第4話

 スズキちゃんの甲高い笑い声は混み合った店内でもよく響いて、トイレから戻ってくる途中の僕にもよく聞こえた。閉店後の締めの作業の後、新宿の東口にできたばかりの飲食街に行ってみようと言い出したのはアサミくんで、新しもの好きの彼らしい、いつもの提案だった。

「先輩、迷っちゃったんですか」

 と、スズキちゃんがドラム缶を模した丸椅子から立ち上がって、叫ぶように僕を呼ぶ。

 僕たちがいるのは地下のワンフロアのはずだった。だけど、屋台風の装飾や無数の赤提灯、ネオンやLEDの明かりが、カラフルや派手という言葉よりももっと過剰なものとして視界をさえぎって、フロアの端がどこにあるのかわからない。テーブルと椅子がほとんどすき間なく並べられ、それ以上にひしめき合った客たちをかき分けて進み、ようやく自分の席に戻ってきた。

「すっごい人だよね」

 と、アサミくんも叫ぶように言う。周りが騒がしすぎて、向かいにいてもそうしないと声が通らなかった。三人が座るには少し狭すぎるテーブルの半分をクーラーボックスが占めていた。クーラーボックスにはレモンサワーと、大量の氷、カットレモンがそのまま入っている。アサミくんは柄杓を操り、僕のジョッキにレモンサワーを注いでくれる。

 スズキちゃんは、まだポケモンの話をしていた。僕がトイレに立つ前から続けている話だった。彼女は最近、買ったというゲームの話を僕とアサミくんに熱心に言って聞かせていた。

 アサミくんはあくびを隠そうともしない。クーラーボックスの中が気になるのか、柄杓をお気に入りのおもちゃのように離さない。中には追加で注文したガリガリ君のソーダ味が三本、浮かんでいる。スティックから取れてしまった溶けかけの氷菓をすくい取り、僕がジョッキを飲み干す前に、レモンサワーと一緒に注ぎ足してくれる。

 酔いが回ってしまうほど飲んだつもりもなかったが、目の前に広がる光景は騒がしく、目を閉じてもまぶたを透かして光が入り込んでくる。西口にある「思い出横丁」との対比なのか、ネオ横丁だとかクラブ横丁だとか、そんな呼ばれ方をしているらしかった。壁一面にはプロジェクターでどこかの地下アイドルのライブ映像が流され、頭上のあちらこちらでミラーボールが回り、さっきからうまい具合に光が当たってはす向かいのスズキちゃんの髪が青く発光しているように見える。

 ゲームの中でどこかに行ったという話だと思っていたら、いつの間にか、マッチングアプリで知り合った男と遊びに行った、という話に変わっていた。

「香水がくっさかったんですよ、そいつ。カレー、食べに行ってるのに、そのにおいの方が強くって」また笑い声を上げる。「そいつの、甘ったるい香水を食べてるみたいでしたよ」「しかも、夏なのにごてごての革のブーツだったんでしょ。足が、くさいんだよ、絶対」だっはは、とアサミくんは笑いながら、ちょっとタバコ吸ってくるね、と席を立つ。手にはボールペンのような電子タバコ。「自分の話ばっかりで、しかもそれがつまらないんですよ?」スズキちゃんは続ける。続けながら、向かいの席から僕の左隣に移動してくる。

「目つきだってキモかったし、語尾がいちいちうわずって、キモいし」

 彼女はクーラーボックスに手を突っ込んだ。氷を一つつかんで、口に含むと、「ああ、ひゃっこい」と目を細める。指の先から水滴が落ちてテーブルを濡らす。氷菓のビニールの包みが細く割かれ、テーブルの上に濡れたまま張りついている。

