第18話 司祭

東の果てにヒイズル国という鎖国国家がある。

 マスターレベルの忍者と侍が100人以上存在し世界最高の魔剣鍛造技術を持つ国家だ。


 これだけ聞けば世界最強の軍事国家なのではと思うし実際に短期戦では超強い。


 しかしこの国は宗教観がイカれてるので極端に白魔法使いが少ない。長期戦に異様に弱いので国家の武力は中の上止まりだ。


 そしてこの国はワルドナの生まれ故郷でもある。


 奴はかの国の高位貴族の家に生まれた。

 その上生まれながらにして金髪侍すら超す異常な暴力の才を持った天才であった。


 黒魔法と侍、忍者への抜群の適正があるのはもちろんだがヒイズル人としてはかなり希少な白魔法の才を持っていたため奴が白魔法使えると知った際には家中大喜びだったらしい。



 奴は天賦の暴力の才に反して虫を踏み潰せば罪悪感で3日は泣き止まない、近所のガキに殴られては泣いて逃走(殴ったガキは後で処された)、痛みにも極端に弱いと精神面において戦士としてやっていける要素が皆無であった。


 それでもなんとかワルドナは成長していったが貴族の家の出であるため何回も戦争に駆り出された。


 殺すのも傷つけるのも傷つけられるのも大嫌いな奴にとって地獄のような経験だっただろう。


 戦争を憎んだワルドナは20年間くらいかけて色々と戦争無くそうと頑張っていたみたいだがまあことごとく失敗したようだ。


 その結果奴はがっつり病んで誰も傷つかないためには片っ端から洗脳すれば世界は平和!麻薬で脳みそぶっ壊せばみんな幸せ!というクソみたいな結論に達した。


 達するだけならともかく広域洗脳の魔術ブッパして周辺国家を大変な事にしたため国外へ追放、なんだかんだで狂王に拾われ今に至るというわけだ。


そして奴が目をつけたのは古代に存在した系統外魔術の■■■■■■魔術。


 広範囲に麻薬に似た成分を散布し最高の快楽を与え死んでいないだけの生命にさせる魔術。


 これを受けた相手は快楽のあまり体のあらゆる水分を放出して干物の様になりながら満面の笑みを浮かべて寿命がくるまで生きてんだかしんでんだか良く分からんゴミとして過ごす。


 元々は未来予知の能力を持ちあらゆる攻撃を回避する魔物に対抗するために作られた魔術らしい。


 その魔物は未来予知により探知した快楽に抗えずに自らこの魔術を受け無力化された。


 ともかく奴の目的は魔除けの解析、人体実験によりこれを習得、その後地上の人間を麻薬煙によって飼い殺しにすることだ。


 恐らく普通に生きた場合の幸せの総量よりも麻薬煙で生ける屍になった場合の幸福の方が多いのだし問題ないと思っているのだろう。


 実際5層でワードナに殺された冒険者達の何名かは蘇生され生ける屍に改造されている。

 司祭も元々はその内の一人だったようだ。





改造される前の司祭は盗賊王であった。



 本物の悪党の悪は脳に宿るのか、魂に宿るのか、記憶以外のすべてを破壊すれば悪性は消えるのかという実験の結果無事ほぼ別人に変えられた司祭


 それでも司祭は快楽地獄を自身の意思で断ち切りワルドナを止める奴を探していたとのこと。


 以前のワルドナとの戦いでもワルドナは思うところがあったらしく悪性に打ち勝ったことへの称賛、実験協力への感謝、もう一度殺してより強力な麻薬天国に漬けるという宣告などをしていたが攻撃は極力控えていた。


 司祭もワルドナの考えは一部共感できる、できてしまう。その考えを否定する何かが欲しいと感じて今も戦い続けると言った。



 それに対し最悪のクズの盗王ですら断ち切れる程度のカスみたいな快楽なんて意味が無い。少なくとも魔術の不安定さというリスクを背負ってまで欲しいものではない。


 色町行って旨い物食って上等な宿で寝るほうがよっぽど確実な幸せだとか言ってみたら司祭は大笑いした。


 こいつもまあまあチョロいなとか思いつつご機嫌を取ってみたのだがその中で君は本当に良い人だねと言われた。


 あんな雑な演技すら見破れずよりによってこの俺を良い人認定とか眼球にガラス玉入っているか脳みそにうんこ入っているんじゃねえのかよこのおっぱいと馬鹿にしていたらもう既に俺の本性を奴が知っている様な事をほのめかされた。


司祭は話を続ける。


 過去の司祭の所業に比べれば今の君の悪性なんて可愛いもの、昔の私…いやが盗賊君の立場だったら小国一つ落として地獄に変え、やりたい放題している。


 迷宮に潜るのを辞めればどんな組織のボスにでもなれる暴力を手に入れてもなおしょぼい事しかやらないし根本的に君は貧乏性でアホなんだろう。と言われた。褒められてんのか貶されてんのか分からん。

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