-14- 引きこもり と ダンジョン3層

 臼墨うすずみさんは、やっと俺の能力に気が付いたようだ。


「あのままでは死人が出てましたからね。仕方がありません」


「そいつは、どんな能力なんだ?」


「魔法が存在する世界になったのに、相手の能力を詮索してどうするんですか? これは、、それ以上でも以下でも無い」


 実際は魔法じゃなく科学だけど、それにダンジョンが出来る前から使えるけど説明するのは面倒だから、これで納得して欲しい。


「探索者の中には、確かに魔法が使える者がいる。一度だけそいつに訊いたが、本人も科学的な説明が出来なかった。魔法とは、そういう物なのだろう」


 臼墨うすずみさんは自分自身に呟くように言って、納得してくれたようだ。


「フー。今日になってから何匹のゴブリンを始末したのか訊いて良いか」


「30匹くらいですね」


 もう隠しても意味が無いだろう。おれは正直に答えた。

 信用して欲しい訳では無いが、俺が何もしてないように思われて不合格になるのも困る。


「30・・・襲撃は6回か8回くらいか・・・少し多いような気も・・・まぁ妥当な数字か・・・。少し他の引率者の所へ行ってくる」


 さっきまでホブゴブリンが居た近くでは、寝ていた者も起き出してザワザワとし始めていた。

 臼墨うすずみさんはその人たちに何かを説明しているようだ。十中八九俺の事だろう。




 騒動が一段落したところで、ヒサさんが起きて来た。


「おはよぅ・・・何か変わった事は有りましたか?」


「まだ寝てて良いですよ。特に変わった事は・・・あぁ、30分くらい前に向こうの入口からホブゴブリンが侵入してきました。それぐらいです」


「えっ?私、気が付かないで寝てました!? 向こう側で休んでた人たちが倒したんですか?」


「あぁ・・・向こうの見張りが寝てたようで、気が付いたら目の前、という状況でした。ほっといたら死人が出ると思って俺が倒した。臼墨うすずみさんもその時起きてたので訊いてみたら良いですよ」


 正確には、その時のホブゴブリンは余剰次元でまだ生きてるけど、倒したって事で良いか。


「う~ん~。良くわからないわね。ここから攻撃して倒したって事かしら・・・」


 ヒサさんが頭を傾けて考え込んでしまった。 

 それよりも、朝食の準備を始めよう。出来るだけ早くに出発して、このダンジョンを攻略したいのだ。起床と同時に無理やり食べさせて出発したい!


「ヒサさん、暇ならウインナーを焼いて、パンを炙ってくれるかな。全員のホットドッグを作りたいんだ」


「・・・あのエアマッドと簡易トイレが出て来た時点で、オカシイとは思ってたから今更愕きはしないけど、本当にそんなに食料を配っても良いの?ここはダンジョンなのよ」


「最長でも、あと20時間で地上なんだ。余っても困るだろ?」




 ――ボフッ


「ジン、朝よ。起きなさい」


「ネッ・・・ねーちゃん・・・腹、蹴って起こすの・・・勘弁してくれ」


 楽丘らくおか姉弟は、弟はすぐに調子に乗って、姉は弟に対しては愛のムチ?なのか超攻撃的だ。


「メイちゃん。朝だよ。起きて」


 ヒサさんは、優しくメイを起こしてくれてるようだ。弟のように蹴飛ばさなかったのは高得点だ。


 ジン君とメイが目を擦りながら起きて来た。


「静かに!まだ寝てる組がある。朝食は用意したから、急いで食べて出発しよう」


 まだ頭の回って無い2人が頷いて、ヒサさんからホットドッグを受け取ってる。

 俺が全員分のコーヒーを作っていると、臼墨うすずみさんが起きて来た。あの騒動が終わってから30分だから眠って無いのかもしれないが、俺からは絶妙な角度で解らなかった。


「おはようございます。臼墨うすずみさんの分も有るのでどうぞ」


「・・・もう、前置きもしなくなったのか」




 3層へ降りた俺たちは、100m程進んだ所でチェックポイントとなる柱まで来た。

 そして、俺は意を決してみんなに語りかけた。


「――では、このダンジョンをこれから攻略するぞ!」


「「「 はい? 」」」


 うん。予想通りだ。メイ以外理解出来ていないようだ。

 無理も無い。突拍子もない事を言われたら、俺だって混乱する。


「ルールとしては今日中にダンジョンから出れば良いんだろ?つまり、最下層まで行ってダンジョンを攻略してからでも問題無いって事だ。 ですよね?臼墨うすずみさん?」


 俺に話を振られた臼墨うすずみさんは、少し考えながら話し始めた。


「あぁ。確かに禁止はされてなかった。というか、そんなアホは想定してないだろう」


「当たり前だ、試験を無視してダンジョン攻略してどうすんだよ!」


 ジン君の言ってる事は正しい。だが俺にも目的が有るのだ。そう簡単には諦めきれないぞ。


「この試験はダンジョンでの適正を見るのが目的だろ?攻略以上に適正を証明する方法は無い!」


「あのなぁ。世界中で攻略されたダンジョンがいくつあるか知ってるのか?」


「・・・10か・・・100か?」


「ゼロだ! 誰も攻略出来て無いんだ。そうだよな、臼墨うすずみさん」


「その通りだ」


「それって公式には、って事ですよね? ダンジョンマスターを部下にした場合とかは記録されてないですよね?」


 メイが毛ムクジャラのダンジョンの事を言ってるが、出来ればそれには触れて欲しくない。

 俺がダンジョンを所有してるなんて噂が流れたら、それはそれで面倒な事になりそうだ。


 臼墨うすずみさんがメイの話しを訊いて、俺の顔をチラッと見てから答えた。


「・・・聞かなかった事にしておく」


臼墨うすずみさんに訊きたい。俺よりもダンジョン攻略に適した人間を見た事があるか?」


「・・・解らないが、やり方次第では最強だろう」


「皆にも訊きたい。探索者に成ればいずれは攻略を目指す日が来る。その時も、理由を付けて諦めるのか?」


「カゲさん。今から最下層まで行って、今日中に戻れるのかしら?」


「戻れる。今日中に攻略出来れば問題ない。間に合いそうに無ければ引き返せば良いだけだ」


 ヒサさんの疑問は当然だ。ダンジョンを攻略出来たとしても試験に落ちたら意味が無い。

 どうしても遅れそうな時は、俺の空間操作でダンジョンの入口と現在地を繋げればワープ出来るので問題ない。

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