-13- 引きこもり と 見張り

 俺は耐熱紙コップを取り出し、ヤカンでお湯を沸かす。


「インスタントコーヒーとティーバッグの紅茶も有るから、好きな方を飲んでくれ」


「あ、ありがとう。戴くわ」


「サンキュー」


「カゲちゃん、何か悪い事でも考えるの?」


 流石メイだ。俺の悪だくみに感付いたようだが、まだ詳細は解ってないようだ。


「まったく、ダンジョンで食料、特に水は貴重なんだがな。わかっていて俺にコーヒーを渡すのか?」


「自衛官がコーヒー1杯で買収出来ない事くらい、誰だってわかってますよ。だから安心っして飲んで下さい」


 飲み物くらい、いくらでも用意出来る。風呂も用意したかったのだが、流石にダンジョンポイントの無駄遣いだと思って止めた。

 みんながくつろぎ始めたので俺は今後の予定を話す事にした。


「聞いてくれ、見張りの順番を決めよう」


 3人とも頷いてくれた。


「最初に確認だが、臼墨うすずみさんは引率だから行わないって事で良いよな」


「あぁ、俺は当番には入らない。俺の事は気にせずに4人で行ってくれ」


「それで翌朝出発の時間も俺たちで決めて良いって事だよな?」


「その通りだ。明日の夜までにダンジョンを出るのが試験だ」


 ダンジョンを出るまでが試験。ダンジョンを出るまで頑張らないとな。


「当番は1人づつ1時間。俺の当番は最後で4時間行う。みんなは6時間寝れる計算だ。どうだろう」


「チョット待てよ。なんでお前だけ4時間なんだよ。点数稼ぎか?」


「いや、俺は1日3時間しか寝ないからな。寝過ぎたら体調を崩す」


 はい。嘘です!本当なら18時間くらい寝たいよ。マジで寝たい。でもゴブリンが徘徊してるダンジョンでゆっくりなんて寝てられないだけだ。俺が起きて自分でゴブリンを処理した方が安心できるのだ。


「でもな・・・良いのか?・・・」


「わかったわ。私が1番でジンが2番、メイさんが3番。私は睡眠が分散されないから、カゲさんがキツイと思ったら最初に私を起こして頂戴。それで良いかしら?」


 ヒサさんの意見に2人とも納得したようだ。勿論俺も異論は無い。


「それじゃ、俺は寝かせて貰うよ。あぁ、水やコーヒーは置いとくから好きに飲んでね。臼墨うすずみさんも飲んで良いですから。では、おやすみなさい」


 ダンジョンには太陽が無いから時間間隔が狂ってしまうが、今はまだ夜の8時にもなっていない。予定通りなら明日は早い時間から出発出来る。




「カゲちゃん・・・カゲちゃん。起きて・・・カゲちゃん・・・」


「ん~ん。あと5時間・・・痛てっ」


 メイに叩かれて起こされてしまった。もう3時間が経過したようだ。

 正直、眠い。 超絶、眠い。


「ハァ。コーヒーでも飲むかな・・・あ、メイ。ありがとう」


 メイがコーヒーを渡して来た。なんて気が利く子なんでしょう。俺の教育が良かったからに違い無い!

 なんだろう、眠くてテンションが可笑しいな。


「それでぇ・・・カゲちゃんはぁ・・・何を考えてるのかなぁ?」


 メイが首を傾げながら俺の顔を滅茶苦茶覗き込んで訊いて来た。

 周りを見渡すと楽丘らくおか姉弟はそれぞれ掛布に包まって眠っているようだ。臼墨うすずみさんは少し離れた場所で、腕を組んで壁にもたれ掛かるように座ったままだ。目は綴じてるようだが眠ってるのかは解らないな。

 小声なら臼墨うすずみさんの所までは聞こえないだろうか。


「このダンジョンを攻略する」


「へぇ~。思ったよりもマトモで安心したよ」


 あれ?いきなりダンジョンを攻略するって言ったんだけど、俺ってもっとヤバい人間だと思われてたの?メイの中で俺の評価ってどうなってるの?


「みんなには、まだ内緒だぞ」


「みんなで行くの?説得なんて出来るの?」


「それは、朝までに考えるんだ。良いアイディアはあるか?」


「・・・無い。あの姉弟は合格が目的で、臼墨うすずみさんは安全が目的。全く違うから説得出来ないと思う」


 当然だよな。それぞれに目的が有るんだ。俺の我がままで目的変更なんて出来ないよな。


「困ったな・・・」


「どうしてダンジョンを攻略しようと思ったの?合格した後でも良いと思うけど」


「家のダンジョンのダンジョンポイントが足りないから、早急に集めたいんだよ。俺から渡すには効率が悪いから、俺を通さないで渡せないかと思ってな。そこで思い付いたのが、モンスターを全部余剰次元に入れて持ち帰ったらどうなるかだ。モンスターを作ったダンジョンマスターが消えればモンスターも消える。だが余剰次元で生きたままのモンスターを、他のダンジョンに入れたらどうなる?消えずに新しいマスターの物になるか、消えて新しいマスターのダンジョンポイントになるか、元のマスターを倒した俺のダンジョンポイントになるか。どれかだと思うが、もし前者の2つならダンジョンポイントを渡す効率が格段に増えるんだ」


「要するに火事場泥棒だね」


 辛辣!言い得てその通りだけど、言い方が悪い!


「そう言う事で、明日は早いからゆっくり寝なさい」


「うん」


 メイは自分用の小さなテントに入って行った。

 3層への入口があるこの場所は多少広めの空間で3方向に道がある。俺たちが到着した時には3組目だったが、俺が寝てる間に2組増えたようだ。それぞれの組で見張りをしているので5人は起きてる事になる。 俺が居る場所からは2方向は道の先まで見えるが、1つは角度的に見えない。そっちは他の組に期待しよう。


 俺が見張りを始めて1時間ほど経過した頃からゴブリンが現れ始めた。日付が変わった頃から現れた事を考えると、このダンジョンは0時を起点にモンスターを補充するのかもしれない。

 通路の先にチラッとゴブリンが見えたら、俺は余剰次元に放り込んでいる。誰にも気付かれずにゴブリンを消してるので、戦闘らしい戦闘は全く起こらない。


 俺がゴブリンを30匹ほど余剰次元に突っ込むと、臼墨うすずみさんが俺の横にやって来た。


「まだゴブリンは来てないのか?」


「どうして、そう思ったんですか?」


「日付が変わってから2時間経つ。いつもならゴブリンが現れてる頃だと思ってな」


 日付が変わるとモンスターを補充するダンジョンという俺の予測は会ってたようだ。ゴブリンは戦う前に俺が消してるから、まだここには現れて無い。


「へー。ここには現れて無いです」


「起床の予定まで1時間あるな。俺は少し他の引率者と話をして来る」


 そう言って臼墨うすずみさんが立ち上がった瞬間、俺からは死角となっていた通路からホブゴブリンが現れやがった。

 通路から一番近くの組は見張りが居眠りしていたのだろう。まだ気が付かずに寝ている者もいるようだ。他の組の見張りが応戦しようと立ち上がり武器を構える。

 だが今も気付かずに寝ている者は、たぶん間に合わない。


「仕方ないか・・・」


 俺はサッとホブゴブリンを余剰次元に入れた。

 目の前からホブゴブリンが消えて騒然とする人達だったが、臼墨うすずみさんだけは落ち着て俺の方に振り返った。


「お前か?」

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