「めっちゃキモがるじゃん」と僕は笑い、「じゃあ、足し算で考えてみたら?」と言った。

 テーブルは食べ散らかされた皿が下げられることもなく、いつまでもそのままだった。焼き鳥の串だけが残った皿、こぼれたビールを拭いたおしぼりにできた何かのシミ、たぶん、メンチカツを食べたときのウスターソース、かじって置いたレモンの皮、「人を、嫌なところで引いていく、引き算じゃなくってさ。その人のいいところ、一個もなかった?」割りばしが一本だけ刺さったままのグラス、長皿の真ん中で大根おろしの汁に浸り続けた卵焼き、僕は最後の一切れを指でつまみ、口に運ぶ。

「んー、あ、おごってくれました。あと、背が高かった。でもそれは、ブーツだったからかもしれないし」

「難しいね」

「難しいですね」

 彼女はうなずいて、僕を見る。僕の顔を、目を、のぞき込むようにする。だから見えた。彼女の黒目に映った僕のトルソー。

「何か、もっと食べたいです」濡れたメニューの水滴を払って飛ばし、小さな小指の先の爪で指し示す。「先輩は何がいいですか」「いいよ、食べたいの、選んでよ」スズキちゃんは嬉しいのか、鼻のつけ根にシワを寄せて、笑顔をつくった。

 店員が注文を取ってしばらくしてから、たい焼きが二つ運ばれてきた。ほとんど目を閉じているような細目の、愛想のない女性店員が置いていったのは、電子レンジでの解凍をしすぎたのか、足りなかったのか、しなしなのたい焼きだった。それでもスズキちゃんはおいしそうに食べた。僕のを、腹から割って半分渡すと、それもおいしそうに食べた。

 食べ終わる頃にアサミくんが戻ってきて、

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

 と、言うから、

「お会計して来るよ」

 と、今度は僕が席を立つ。

 会計で領収書を切り、その足でもう一度、トイレに寄った。便器に腰をかけると、扉の内側の落書きに気づく。

「しんじゅくの ちかのりゅう すべてわすれた?」

 ボールペンのようなもので書かれた細く弱々しい線が、下手なひらがなを表していた。トイレの個室は狭く、手を伸ばせば扉に触れて、落書きに触れて、何か返事を書こうかとも思ったが、書くものを持っていなかったから、やめた。

 スズキちゃんを南口の小田急線の改札まで見送って、僕とアサミくんは山手線で渋谷に向かう。

 JRの改札を出たところで、

「この後、まだいいでしょ? ちょっと、うちに寄っていきなよ」

 と、アサミくんが言うから、田園都市線に乗り換えて、途中の駅で降りた。

 彼のマンションには何度か行ったことがあった。以前は彼の恋人のナオコさんも一緒に、三人でお酒を飲みながら、ただテレビを見たり、ゲームをしたりして過ごしたこともあった。

 部屋に入るとアサミくんは「何か飲む?」と聞きながら冷蔵庫から「ほろよい」の「もも」味を二本取り出して、片方を僕に渡した。彼はデザート代わりにそれを飲むのが好きだった。

 玄関から台所を抜けて、リビングとして使っている六畳に通される。アサミくんは座椅子に、僕は彼が投げて寄こした苔玉みたいな丸クッションに座った。アサミくんがテレビをつけると、深夜のニュース番組が流れる。テレビは音を絞ったままで、画面だけが次々と切り替わっていく。ただぼんやり見ていると、アサミくんの喉の奥からゲップが聞こえた。水を飲みすぎた犬がするような、小さなゲップだった。

「違う違う、テレビを見てる場合じゃなかった」

 彼はそう言いながら立ち上がり、僕の背後の扉を引いた。引き戸を開いた隣の部屋は寝室だったからまじまじとは見なかった。だけど、セミダブルのベッドは変わりなくそのままだった。テレビに視線を戻すも落ち着かなくなって、テーブルの上に開けたままになっていた缶に手を伸ばす。

 半年も前に別れたはずだったが、部屋にはナオコさんの荷物が少し残っていた。たとえばテレビの脇にある本棚にはアサミくんが到底、読まなそうな「スヌーピー全集」や古いフランス映画のブルーレイが無造作に置かれていた。

