第3話 はじめてのお酒
「じゃあ、外のドラゴンは放置しててもここは安全なんだね。」
「はい、たとえドラゴンが100匹束になってかかって来ても大丈夫です。」
なんか広告に使えそうなフレーズだな。
「では、使命でもあるし、開店準備を始めようか。」
「リョウジ様をサポートします。」
「まずは、なんてったってお酒の準備なんけど・・・取り寄せ可能なお酒の一覧ってある?」
「地球で飲用のアルコールとして認識されているものなら家庭で造られている果実酒や密造酒はたまた、沈没船に眠るお宝ものの酒まで全て取り寄せは可能ですが、その数は兆を軽く超えるためワタクシの処理能力を超えています。よって大変申し訳ございませんが一覧表示はできません。お酒の種類、原料、製法、製造年、製造国、製造メーカーなどから逆引きしてください。」
「そうかー、ボクが知っているお酒なんて高が知れてるから困ったなあ。」
「重ねて謝罪いたします。」
「いやいやマイのせいじゃないから気にしないで。」
こういうところはじいちゃんの知識頼みになるはずだったんだろうな。まあとにかく知っているお酒からこつこつ始めていこう。
「それじゃあ、マイ、まずはビールを頼む。日本のメーカーで・・・」
「条件に一致するお酒を表示します。」
正直何から始めようか迷った。好きなお酒があるわけじゃないし。それであれも何かの縁だったということでボクが踏みつけて転んでしまった。日本メーカーのビールにすることにした。
とはいえ、そのメーカーの造っているビールの種類だけでも10以上ある。マイがラベルを画像で表示してくれなかったら、何のことやら訳が分からなかっただろう。で無難なボクはスタンダードなビールを選んだ。
「樽、ビン、缶と取り寄せが可能ですが、いかがいたしますか?」
「せっかくだし、樽にしてみようかな」
「現在のGPは5000です。日本○○社製のビールの樽の大きさは3つあります、必要なGPはそれぞれ30GP、50GP、65GPです。どれになさいますか?」
「取り敢えず30GPのやつでお願い。」
「こちらでサーバーに直接セットしますか?」
「お、そんな便利な機能もあるの?じゃあお願いするね。」
サーバーの使い方とかも追々勉強していかなきゃだけど、やってくれるっていうならやってもらおう。
なんてことを考えているうちにカウンターの奥が淡く光ると小さな金属製?の樽が現れた。カウンターに備え付けられている機械に繋がっている。
「転送の成功を確認しました。残りGPは4970です。」
「ありがとうマイ。」
ちなみにGPとは神力を数値化したものだそうです。これを増やすのもお仕事の内っとメモメモ。
さて、では早速ビールの味を確かめてみますか。
棚からジョッキを取り出して注ぎ口にあてレバーを引く。
ブッシュゥー
「うわっ!」
「注ぎ始めは泡が噴き出る事があるのでご注意ください。」
「そういうことはやる前に言ってほしかったな・・・」
「申し訳ありません。」
「いや、悪いのはボクなんだけど・・・」
顔も髪もベタベタになってしまったので、先にお風呂に入ることにした。ふふふ、風呂上がりの一杯は格別だっていう話だし、ちょうどいいよね。怪我の功名だ。
風呂上がりにさっぱりした気持ちでクローゼットを開けると、そこにはバーテンダーの制服がずらっと並んでいた。同じものばかりが・・・狂気を感じてゲンナリした。下着や靴下まで全部統一されているなんて。
それしか他に服がないので仕方なく着替え完了。気持ちを切り替えて一階へと戻った。
「では、改めましてっと」
お風呂に入る前に冷凍庫に入れてほんのり冷やしたジョッキにシューという炭酸ガスの音と共にビールが注がれていく。
淡い黄金色の液体に小さな気泡が踊っている。その上にのったきめ細かい真っ白な泡はふわふわで少しジョッキから溢れているのに形を崩さない。
「いただきます。」
上唇でふわふわの泡を抑えて一気にのどに流し込む。シュワシュワと優しい刺激が駆け抜ける。
ぷはー
「これがビールかぁ。思ってたよりちょっと苦いかな。でもイヤじゃない。」
口の中に残るのはほのかな苦みと酸味。鼻から抜けていく空気が馥郁としているのを感じる。
これは、風呂上がりでまだ少し火照っていた体に染み渡ってたまりませんね。
「あ、そういえばボクってまだ十九なんだっけ?まずかったかな?」
「リョウジ様は地球の現地時間ではあと十三日間は十九歳ですが、この世界に飲酒に関する法律がある国は現在一国のみです。それにこの店の現在地は今現在どこの国の領土でもないため、そもそも問題の起きようがありません。」
「そういうもんか。」
言われてみれば、あれをやっちゃダメこれをやっちゃダメなんて決まりごとはその社会の中でしか通用しないよな。そんなことより問題なのは・・・ここがどこの国の領土でもないってことだ。
「ねえマイ、ここから一番近い町までどのくらいの距離があるんだい?」
「町とよべる規模のものは半径500キロメートルにわたり存在しません。一番近い町はここからおおよそ南南西へ505キロメートルの位置にあるナゴラになります。」
東京大阪間の直線距離よりはるかに遠いじゃん!高速道路通って行くとだいたい500キロだっけ?
「・・・村や集落なんかはどうだい?」
「半径450キロメートルより外側には無数に存在します。」
なるほど、東京福岡間を直径にした円より広い範囲に、人の生活拠点はないのか。
なあオジサン、なんでこんな場所に店建てたんだよ!
「近くに大きな交易路が通っているとかは?」
「ありません。」
だよな、さっきから一段と外が騒がしいもの。あの音、全部をドラゴン達が出しているとしたらここって相当危険な場所だよなあ。てか、ほんとにこの店ビクともしてないけど、明らかにドラゴン達はこの店に攻撃してるよね。じゃないとこんなに近くで咆哮とか聞こえないもんね。
「じゃあ、せめて・・・一番近くにいる人は?」
「ここから一番近くにいるヒト種までは北東に10キロです。」
「あれ?結構近いね?」
やっとまともな数字が出て来て安心したよ。それでも徒歩で2時間以上はかかる距離だけど。
でもその人こんな何もない、いや危険しかないところで何してるんだろう?
「その人は一人かい?」
「200百人程度の集団です。」
「ん?村や集落はないんじゃなかった?」
「その集団はテステリア国の軍の部隊です。」
「軍の部隊?遠征中かなにか?」
「いえ、前線基地の駐留部隊です。」
「あ、そうなの・・・」
すごく嫌な予感がする。
「他にもそういう基地があるの?」
「補給基地や中継地点を合わせると、半径50キロメートル以内に49あります。」
「全部テステリアっていう国のもの?」
「いいえ、細かい内訳は省きますが、現在この地を監視しているのは6か国です。」
「ああ、そうなの・・・」
マジで!なんで!こんな立地に!店を!建てたんだー!
グォオオオオオオン!グロロロロ!
ボクがあまりのことに打ちひしがれていると、ひときわ大きな咆哮が轟いたかと思うと辺りが急に静かになった。
ちなみにボクの心の叫びがでたんじゃないよ。それぐらい叫びたい気持ちにはなったけど。
カランコロンカラン
扉についたベルがレトロな音を立てて来客を告げる。ふと店の入り口を見ると頭に角をはやした大男が立っていた。こちらの様子を伺っているようだけど店内に入ってくる気配はない。
「あのー、まだ準備中なので後日、日を改めてご来店くださいませんか。」
突如として現れたお客さん?に動揺したボクは丁寧に頭を下げた後扉を閉めた。
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