第2話 色々確認しよう!

「おお、見た目が変わってる。」




前世のボクは黒髪黒目、中肉中背のどこにでもいる日本人だったけど、ワイングラスに映りこむ顔は銀髪碧眼だ。


グラスの曲線で横に伸びているけど、そこそこかっこいいんじゃないかな。


視界の違和感から高身長になっていることもわかる。




転生ってどうなるのかなと思ったけど、気付いたらカウンターに立っていた。


何の前触れもなしだ。


味気ないっちゃ味気ない。




とにもかくにも現状確認が最優先だな。


結局あのオジサンに説明不足のまま放り出された。


そういえばあのオジサンの名前すら聞いてない。まあ神様ってことでいいか。




ぐるっと見渡すとそこはこじんまりとしたまさにBARの店内。


カウンターはやや高めで、何の木なのかわからないけど艶のある黒色の一枚板だ。同じく黒色の木製の椅子が八脚、背もたれと座面のクッションはワインレッドのビロードみたいな生地で覆われている。


踊り場が少しあって4、5人用のボックス席が2つ並んでいる。こちらも赤と黒で統一されている。


試しにちょっと座ってみた。座り心地はかなりいい。


頑張れば20人位なら入れるかな?


一人でそんな数のお客さんをさばける気はしないけど。




しかし、このセンスはどうなんだろう。おしゃれなのか?物々しいというか、禍々しいというか、ちょっといかがわしくも感じる。あのオジサンの趣味なのかな?




建物自体がレンガ造りなのか壁はレンガだ。扉は木製で上の方に小さなベルがついている。あれが出入り口だろう。


とりあえず外の確認は後回しだな。扉を開けようとして近づいたらなんか妙な鳴き声?が聞こえたし・・・




ボックス席の奥にあるドアを開けるとトイレだった。洋式の便座が一つだ。男女兼用か。まあ仕方ない。ただ、水洗なのには驚いた。ちゃんと洗面台と鏡もある、あと謎の照明器具。どういう仕組みなんだろう?さすがは神様が用意した店だ。それと鏡であらためて自分の顔を見た。あまりのイケメンっぷりに震えた。この人になら抱かれてもいいってくらいにイケメンだ。まあボクなんだけど。




第二の人生の勝利を噛みしめつつ、カウンターの中へ向かう。


なんと、冷蔵庫に冷凍庫、それに大きめの製氷機があった。すでに稼働していて中は氷でいっぱいだ。


それからシンクと軽い作業スペースが隅にある。コンロなんかはなかった。代わりにアルコールランプを見つけた。




それから備え付けの各種サーバー。最初はよく分からなくて適当にボタンを押したら炭酸水が出てきた。ボタンは10個もあったけど反応があったのは2つだけ。水と炭酸水だ。


試しに水を飲んでみたら美味しかった。水道水ではないね。カルキ臭くないもの。こっちの世界に消毒された上水道があるかは知らないけど。




それから何と言っても大きな棚、カウンターの奥はほとんどがその棚で埋まっている。一部はグラスやジョッキなどの食器で埋まっているけど、大半は空いている。『さあ、ここに酒を並べろ!』というあのオジサンの声が聞こえてきそうだ。




カウンターの一番奥棚がなくなっているところに小さなドアがあった。バックヤードにでもつながっているのかな?


ドアの先には下りの階段があって地下倉庫かなと思って下りてみると、どうやらここはボクの居住スペースらしい。広々とした部屋は一階のBAR部分より少し広いのかもしれない、間仕切りはなくてワンルームだけど、ベッドとソファーとテーブルそれにワークデスクにクローゼットまであるのに余裕がある。元日本人のボクへの、いや、じいちゃんへの配慮なのか小上がりになっているところがありがたい。




部屋の奥にはトイレと手足を伸ばしたまま入れる大きな湯舟付きの風呂場まであった。


これで一通りは見て回ったかな。細かい設備なんかは追々確認していくことにしよう。




さて、あのオジサンは詳しいことはメニューを見ろって言ってたな。




「メニュー!」


何も起きないね。


「ステータス画面!」


反応なしか。


「ウインドウオープン!」


これも違うの?