「あれ、どこにやったかな」

 と、アサミくんが寝室でつぶやくのが聞こえる。

 マンガと文庫本の小説が入り交じって並ぶ本棚をながめながら、そういえばナオコさんは三島由紀夫の「月」が好きだったとか、そんなことを思い出した。

「ジュンくんは、なんていうか、すきがあるんだよね」と言われたこともあった。「すきっていうか、人が入り込む余地っていうのかな。自分が話し始めようとして、実際にそうする前に、誰かが話し始める。それで、嫌な顔なんてしないで、静かにうなずいてる。でしょ?」

 クッションに座りながら目一杯に左腕を伸ばす。何とかカーテンに触れるとそのまま勢いよく引いた。一階の部屋で、目隠しもない窓だったから、すぐ外に雑草だらけの地面が部屋からの明かりに照らされている。マンションの裏手、物干しざおとエアコンの室外機が置いてあるだけ、ただそれだけの、庭とも呼べないスペースだ。

 だけど、この場所でナオコさんは、

「猫、来ないかな」

 と、言い出して、窓の下のコンクリートにシーチキンの缶やサキイカや、柿の種のピーナッツや、思いつくかぎり何でも置いてみた。

「そんなんで来るのかよ」とか、「猫に食べさせたらだめなんじゃないの」とかアサミくんはぼやいて、ナオコさんはそのたびにテキトウな返事をして、僕はそれをただおもしろく見ていた。そのうちにナオコさんはキャットフードまで買い出して、いつの間にか何匹かの猫が彼らの部屋に通うようになった。

 ナオコさんは原宿にあった、僕たちの店とは違う系列のショップに勤めていた。それで、ニューヨークだったかロサンゼルスだったかに行くとかで、今はもう日本にはいなかったはずだ。猫たちだって、エサが置かれなくなったから、もう姿を見せることはなかった。

 アサミくんが隣の部屋から戻ってきて、

「ああ、エアコンつけようか?」

 と、言って、冷房のスイッチを入れた。

 彼の手にはスキーゴーグルを一回り大きくしたような機械装置があった。

「この前、言ってた、いいものってそれ?」

「そう、ジュンくんにあげるよ」

 受け取ると、ごつい見た目よりも軽かった。ゴーグルのレンズに当たる部分がモニターのようになっていて、光を放っている。ヘッドフォンや留め具のようなものもついていたから、なんとなく使い方がわかりかけたところで、アサミくんが言った。

「ヘッドマウントディスプレイっていうんだけど、つけるとこんな感じ」

 アサミくんは寝室に戻り、ベッドの上に腰をかけた。同じものがもう一つあるようだ。彼の頭部はすっかりディスプレイにおおわれて、口元だけが僕に向かって笑いかけている。

「VRゲームにハマってたんだよ。でも、もうあんまりやんなくなったからさ。あ、コントローラーはそこらへんに置いてない?」

 床に、輪っかとボタンがついたレバーのような装置が一対、置いてある。拾い上げて、手元に置く。座椅子に座り込み、見よう見まねでディスプレイをかぶるように頭につけると、モニターで視界がおおわれる。白背景の中を「Now Loading」の黒い文字が横切っている。ながめているうちに「o」の文字がぷるぷると震え始めた。そうかと思うと、文字の列を離れ、僕に向かって転がってきた。テニスボールくらいの「o」が二つ、人懐っこい小動物のようなスピードで。足元に来たから、思わず頭ごと下を向くと視界も下を向き、僕に足があることに気づく。右手に握ったコントローラーを上に振った。すると、白いショートブーツを履いた右足が「o」を二つまとめて蹴飛ばした。「o」は気持ちいいくらい遠くまで飛んでいく。飛んでいった先から青い光が広がって、気づいたら空港のターミナルのような空間に立っていた。

