-11- 引きこもり と ダンジョン2層

 ダンジョンに入ってから2時間程歩いているが、まだ2層への入口が見つからない。

 最初のゴブリンの共喰い以来、モンスターが何も現れない。実に、ヒマだ。

 受験者が大量に入った為にゴブリンが狩り尽くされたのだろう。俺がダンジョンマスターの立場なら、何もしなくても人間が沢山入って来るのだからワザワザ倒される事が前提のゴブリンを追加で作る必要なんて無い、と判断するだろう。

 そのせいで、俺たちは緊張感を失くし、先頭を歩くジン君に至っては鼻歌を歌い始める始末だ。引率という名の試験官が同行しているのに、本当にアホだ。


 更に1時間歩いたところで、受験者が集まってる場所をみつけた。

 どうやら2層への入口のようだ。2層へ降りる前に食事をして休憩を取っているのだろう。俺たちも休憩する事にした。


 ジン君とヒサさんはバックからオニギリとペットボトルを取り出している。メイもバックから弁当を出したようだ。俺はジーパンのポケットからサンドイッチを2つとペットボトルを取り出した。


「チョット待って!今、どこから出した! どうしてジーンズのポケットからペットボトルが出て来るんだよ!」


 ジン君がツッコミを入れて来た。面倒なヤツだ。ほっといてくれ!


「ん? 良いだろ。入ってるんだから、出て来るんだよ」


「わかんねーヨ! 入る訳ねーだろ!!」


 勿論、ポケットに入る訳が無い。ジーパンのポケットから出したように見せかけて実際には余剰次元から出している。

 当初はダンジョンポイントでラーメンでも食べようかと思ったが、流石に引率がいるのでそれは止めたのだ。取得して間もない冒険者カードではダンジョンポイントも少ないだろうと予測して、直接ダンジョンポイントから買う事は自粛したのだ。俺は出来る人間なのだ!


「私も気に成るな。説明してくれないか」


 引率の臼墨うすずみさんが訊いて来た。説明するの面倒だなぁ・・・


「必要な装備は各自用意する、と聞いたがそれを説明する義務があるのか?」


「いや、不正をしていないか確かめる為だ」


「はぁ?パンと飲み物を出したら不正なのか?」


「・・・いや、そうでは無い。どこから出したか、と言う事だ」


「装備は自由なのに説明する義務があるのか? 手品を使おうが、魔法を使おうが、受験者の勝手だろ?」


「・・・手品か・・・そうだよな・・・そうだろうな。 ・・・失礼した。確かに義務は無いな」


 納得してくれたようだ。これで俺のポケットから何が出て来ても大丈夫だろう。


「イヤ、待ってくれ。なんでそんな説明で納得してんだよ!どう見たってオカシイだろ!」


「明らかな不正や、危険行為が無ければ受験者の持ち物検査は行えない。試験への持ち込みは基本的に自由だからな」


 臼墨さんは引率者として納得してくれたが、ジン君が全く納得しない。本当に面倒なヤツだ。

 仕方が無いな。俺が説得するか・・・


「ジン君、ここは何処だ? ダンジョンだぞ。君が倒したゴブリンを見たか?死んだら消えたんだぞ。そんな事普通は有り得ないだろ?だが実際にゴブリンは消えたし、その不思議な現象を起こしたのは君だ。ダンジョンの中では不思議な事が起こる物なんだ。君が科学者だと言うなら、その不思議を解き明かすのも良い。しかし我々は探索者になるんだ。不思議な事を解き明かすよりも、不思議な事を受け入れて自分が生き抜く事を考えるべきだろう。」


 あれ、ジン君の表情が変わらないな。この路線での説得は無理か。では彼の中の少年の心に訴えて見るか・・・


「武器も、装備も、技も、全部生き抜くための物だ。君にだって隠し玉の1つや2つ有るだろう?秘密兵器は秘密にしているから有効なんだ。それを全部最初に教えろというのはヤボな話しだ。男なら何が有っても動じないくらいの気概を見せる事が、出来る探索者なんじゃないのか?」


「ま、まぁ、そうだな。俺にも、まだ、教えられない、必殺技くらい、あるからなっ!」


 納得したようだ。しかし、コイツ本当に筆記試験を合格したのか?頭が悪すぎないか?


「カゲちゃんは規格外過ぎるから、気にしてたら精神が壊れちゃうよ」


 メイ、それはフォローではなく追い打ちだ。もう少し言い方が有るだろう?



 俺たちは2層へと降りた。

 2層は剣や斧を持ったゴブリンと、時々体格の良いホブゴブリンがいるようだが、出入り口の付近には見当たらない。先に降りた受験者たちが狩り尽くしたのだろう。

 俺たちは、またもハイキングのようにゾロゾロと歩くだけになった。


 1時間歩くとゴブリンが出始めた。事前の情報通り、剣や斧を持っている。

 こちらの前衛は金属バットを持ったジン君と特別製のヤリを持ったメイだ。2対2なら全く問題ない。3匹目が出てもヒサさんが足止めをする。戦闘は凄く安定している。

 だが、徐々にゴブリンと出会う頻度が増えてる。10分に1度くらいのペースで接敵するようになった。

 ゴブリンは多くても4匹しかまとまって出て来ないので、俺は何もする事が無い。


「なんか俺たちって強くなってねーか?」


 ジン君が調子の良い事を言い出した。ゴブリンを10匹や20匹倒したくらいで強く成れる訳がない。メイは練習で50匹以上毎日倒したんだ。


「あんたねぇ。いつもそう言って調子に乗ってるから…」


「来るぞ!!」


 俺の声に全員がビクッと反応した。普通ならライトを直接当てないと認識出来ない距離だったが、俺の目には一際大きいゴブリンが通路からこちらへ向かって来るのが見えていた。

 たぶん、あれがホブゴブリンだろう。お供に普通のゴブリンを4匹連れている。


「でけーなぁ」


「数が多くて足止め出来ないかも」


「カゲちゃん、大きい方の足止めだけ出来る?」


 あれ、足止めだけ?俺の見せ場は無いのか・・・

 メイの頼みだからな、頑張るよ。


「そうか、わかった」

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