一人で騒いで、なんかバカみたい。あ、なんかじゃなくて完全にバカだった。


ワークデスクの上に日本語で『おしながき』と書かれた冊子が置いてある。


メニューってそういうことなの?紛らわしい!JAR○に電話するぞ!広告じゃないけど。




手に取って開いてみると見開きの白紙だった。いくら睨んでみても何も書かれていない。


と思っていたら急に文字が浮かんできた。ありがたいことに日本語だ。




『リョウジさん本人であることを確認しました。メニューの目次を表示します』




メニューの目次ってなんだよ!とも思ったけどここは華麗にスル―。質感は完全に紙なのに電子端末みたいな操作性なのも一旦保留。




表示されたのは


・メニューについて


・この世界について


・この店の現在地について


・使命について


・店内の設備一覧・取扱説明書


・地球のお酒の入荷方法について




エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ・・・


なんて膨大な資料だ。指先で目次をさっさとスワイプしていくけど何百ページ分あるんだこれ?


これじゃあ、目次読むだけで何時間もかかりそうだ。




取り敢えず目次の最初メニューについてをタップする。




『このメニューには、リョウジさんがこの世界で使命を果たすために必要な情報が網羅されています。』




ふむふむ、メニューというよりはマニュアルと取説だな。




『とはいえ、その情報量は膨大なためまずは目次の6308項を確認することをお勧めします。』




ほうほう、6308項ね・・・って最終項じゃないか!




『これさえ読めば一安心、お手軽異世界BAR経営』


「こういうのは、一番上に置いとくもんだろ!」




おっと、ついついツッコんでしまった。まあしょうがないか、ボクとじいちゃんを間違えて何千年分もの神力?とかいうものをパーにしかけちゃうような神様の仕様だもんな。




でそこに書かれていたことを要約すると、


この世界はアーカールという。


文明は全体的には地球で言うところの大航海時代くらい。


ただし魔法が存在するため一部、現代地球よりも発展している部分もある。


ボクの使命はあのオジサンに言われた通りこのBARで地球のお酒をアーカールの人たちに飲ませること。特にノルマ等はない。これはありがたいな。


こちらで地球の酒が飲まれると地球の神様であるバッカスの神力が回復するのでその内の1割があのオジサンの取り分になるらしい。


さらにそのうちの5割がボクの取り分なんだって。


神様である、あのオジサンと五分五分でいいのか?と疑問に思ったけど、ボクの取り分には経費も含まれているからいいんだってさ。


そもそも神力をもらったところでどうすればいいんだ?とも疑問に思ったけど、私的に地球の物資を転送したりだとかに使えるらしい。これもありがたい。


何よりボクはあのオジサンの眷属であり、亜神扱いだから神力をためるとパワーアップするんだって。




「え、ボクって人に転生したわけじゃないの?」


「はい、亜神としてアーカールに転生されました。」




さっきから伝聞調でお送りしていたのは、彼?彼女?が質問に答えてくれていたからだ。


アレ○サや○リよろしく、ふと僕の口をついて出た疑問にメニューが音声で返答したんだ。


魔法でできた人工知能らしいのでボクはMAI、マイと名付けた。


わからないことがあったらその都度マイに聞けばいいわけだ。




「ところでマイ、さっきから地上でものすごい音がしているみたいなんだけど大丈夫なの?」


「はい、問題ありません。この建物はメリクス様が消滅でもしない限りビクともしません。」




ちなみに、メリクス様というのはあのオジサンのことだ。




「そう、それを聞いて安心・・・していいのかな?何かの鳴き声に聞こえるんだけど?」


「あの鳴き声はおそらくドラゴンだと思います。」




そっか、この世界にはドラゴンがいるのか。

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