第2話 柏田 満男


大村 益美



 灯りが見えた時は正直ホッとした。ようやく、たどり着いた山の中の一軒家。この後、どんなホラーな展開が美女を待っているのか。怖いような、わくわくするような自分でも不思議な気持ちだ。いきなり襲われたら、どうしよう。


平屋の建屋は、黒々と静まりかえり小さな灯りだけぼんやりと灯っていた。


「夜分、おそれいりますぅ~。ごめんください~」


私はトントンと戸を叩いた。中で微かな応答があった。




柏田 満男



「こんな夜更けに」といっても、まだ夕方の時間帯だが、しかしここは山ん中の一軒家なんだから夜は早い。


「はい、はい、今出ますよ」


ガラリと引き戸を開けると、真っ黒な顔に目玉をぎょろりと光らせた大男が立っていた。髪の毛がちじれ気味に長く乱れて、みたいだ。


「わわわ~化け物おぉぉ~!」


私は、恐ろしさのあまり悲鳴をあげてしまった。


「ももぉ~!」


なまはげが吠えた。


「どすこいー!」


突然、なまはげが突っ張りをかました。


私はなまはげの突っ張りをまともにくらって、囲炉裏いろり鉄瓶てつびんをひっくり返し、急須きゅうす湯呑ゆのみを転がし、いろいろぶら下げた衝立ついたてをひっくり返しその後ろの納戸なんどまで転がって止まった。


灰神楽はいかぐらがもうもうと立ち上がっている。私は修羅場しゅらばから逃れようと納戸なんどを開けると、そこに完成まじかの牛の首があった。私はとっさに牛の首を被り、そこにあった立てぼうきをもって応戦。


「ぶおおぉ~」と気合を入れると、なまはげは「きええぇ~」と化鳥のような雄叫びをあげた。


「ミ、ミノタウルス!。化け物おぉぉ~!」


なぜか、なまはげはクルリと向きを変えると、敷居しきいにつまずき転倒し、そのまま動かなくなった。


敷石に頭をぶつけ気絶したみたいだ。


私はおそるおそる近づいた。つんつんと、突いてみても動かない。ごろんと転がして、あおむけにした。


「あれえ~」


このなまはげ、妙になまめかしい白いちちしてる。


「あやりゃ~りゃ~」このなまはげブラジャーをしてやがる。んんん・・・・。何かおかしいなぁ?。「ややや・・・・」こりゃ女だぁ。


ううう~ん、紛らわしい。ううん、どうしたものか。


私は、転がった背負い籠からはみ出た黒い物を見た。「ははぁ」このなまはげは配達員らしい。はて、どうしたものかなぁ。




大村 益美



「はっ!」と気付くと、私は囲炉裏の脇に寝かされていた。


起き上がると、はらりと額にあったらしいタオルが滑り落ちた。


「気が付いたかい」


見ると、初老の男がニコニコとこちらを見ていた。怪しい気色も、ミノタウルスの化け物も居ない。あれは、夢だったのだろうか。あの悪夢のような・・・・。


「配達、ごくろうさん」


そうだ。牛の首だ。すました顔をして、この老人は変人、ヘンタイだ~。


老人は私の気持ちを察したかのように、「待て」と手を突き出した。


「俺は、注文で剥製はくせいを作っている職人なんだよ。あんたが気味悪がっている牛の首は剥製の材料なんだ。分かるかい」


「そお~なの~」


このオヤジは、只の変人じゃなかったんだ。変人の職人だったのだ。


私は、やっと納得した。


それにしても、お尻がひりひり痛い。どうして、痛いんだろう。


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ポツンと一軒家へのお届け物 森 三治郎 @sanjiro

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