第4話 サンタクロース・トラブル01


 イブの夜、サンタクロースに変装するようになって二年目か、三年目の話である。

 

 実はオレは視力が悪い。

 裸眼で片目だと、視力検査で使われる、あの表の一番上の「C」の切れている部分が分からないほどである。

 (ちなみに、あの「C」って、ランドルト環というらしいですね)

 さらに近視に加えて乱視も入っているため、メガネをかけていないと世界はすべて滲んでしまう。

 しかし、サンタに変装したときにメガネをかけていると、さすがに息子に正体を見破られてしまうと思い、サンタになっているときはメガネを外していた。


 ただ、滲んだ世界になっても、住み慣れている家の中なら支障は無かった。

 体が覚えているからだろう、階段を踏み外すことも、柱にぶつかることも、ドアの取っ手を探すこともない。

 家の中ならば、である……。


 その年のクリスマスイブ。息子にプレゼントを渡し、ぺちゃんこになった袋を手にしたオレは、サンタに変装したままの姿で玄関を出た。

 玄関ドアを開け、妻と息子が見送ってくれる。

 当時は住宅街の戸建てに住んでいた。

 玄関を出ると2メートル程度の短いアプローチがあり、高さが胸までの門扉がある。

 オレは息子に手を振りながらアプローチを進み、門扉を開けて表に出た。

 「サンタさーん、ありがとー。バイバーイ」

 一生懸命に手を振る息子に、閉めた門扉の向こうから手を振り返す。

 息子が家の中に入ってくれないと、オレも裏口から家に戻ることができない。

 妻はそれを理解しているので、「さあ、寒いから、お家に入ろうね」と息子をうながす。

 「うん。バイバーイ」

 最後にもう一度手を振って、息子は家の中に入り、その後、ガチャリと玄関のドアが閉じられた。

 オレは十秒ほど待機してから、そっと門扉を開け、家の側面を回り込んで裏口から家の中に戻り、二階の自室で変装を解いて、息子の前へ何食わぬ顔で現れる予定だった。

 が、門扉を開ける前に、ふと背後に何かの気配を感じた。

 振り返る。

 家の前は生活道路になっている。

 自動車がゆっくりと、すれ違うことができるていどの道幅はあった。

その道路に何かがいたのだ。

ちょうど、道路の反対側あたりに何かがいる。

 滲んだ世界で、何か白っぽいものが浮いていたのである。


 ……何だ、あれは?

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