第5話 無双

 再びの地下三階。


 レベルアップで強化された侍が真空波を三連続で放ち上位火炎魔法と氷結魔法を併用し敵の集団を瞬く間に殲滅する。


 こいつやっぱおかしいわ、なんで物理最強が魔法まで最強なんだよ。


 戦士の成長は侍に比べれば地味だが迷宮で手に入れた真っ二つの剣という新装備が強い。


 今までゾンビを一撃では倒せなかったときもあったが新装備と戦士の成長で確実に一撃で倒せるようになったのだ。


 結局のところ迷宮での戦闘はやられる前にやって敵の頭数を減らすということに落ち着く。


 先手を取って良い攻撃が決まればガスドラゴンの大群ですら無傷で殲滅できるのだ。


 相手を確実に一撃で倒せるようになる事により得られる圧倒的なアドバンテージは迷宮に潜った経験のある人間にしか分からないだろう。


 俺達の不意をついて飛び出してきたゾンビが戦士を麻痺させる。


 その瞬間弾丸の様に飛び出した俺がゾンビの喉元の柔らかい肉を掻っ切る。


 地獄のループで何度も何度も戦ったおかげでこいつらの急所は丸暗記している。


 更に俺の周囲50センチまで拡張された領域がこいつらの体の構造、及び急所を教えてくれるおかげで非力な俺でもこいつらを一撃で仕留められる。


 盗賊の仕事は戦闘中棒立ちするのではなく前衛がやられたらすぐに飛び出して戦線を崩さないようにすることだとあの地獄で学んだ。


 何度も何度も死んだものの死に戻り中に学んだ戦闘経験は無駄ではなかった。


 冒険者の基本生活が三日に一度八時間程迷宮に潜るのが基本のこの街では戦闘経験だけで言えば侍含めたこの町のどんな冒険者よりも多いのだ。


 絶望的な戦闘センスの無さを異常な戦闘経験年数で補っていけている。


 その直後司祭と僧侶からターンアンデッドが飛び生き残りも魔術師の上位火炎魔法で消し炭に変わる。


 この上位火炎魔法は例のゴミみたいな火花魔法のワンランク上の魔法だが威力は別次元。


 ちゃんとまともに攻撃魔法として機能してくれる。


 侍みたいな例外はいるが基本物理攻撃だと一回の攻撃に付き一体倒していくのが基本になるためまともに使える範囲攻撃というだけで強い。


 その後僧侶から飛んだ麻痺解除呪文により戦士が復活。ゾンビにトドメの一撃を繰り出した。


 その後も醜い巨大蛙【ブリーブ】を侍と魔術師の合体上位火炎魔法が消し炭にし、

 新たに睡眠魔法と回復魔法を覚えてまともに戦力にカウントできるようになった司祭がドラゴンフライを睡眠魔法でダウンさせる。


 そこに突っ込んだ戦士と僧侶が一瞬で地面に落ちたドラゴンフライをミンチに変える。



 毒虫が群がって不定形の人間の様な形になった【ポイズンミスト】を戦士が盾を持ってタックルで吹き飛ばし生き残りも俺がスクロールで起動した爆炎で吹き飛ばす。


 そんなこんなしてる内に僧侶が麻痺を食らった。

 仕方ない。僧侶、直してやってくれ。返事が無い。

 そういや麻痺してんの僧侶じゃん、あれ、直せるやつ全滅か?


