ向かうか。

 途中でついでにサンタを探すのも暇つぶしにはなるしな。


「サンタは賑やかなところに集まる習性があるから、商店街の方へ行くぞ」

 そう言って子供の手を握って歩き出した。


「ねえ、しゅうせいって?」

「生まれつきの癖のようなものだ。クリスマスだと騒いでいると、そこに集まってくる癖がある」

「ふうん。……サンタさんて集まってくるくらいいるんだ」

 クリスマス直前の街を歩いていたら、それこそあちこちにウヨウヨといるぞ。


「ああそうだ。お前名前は?」

 名前も知らない子供を連れまわしているというのは怪しすぎるからな。


「けんじ」

「そうか。ケンジ、お前の見たサンタはどんな格好をしていた?」

「もこもこしたサンタさんの服で、黒いブーツを履いてた」

「白い髭はあったか?髪の色は?」

「うーん、顔は見てないからお髭は分かんない。でも、髪の色は黒だったよ。多分まだ雪が降ってないから」

 別に雪で白く染まるわけではないだろうが、子供の発想力というのは常軌を逸しているな。

 ただ、今の証言で、ケンジの見たサンタが不審者である可能性は高まった。

 何かの目的、この場合おそらく窃盗だろうが、その目的の為に家に侵入したが、偶然ケンジにその姿を見られて逃げ出した。

 窓を開けて逃げたということだから、他の部屋の窓から侵入し、母親に見つからないまま家の中を物色していたのだろう。

 母親に見つからないように家の中を?


「なあケンジ。お前がサンタを見た時に、お前のお母さんがどこにいたか分かるか?」

「うん。知ってるよ」

 自信満々の笑顔を向けてくる。


「お母さんはサンタさんと一緒の部屋にいたよ」

 おいおい……。



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