 だだっ広い通路と待ち合いロビーの椅子、手荷物検査の受付カウンターには見覚えがあった。どこかの国際線を模したのだろう。壁一面のガラス張り、その向こうには青空と、ご丁寧に飛行機の離着陸が見える。二階、三階のフロアも吹き抜けから見えた。ただ、天井はどこまでも高く、光の中に果てがなかった。

 目の前を人影が通る。人の形をした青い影で、胸の中心には白い球体が浮かんでいる。次の瞬間、人影は、アニメかゲームのキャラクターのようなツインテールの女の子になった。彼女は黒髪とセーラー服をなびかせて、ロビーの向こうに走り去っていく。

「おーい」

 アサミくんの声がした。耳元のヘッドフォンから聞こえるアサミくんの声と、その向こうから隣の部屋にいる彼のかすかな声が重なって聞こえる。

 コントローラーを動かしてみたり、頭を振ってみたりして、どうにか、あたりを見回すとボインの黒人女性が近づいてくる。

「どう、おれのアバター、いいっしょ?」

 と、彼女はアサミくんの声で言った。彼女は、というか、アサミくんは海外セレブが着るような胸元を大きく開けたドレスを着ていて、動くたびに全身の肉が揺れた。まず顔いっぱいで笑い、それからクラップをして、最後にクラッカーを僕に向かって打ち鳴らした。

「細かい操作は後で教えるから。とりあえず、別のワールドに行こうか」

 そう言って歩き始めるアサミくんについていく。ジャンボジェットが窓のすぐそばを通っていった。窓ガラスが小刻みに揺れ、コントローラーもそれに合わせて震えている。アサミくんが窓ガラスに触れると、その一枚が鏡になって僕たちの姿を映した。鏡に映った僕は筋骨隆々、金髪角刈りの男だった。僕の頭上にはアイコンが浮かんでいて、「Nao」とあった。アサミくんには「oAw」とある。「何? オーエーダブリューって」と聞くと、「ワンス・ア・ウィーク」とだけ答える。

 上階につながるエスカレーターに向かう彼を追いながら、彼の名前がアサミシュウイチであることを思い出す。そういったまわりくどさに、目の前にいる女性がアサミくんであることをあらためて感じる。

 一つ上のフロアに上がるとたくさんのアバターがいて、現実の人ごみにいるようなざわめきも聞こえる。美少女キャラクターだけでなく、モンスターやエイリアンみたいなものもいて、和洋の入り交じった百鬼夜行のようだ。さっきログインしたフロアと同じつくりだったが、電光掲示板がいくつも宙に浮いている。館内アナウンスが聞こえ、続いてBGMも流れ始める。

「久しぶりだから、知らないのばっかりだな。とりあえず、一位のワールドに行ってみようか」

 掲示板を見上げながらアサミくんは言って、ロビーから枝分かれしている細い通路に進んでいった。搭乗ゲートが見えてくる。改札機は自動で開く。無人のゲートを抜けると青い光が僕たちを包み始める。

 また、「Now Loading……」今度はすぐに終わった。

 視界いっぱいに都心の夜景が広がった。超高層マンションの一室にいるようだった。窓からの景色は見下ろすような角度だったから、想像もつかないほどの高さにいるのかもしれなかった。雨粒が窓に打ちつけて眼下の光をにじませている。時おり、光の線が幹線道路に沿って流れた。正体を確かめようと、じっと目を凝らす。

「このゲーム、VRに慣れるにはちょうどいいよ。ただ歩くだけだしさ」

 振り向くと、巨大なベルベットのソファにアサミくんが寝そべっていた。ほとんどキングサイズのベッドくらいの大きさだ。

 ドレスの裾から太ももがあらわになりながら、

「じゃ、次に行ってみようか」

 と、宙に手をかざし、見えない何かを触るような動きをした。

「次はすごいよ」

 彼の言葉とともにワープが始まる。

 視界が空に向かって開けた。交差点の真ん中に立っていた。ただ、車は一台も走っていない。見覚えがある。それはそうだ。ラフォーレや東急プラザがリアルとそっくりに再現されている。原宿の神宮前交差点の真ん中に立っている。そうだと気づく。

