-16- 引きこもり と ダンジョン10層

「――ようこそ、私のダンジョンへ。そして、ダンジョンを壊して進んで来るなんて……あんた達頭が可笑しいの?。私のダンジョンを勝手に壊した恨み、ぶっ殺してあげるわっ!」


 俺たちが10層へ到着すると、1人の女性が待ち構えていた。お世辞にも美しいとは言えないその女性は、微笑と憎しみで俺たちを出迎えてくれた。

 声を聴いた瞬間に全員が戦闘態勢に入った。こんな深くの層に人間がいる訳が無い。言葉を話してる以上、ボスモンスターかそれに近い存在なのは明白だ。

 そんな中、俺だけ違う事を考えていた。目の前の女性はブサイクではあるが人間と認識出来る外見をしている。毛ムクジャラよりはマトモだ。あんな姿の毛ムクジャラが不憫に思える。


「カゲちゃん、言われっ放しで何か言い返す事は無いの?」


「・・・ダンジョンコアは何処だ?」


「教える訳が無いでしょ! 出でよ、リビングドール! 出でよ、リビングアーマー!」


 女が腕を振ると空間に煙が立ち上がった。その煙は徐々に形を作り、巨大な人形兵と巨大な甲冑が現れた。


「アハハ! 驚いたようね! リビングドールもリビングアーマーも両方ともAランクモンスターよ!リビングドールは高い物理耐性を持ち、リビングアーマーは高い魔法耐性を持ってるわ。あなた達が戦って来たゴブリンとは全く違うのよ! でもねぇ、私のダンジョンを壊したあなた達には特別に、絶望を見せてあげるわ。リビングドール、リビングアーマー、合体!」


 その言葉で、リビングアーマーの甲冑がバラバラになり、リビングドールは1つ1つ拾って自分の体に装着させ始めた。

 なんともシュールな光景だ。


「カッコ悪い合体だな。今のうちに攻撃した方が良いんじゃないのか?」


「あいつは、あれでホブゴブリンの数千倍の強さだ。今持ってる装備じゃ、傷も付けられないぞ」


 少なくともジン君の持ってる金属バットでは無理だろう。メイのダイヤモンドの棒なら倒せなくても傷くらいなら付けれるだろう。


「じゃあ、どうすんだよ。このまま着替えという名の合体を見てるだけで良いのか」


「焦るな、まだあの女がダンジョンマスターだと確認も出来て無い。隙を突いて別の場所から攻撃して来る可能性だって残ってる。今は警戒をして置いた方が良い」


 ジン君には、まだ解らないとは言ったが、どう考えてもあの女がダンジョンマスターだ。Aランクモンスターを作った時点で確定だ。



「アハハ! さぁ、リビングドールアーマー! 合体してSランクになったその力で、コイツらを跡形も残らないようにぶっ殺して頂戴!」


 俺はリビングドールアーマーが動き出そうとした瞬間、余剰次元に突っ込んだ。


「ん!?! ギャー! 私のリビングドールアーマーがーッ! どーなってんのよー!」


「居なくなったな。次のリビング?ドール?アーマー?だったか、出してクレ!」


「・・・ムリ・・・もうダンジョンポイントが無い」


 なんだよ。期待してたのに全然ダンジョンポイント持って無いのよか。ケチくさいダンジョンだなぁ。


「じゃあ、ダンジョンコアに案内してくれ」


「ま、、、待って・・・コアを壊されたら、死んでしまう・・・」


 その通りだが、マスターを倒さないと折角確保したモンスターを持ち帰る意味が無い。

 マスターを失ったモンスターが他のダンジョンでどうなるかの実験をしたくて、ワザワザ攻略なんて面倒な事をしに来たんだ。


臼墨うすずみさん、どう思う?」


「・・・昨日と今日で、ダンジョンに入った人間を何人殺した」


「50くらいかなぁ。仕方ないでしょ? あんただって自分の家にゴキブリが出たら殺すでしょ?」


「言葉は通じても・・・会話は・・・無意味か・・・。報いを受けろ」


「……クソがぁ! 下手に出ていれば付け上がりやがって!――」


 五月蠅くなってきたので、ダンジョンマスターの頭部以外を余剰次元に突っ込んだ。俺は残った頭部を右足で踏みつけて喋るのを止めた。


「ウルセーよ。さっさと案内しろ!」


「カゲちゃんが一番悪役に見えるよ」


 振り向くとジン君とヒサさんもメイの言葉に頷いていた。



 < Bランクダンジョンクリア >

 <冒険者カードから初回攻略得点を選んで下さい>



「「「「「 え!? 」」」」」


 どういう事だ? 4人が一斉に俺の顔を見て来るが、俺も何が何だかわからない。

 目の前の空間に、急にそんな文字が表示されたのだ、俺だって訳がわからないぞ。


「む。もしかして・・・」


 俺は踏みつけにしたマスターの顔を良く見てみる。右足を顔から除けると、既に意識は無いようだ。

 マスターの口の中から何かがコロッと出て来た。砕けた球体に見える。これがダンジョンコアなのか?


「隠すにしても、もう少し安全な場所に隠せよ。戦闘中に壊れたらどうすんだよ!」


「でも、頭を踏みつけられるなんて予想してなかったと思うよ」


 そう言われたら、その通りだが、想定しておけ!と言いたくなる。

 だが今はそんな事を考えている場合ではない。ダンジョン全体から光の粒子が立ち昇り始めている。ダンジョンマスターを失ったダンジョンがどうなるかは聞いて無いが、この様子だとダンジョンが消失しそうだ。中に居る俺たちごと、とは考えにくいが早いとこ逃げ出した方が良さそうだ。


「ダンジョン初回攻略特典というのは何なんだ?」


 そう言いながら臼墨うすずみさんはこの状況をメモしている。自衛隊の仕事として来ているのだから事情聴取は必至だろう。面倒な報告とかは臼墨うすずみさんに頑張って貰おう。


「冒険者カードで選ぶ?とかって見えたよね? あ、何か表示されてる!」


 メイが冒険者カードを見ている。皆も自分の冒険者カードを取り出して見始めた。冒険者カードには、いつもの表示とは違って選択画面が表示されていた。


 〇武器選択(Bランク)

 〇防具選択(Bランク)

 〇スキル選択(Bランク)

 〇1000000DP



「カゲちゃん、これは迷うねぇ」


 今は迷ってる場合ではない。ダンジョンから立ち上がる粒子が徐々に強く成っている。早くダンジョンを出た方が良い。


「あ・・・」


 つぎの瞬間、俺たちはダンジョンの入口に立っていた。

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