 僧侶が麻痺したことで今日の戦闘は終了した。

 なんとも締まらない終わり方であった

 しかしこの戦いで俺たちの名前は迷宮都市の新星として轟き始めた。

 それと同時に厄介な連中に目をつけられることにもなってしまったが。



 次の日の迷宮探索では追い剥ぎに目をつけられたため対人戦が勃発。


 今度は侍も人間を殺す覚悟を決めてきたようだ。


 戦闘開始直後に俺はあの地獄で何度もやった通りに魔術師の睡眠魔法の詠唱と手振りを模倣。それと同時に戦士達の隙を見せて相手を引き付ける技術も模倣する。


 俺の知る限り最も恐ろしい魔法は半径八メートルを火柱で焼き尽くす上位火炎魔法でも文字通り死ぬほど苦しい氷結魔法でもなく魔法としては最下層、第一位階に位置する睡眠魔法だ


 迷宮潜ったばかりのペーペーパーティでも先手を取って一発睡眠魔法を打ち込めば今の俺たちですら殺しうる。


 習得が恐ろしく簡単な割に効果が絶大なことからクズ共が好み、犯罪に良く使われるため周辺国家では迷宮外で睡眠魔法を使うだけで死罪になる。



 あまりにも人を殺すのに都合のいい性質から人を殺す魔法と呼ばれている。


 強力すぎるため世界中の魔術師が一致団結して対処法を練ったので、地下4階に潜るレベルの冒険者には対策を立てられてるため無力。しかしそれでも間違いなくこの階層での戦いでは最大の脅威だ。


 ともかく敵パーティからは俺が今その最大の脅威である睡眠魔法を打つように見えているだろう。


 血眼で発動前に俺を殺そうと敵戦士が突っ込んでくる。


 そこに何度も何度もやったように短剣を併せ喉を掻っ切る。何度も戦ったため急所がわかるのは魔物だけではないのだ。


 何度も何度も体感した最悪の感覚が手に伝わる。


 あのループで磨いたクソみたいな技術は俺より遥かに強いであろう戦士の命をたやすく奪った。


 その後も敵の睡眠魔法の詠唱を僧侶が沈黙魔法で妨害し、前線をくぐり抜けて魔術師へと迫った俺が喉を掻っ切る。


 こちらの司祭、魔術師の睡眠魔法が飛ぶ。侍と戦士が暴れる。戦闘は終了した。


 危なげなく勝利こそしたがそれと別の問題が発生している


 侍、僧侶、司祭はゲロ吐いてるし魔術士と戦士も青い顔をしている


 こういうとき、無駄に罪悪感を感じないからクズで良かったと思う。


 いや、ちょっと辛えわ





■□■□


 次の日も探索は特に危険もなく終わったのだが

 死ぬほど重い雰囲気になってしまっていた。

 くらい雰囲気を消すのとここ来てから全員働き詰めであったため休息と宴会を提案した。



 魔術師の宿泊している宿が一番良いところだったので色々持ち込んで宴会開始


 侍、戦士、司祭の持ってきた手料理はどれもかなり出来が良かった。


 なんであんなしみったれた酒場で毎食飯食ってるのか理由が分からない程度には。


 魔術師が持ち込んだ飯も高いのか普通に美味かったが僧侶がカツカレーチャーハンラーメンとかいう豚の餌を持ち込んだときはうっかりキレそうになった。こいつ本当に人間か?


 酒飲んで悪酔いした侍は昨日のアレは正当防衛だと何度伝えても罪悪感に苦しんで、もっと良い方法を取れば殺さずに済んだんじゃないかとかそんな簡単に殺しが正当化されて良いはずがないとかうるせえ。


 マジ面倒くせえなこいつ。


 アプローチを変えて、殺しちまった物は仕方ない、自分が死ぬその時まで罪悪感を忘れずに苦しむことが唯一の供養だ、俺も一緒に死ぬまで苦しむからとか言って誤魔化した。なんか琴線に触れたらしく泣いてた、ウケる。


 酒で僧侶もウザ絡みモードに入って死ぬほどウザい。なんでこんなのが神に使えてるんだ。

 冗談はその平原みたいな胸だけにしろ。


 そんなこんなしている内に宴会はお開きになった


 この1日である程度の心の傷は消え再び迷宮に挑む活力は湧いたようだ。


 明日はもう少し深いところまで潜ろうと思う。

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