-12- 引きこもり と 計画

 何と言うか、呆気ない物だな。

 ホブゴブリン1匹とゴブリン4匹を相手にした戦闘だったが、すぐに終わってしまった。


 俺は足元の小石を拾ってホブゴブリン目掛けて投げた。タイミングを見計らってホブゴブリンの両足を余剰次元に入れて歩けなくさせた。そのまま転倒するホブゴブリンを見て、全員が一瞬動きを止めたがメイだけは通常運転だった。

 俺はホブゴブリンの足止めだけを言われたので、戦闘には殆ど手を出して無いが、それでも圧勝だ。ゴブリン相手に苦戦するようでは探索者には成れないとは思うが、こうも順調だと油断して足をすくわれそうだな。


 戦闘終了後に、ホブゴブリンの有り得ない状態について、引率の臼墨うすずみさんから指摘されてしまった。


「今のは、どういう事だ。いったい君は何をしたんだ」


「・・・小石を投げて、動きを止めた。 何か問題でもあったのか?」


「小石を投げただけで、どうして動きを止められるんだ。ホブゴブリンの足が消えたようにも見えた。どうなってるんだ?」


「はぁ。ジン君も言っていたでしょ?必殺技の1つや2つ持ってるって。一々説明するような事ですか?説明しないと戦ってはいけませんか?説明しないと探索者には成れませんか?」


「不正が無いかを確認しているだけだ」


「不正って何ですか? 手品を使っても、魔法を使っても不正じゃないのに、何をしたら不正なんですか?」


 なんでこの人はここまで頭が固いんだ?もう説明するのも面倒だな。どうしよう・・・


「どうやって倒したか説明出来ないなら不正だ!」


 だから、小石を投げて転ばせたって言ってるだろう?話が通じないなぁ。


「もう解りましたよ。これからは小石は投げません。それで良いですね」


 わざわざ小石を投げてから余剰次元に入れるなんて面倒な事はヤメだ!

 視界に入ったら速攻で余剰次元に突っ込んでモンスターと出会わなければ良いだけだ。はるか後方にモンスターを排出すれば問題ないだろう。


 3層への入口を探して進んでいるとメイから話かけられた。


「カゲちゃん、モンスターが全く出なくなったよ。何かしたの?」


「俺たちに近付いてくるゴブリンは、全部遠くに行って貰ってる」


「え~。それじゃあ、練習にならないよ」


 ゴブリンなんてどんなに倒しても強くなんてなれない。ダンジョンポイントだって殆ど貯まらない。時間の無駄だ。

 どうしても練習したいなら、毛ムクジャラのダンジョンで訓練した方が安全だし効率も良い。


「試験が終わったら、いつもの所で練習した方が効率が良いぞ」


「でもそれじゃ、試験に受からないかもしれないよ」


 試験は3層まで行く事でゴブリンを倒すのは試験の目的じゃないから、それは何とな成るだろう。



 それからは1度も戦う事無く3層の入口へ到着した。

 先に着いてるのは2組だけだった。


「あれ?俺たち超早くねぇ? 2層に入る時は10組くらい俺たちよりも先に入ってただろ?」


「そ、そうね。途中からゴブリンが全く出なくなったからよね?」


 そう言ってヒサさんは俺の顔をジトーと見て来た。

 俺の仕業だとバレてるのか? メイにしかバレてないと思っていたが、感の良い人だな。


「カゲちゃん、ヤリ過ぎ」


 メイ、俺が悪い事してるような良い方をするな。

 捕まえたゴブリンはキチンと放してるんだ。キャッチ・アンド・リリースだから問題ないだろ。


「良し、お前たち。今日はここで1泊する。予定よりも早く到着する事になったが、明日は3層に入って直ぐの場所に有る折り返しポイントに行ってから地上へと戻る予定だ」


 臼墨うすずみさんの説明を聞いて、メイは早速荷物を広げて小さなテントを取り出した。テントの中に荷物を入れて寝床を作ってるようだ。

 楽丘らくおか姉弟は、それぞれ毛布のような掛布を取り出して寝床を作ってる。

 俺は少し離れた場所に小さな囲いを取り出して、中には簡易トイレを用意した。自分用の寝床にはエアマッドを用意した。

 勿論全部、ジーパンのポケットから取り出したが、もう誰も何も言わなくなっていた。


「みんな、あっちに簡易トイレを用意したから使てくれ」


 楽丘らくおか姉弟は2人して俺の顔をジトーとした目で見ている。

 自分たちも使うんだから、そんな目で見るなよ。


「カゲちゃん、有難う。 ・・・あと、ヤリ過ぎ」


 簡易トイレは最初っから考えていたのだ。だってトイレ無いと困るだろ?俺が困るなら女性はもっと困ると思ったのだ。


 寝床が完成したら、次は食事の用意だ。

 メイはパンと栄養補助食品を用意している。あまり食欲をそそられない内容だ。

 楽丘らくおか姉弟は、缶詰とあれは乾パンか? 食欲がなくなる内容だ。

 俺は何を食べようかな。当初の予定では合格の前祝に寿司でも食べようと思ていたのだが、俺だけ食べたら流石に気まずい。

 まずはジーパンのポケットから水のペットボトルとカセットコンロとヤカンを出してお湯を作る。沸く迄の間に、カップメンを5種類と今日のメインディッシュ、駅弁風の牛丼弁当を取り出す。この弁当は紐を引くをホカホカになるタイプでダンジョンポイントで見つけた時に試しに買ってみたのだ。


「みんな、カップメンなら好きなの食って良いぞ。臼墨うすずみさんもどうぞ。お湯は順番に沸かしてくれよ」


 俺は常識を知っている男だから、俺だけが暖かい食事をしていたらチームワークが悪くなる事を知っているのだ。カップメンを奢る程度で円滑になるなら安い物だ。


「カゲちゃん、ヤリ過ぎ。 でも貰う」


「本当に良いの? ほら、あんたも礼くらい言いなさい」


「痛てっ、あ、ありがとう」


「君のポケットはどうなっているんだ? 私は自衛官、公務員だからな。特に今は試験中だから物を貰うという行為は……」


「カップメンで買収出来る程安くないでしょ?それなら食べても問題無いだろ?」


「・・・全く、口だけは上手いな。有難く戴こう」


 フッフッフ。全員食べるようだな。俺の計画はここからなんだ。今のうちに沢山食べてくれよ。

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