 リアルと違う部分もいくつかあった。歩道を埋めつくすほどの人がいない。その代わり、何人かのアバターがふわふわとした足取りで行き交っている。角の大型ビジョンではアメリカの古いカートゥーンキャラクターが画面上を所狭しと駆け回る。それに、現実では工事中の一画に、一足早くファッションビルができていた。

 アサミくんが先導してくれて、「ちゃんと、うちの店もあるんだよ」と教えてくれる。車道を駆けて、青々とした並木を見上げながら路地に入っていく。思えばついさっきもこの道を通った。いや、通ったのはリアルの方だ。商店街のフラッグや街路灯、オープンカフェとその立て看板、終わることのないショップ、ショーウィンドウの数々、自販機のすき間にある抜け道までそのままだ。

 うちの店の向かいには目印となるテナントがあった。パリのアパルトマン風のテナントでパステルカラーの外観が三軒、並んでいるはずだった。アサミくんと路地を進むと見えてきて、やっぱり正確に再現されていた。

「なんか、変な感じがするよね。ゲームの中に自分の店があるってさ」

 先に店の前に着いたアサミくんが言った。

 細い間口、ガラス戸はグレーがかり、中の様子は見えなかった。

「店の中に、アサミくんとスズキちゃんがいたりして」

「そこまで再現されてたら、さすがに怖いなあ」

 アサミくんは笑いながら、小さく息を吐く音を立てた。タバコのにおいを感じた。隣の部屋で彼がタバコを吸い始めたのだと気づく。

 キャットストリートまで戻り、歩いていると、

「あんまり人がいないねえ」

 と、アサミくんがつぶやく。

「時間帯かな」

「そうなんだ」

「うん、深夜になるほど、人が増えてくるよ」

 さっきまで明るかった空が急激に暮れ始めた。僕たちの影がみるみる背を伸ばし、空は赤く、視界の隅から順に明かりが灯った。

 街路灯や道路標識と並んで時計のついたポールが立っていた。文字盤のところに「修理中」と手書きの張り紙がしてある。時計の下には一人のアバターがいた。誰かと待ち合わせをしているようにも見えた。赤いパーカー、フードをかぶった頭からは金髪のパーマが抑えきれずに、はみ出していて、色眼鏡が濃いからサングラスのように瞳が見えなかった。近くを通りかかると、そのアバターから吹き出しが飛んできて僕の目の前に浮かんだ。

「きみのラブを僕にちょうだい」

 と、レターチャットには書かれていた。

 立ち止まり、何と答えたらいいのかわからず、そのアバターと少しの間、向き合った。エモーションをしないばかりか、無表情なのは気味が悪かった。

 かまわず歩き続けるアサミくんを追って、

「ラブって何?」

 と、尋ねる。

「ああ……もう少し、離れようか」

 アサミくんは後ろを探るように振り返り、しばらく歩いたところで立ち止まった。彼がメニュー画面を操作すると、僕に向かって今度は星が飛んできた。黄色い星型、手の平サイズのアイテムはスパンコールのようなエフェクトを放ちながら僕の周りを一周し、僕の胸に吸い込まれていった。

「それ、ライクね」

 と、アサミくんはグッドサインを頭上に掲げている。

「このゲーム内の通貨みたいなもので、ライクとラブがあるんだけど、たくさん集めるとアバターの装備とか、ワールドクリエイトに使うアイテムとかに交換できるんだよ。で、課金するんじゃなくて、他のプレイヤーからもらうしかないんだよ」

「じゃあ、あげてみようかな」

「やめときな。ああいうのってたまにいるんだけど、関わらない方がいいよ。変に粘着されても嫌でしょ」

「そうなんだ……ラブはどんな感じなの?」

「ラブはね、今日の分は、さっき、推しにあげちゃった」

 アサミくんの声が笑った。続けて顔が風船みたいに大きく膨らんで、けたけたと笑いながらリズミカルに揺れた。

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