-15- 引きこもり と ダンジョン7層

 ダンジョン攻略は順調に進んでいる。

 俺はモンスターを視界に取えら得たら速攻で余剰次元に突っ込んでいる。他の人は戦闘どころか、この階層にどんなモンスターが居るのかさえ知らないだろう。

 モンスターに出会う事の無いダンジョンはただの迷路だ。徐々に歩くスピードも速くなり、1階層1時間前後で踏破している。

 だが、ここに来て問題が発生した。俺しか気付いてないと思うが、7層に入ってからモンスターが全く出なくなったのだ。これでは時間だけが消費されて、俺のダンジョンポイントネコババ作戦が破綻してしまう。


「みんな、少し待ってくれ。朝から4時間以上歩いてる。少しだけ休憩しよう」


 俺は紅茶とお菓子を出して、みんなの前に広げた。

 メイはお菓子に飛び付いて、リスのようにワシャワシャと食べ始めた。


「メイ、1人で食べないで、みんなと分けて食べなさい」


なにゃ・・・なくなるから たきゅ・・たくさん だゅ・・だして


 メイが好きそうな煎餅を中心に用意したのが悪かったのか、物凄い勢いで食べている。

 お調子者のジン君でさえ、メイが食べる様子を見て若干引いている。好物を食べる女子高生なんて、そんなものだぞ。良い社会勉強に成ったな。


臼墨うすずみさん、ちょっと訊きたいんだが、このダンジョンは何層まで攻略されてますか?」


「俺の聞いた話しでは、5層の途中までだ。6層に入ったとは聞いて無いから、君たちが現在の最高到達者だ」


 それが原因か。このダンジョンは0時にモンスターが補充されるが、今までの最高到達が5層なら6層までのモンスターしか補充しなくても問題無い。俺がダンジョンマスターの立場ならダンジョンポイントの節約の為に同じ事をするだろうな。

 だが、そうなるとこれ以上進んでもモンスターは出ないって事だ。ダンジョンポイントを溜める為にも、もっと多くのモンスターを確保したかったが現状では難しそうだ。一気にダンジョンマスターを叩きに行った方が良いだろうか。


「実は、7層に入ってからモンスターが1匹も出なくなった」


「6層までは出ていたと言う事か。ここまで何匹倒した?それに6層はどんなモンスターだった?」


 ジン君とヒサさんは、どんなモンスターが居たのか気に成ってる様子だ。メイは、煎餅に夢中の様子だ。


「3層と4層はホブゴブリンが中心の集団だった。5層と6層は2足歩行のブタ、オークって言うのかな。6層は集団で武器も持ってた。倒した数は全部合わせると700匹くらいだ」


 ジン君の顔が一瞬曇って、疑いの目で俺を見ている


「本当に倒したのか?俺たちは誰も、1匹もモンスターを見てないぞ」


「別に信じる必要は無い。これからダンジョンマスターを倒すんだ。流石に俺1人ではキツイかも知れないから手伝ってくれ」


「お、おぉ、俺だって、ヤル時はヤルんだ。まかせて置け!」


 段々とジン君の扱い方がわかってきた。思っていたよりもチョロイ。


 現在俺たちが居る場所は7層だ。比較には成らないが毛ムクジャラのダンジョンは5層だけだった。あいつの場合はモンスターを作る事だけ優先して、ダンジョンは殆ど作って無かった。

 Sランクダンジョンは極稀だと言っていたから、ここはSランクではないだろう。だから元々持っているダンジョンポイントは多く無いと思うが、モンスターはゴブリンのような安いダンジョンポイントで作れる者ばかりを採用して節約してる。階層を増やすには充分なダンジョンポイントを使えるだろう。

 問題は何層まで作ってあり、ダンジョンマスターはどこに居るかだ。


「カゲちゃん、ごちそうさま。次はもう少し甘いのが有っても良いかな」


 食べ過ぎだろ。1人で全部食ったんじゃないのか?


「食った分は働いてもらうからな!」


「勿論だよ!」


 俺はその言葉の後に、みんなの目を1人1人見ると、ヒサさんと臼墨うすずみさんが目を逸らしやがった。2人は自覚が有るって事だ。昨晩から俺が分け与え続けてきた食料がやっと実を結んだようだ。


「じゃあ、出発するか」


 俺は立ち上がり、少し離れた所で疑似特異点を発生させて、ダンジョンの地面に押し当てた。

 地面は疑似特異点に飲み込まれて消えて行き50cmほどの穴が開いた。そのまま疑似特異点を真下に射出すると幅50cmの垂直なトンネルが掘られていった。

 数m掘った所で、次の階層と思われる空間に到達した。だが疑似特異点はその階層の地面も更に掘り進めていく。


 メイからLEDライトを借りて穴の中を覗いていたが、3層分を通過したあとは次の層が見えてこない。俺は疑似特異点の発生を止めた。

 次の層が見えないって事は、10層までしかダンジョンが無いか、真下では無い方向にダンジョンが伸びているかだ。


 俺が説明をしようと振り返ると、3人のマヌケずらが見えた。


「え~と。ダンンジョンに穴を開けた。10層までは確認出来たから、そこまで行って見ようと思う。もしかしたらボスが居るかも知れないから気を付けよう!」


「ぅおーぃ!ちょっと待て! ダンジョンに穴って何だよ! そんな物掘れる訳が無いだろ! 臼墨うすずみさんも何か言ってヤレよ」


「ダンジョンは多少であれば壊す事は可能だ。だが、壁を貫通させた事例は無い。まして床を貫いたなど前代未聞だ」


 ジン君と臼墨うすずみさんが一般常識で俺を責めて来る。 だが常識で考えてほしい。ダンジョンがどんなに凄くてもブラックホールには勝てないだろ?


「出来ちまったもんは仕方が無いだろ。じゃあ10層までの道を作るな」


 俺は穴から見える10層の壁と、俺たちが居る場所の壁の空間を繋いだ。


「最初に教えたのに。 カゲちゃんは規格外過ぎるから、気にしてたら精神が壊れちゃうよ って」


 メイの言葉が、俺たちしか居ないダンジョンに響いた。

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