八百万学園新聞部 ホームズのクリスマス

八月 猫

第1話 季節外れのサンタクロース

 12月に入ると街はクリスマスムード一色。商店街に並ぶ店の店頭は無駄に赤や緑の飾り物で装飾され、道行く人たちに洗脳と思う程に意識を植え付けている。

 こんな早くからやらなくても良かろうと思う。

 幼い子供のいる家庭ならまだしも、俺のような一介の高校生にとって、クリスマスなどというイベントは何の意味も無い。誰と祝うわけでもないし、何を祝うわけでも無い。

 何故世間の若者はこんなにも浮かれているのだろうか。

 俺にはこれっぽっちも理解できない。


 日曜日の午後、俺はそんな落ち着きのない商店街にある書店で本を買った帰り道、少し町外れにある公園の前を通りかかった。

 厚い雲が空を覆い、今にも雪が降りだしそうな天気で、顔に当たる風は肌に突き刺さるような冷たさだった。

 そんな真冬の寒さの中で公園のブランコに座る子供の姿が目に入った。

 上下グレーのスウェット姿で、その上には何も着ていない服装は、この寒さの中を出歩くにはどう見ても不似合いな恰好に見えた。

 俺は公園の入り口で足を止めて少年を見る。

 じっと下を俯いたまま、軽くブランコを揺らしている。

 幼稚園児?小学生というには幼過ぎるように見える。

 寒くないのだろうか?子供は寒さに強いから平気なのか?そもそも一人で何をしているのか?親はどうした?こんな寒空の中であんな小さな子が1人で出歩いていたら危険だろう。

 まあ、俺には関係ないことではある。

 風邪をひくかもしれない。しかし、この道は他にも人が通る。親がすぐに迎えに来るのかもしれない。別に俺が今すぐどうこうしてやる必要などない。

 迂闊に声をかけて通報などされたらたまったものではない。

 そう考えて、俺は再び歩き出す。


「ここで何をしている?」

 俺が近づいてきていることにも気づいていなかったのか、子供は体をビクッとさせてブランコがガチャガチャと音を立てた。

 別にこの子のことを心配したわけではない。ただ、何か気になったのでスッキリさせたかっただけだ。


「一人なのか?親は?寒くはないのか?」

 子供は俺の顔を見つめるだけで何も言わない。

 よく見ると、その小さな身体は小刻みに震え、ブランコのチェーンを握っている手は寒さで真っ赤になっていた。


「おい、これを貸してやる」

 子供の手を取り、自分のはめていた手袋を無理やり履かせる。

 俺が着ていたダウンジャケットも脱いで着させたが、サイズが違い過ぎて脛の辺りまで隠れている。

 不格好なのが嫌なら勝手に脱げばいい。俺はダウンジャケットの前のジッパーを一番上までゆっくりと上げた。

 この子が寒かろうと風邪をひこうと別に構わない。だが、震えて俺の質問に答えられないのでは困るからな。


「どうだ?少しは寒くなかろう」

「……うん」

 子供は戸惑うような小さな声でそう呟いた。


「それでここで何をしている?何故家に帰らない?」

 迷子、というわけではないだろう。そもそも親と出かけてきたという恰好ではない。


「さんたさん……」

「はあ?!」

「サンタさんを追っかけてきたの」

 子供は俺の顔を見て、はっきりとそう言った。



 これが俺、片難かたなだ六駆ろっくの高校生活最初の事件の始まりとなった。 

 


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