-05- 引きこもり と ダンジョンマスター

 もう1人の俺が5回ほど鷹を倒した所で、山がトランスフォームを終えた。

 変形が終わったソレは、宇宙世紀を舞台に戦争する為の武器として作られたような巨大人型ロボットの姿をしていた。

 少しだけホッとしたのは、ビームライフルを装備して無いようなので遠距離攻撃の心配が無い点だ。


「ツッコミ所満載だが、動き出す前に倒させて貰うぞ」


 俺はロボットの頭上に、第4層で守護者をしていた鏡餅の胴体を出現させた。


 ドゴーーーン


 鏡餅の下敷きになったロボットは完全に動きを停止して、ペチャンコになった。


「・・・4層では鏡餅を瞬殺してしまったが、ラスボスを倒せるくらいの強さは有ったんだな」


 3次元空間に戻された鏡餅の体は、霧散が始まろうとしている。

 巨大ロボットが機能を停止した影響だろうか、鷹の復活が止まったらしい。手持ち無沙汰になったもう1人の俺が、俺の側に近付いて来た。


「ナァ。もう鷹が復活しないんだが終わったのか?」


「あぁ、そうだな。終わったようだ。あの餅も欲しかったら持って帰って良いぞ。下敷きになってるロボットはダメだけどな」


「なんだよ、ケチ臭いな。バイト代としては、その餅くらいの働きしかしてないから仕方ないか・・・じゃあ、俺は帰るゾ!」


 もう1人の俺は鏡餅を余剰次元に入れて、鷹の返り血を付けたまま自分の並行宇宙に帰って行った。


 戦闘が終了した事を見計らって、階段近くに避難していたメイがテケテケと駆け寄りながら訊いて来た。


「カゲちゃんって双子だったの?どっちがお兄ちゃんなの?」


 俺がメイに見せたく無かった理由が、これだ。

 俺にはメイを納得させるような説明が出来るとは思えない。俺自身、もう1人の自分と最初に会った時は、多少動揺したからな。メイだけで無く殆どの人は、どんなに説明しても理解して貰えないだろう。


 さて・・・何をどう説明しよう・・・


「ねぇねぇ。居なくなっちゃったけど、どこに行ったの?」


「ああぁぁ。あれは……兄弟じゃなくて、あっちも俺で……同じ俺なんだが……違う宇宙で……来てもらった……」


「ん? 同じだけど違うの? そっくりだったよ。双子かドッペルゲンガーかなって思っちゃった」


「うーーん。あっ!分身だ! 俺の分身なんだよ」


「えーっ! カゲちゃんって分身が出来るんだぁ。凄いねぇ」


 あれ!? 納得したのか? ・・・納得したなら、それで良いか。


「分身はとても疲れるから、簡単には出来ないんだ。大勢に知られて見せて欲しいと言われても困るから、みんなには内緒だぞ」


「カゲちゃんの凄さは私だけが知ってれば良いから、内緒にするよ」


 と言いながら、何故かメイは誇らしげにしている。


 並行宇宙からもう1人の俺を連れて来るには、脳の演算能力をフルに使うし体力も使う。相当疲れるから、俺もそうそう行いたくない。

 それにもう1人の俺は、俺以上に面倒な性格をしてる。何をするにもバイト代をくれとか言って、タダでは動いてくれない。見世物にする為に呼ばれたと知ったら、大暴れするかもしれない。

 てか、逆の立場なら俺も暴れると思うな。


「そうか。メイ、有難うな。 ・・・さて、モンスターも倒したから、そろそろ帰る・・・ん?」


 俺はその時異変に気が付いてしまった。倒したはずの巨大ロボットだったが、未だに霧散する気配がない。つまりボスはまだ生きてるって事だ。

 俺は慌てて、ペチャンコになって壊れたロボットの手足を余剰次元に突っ込んだ。手足が無ければ暴れ出す事もないだろう。


 俺は慎重に巨大ロボットに近付く。よく見ると胸の当りにハッチのような物がある。なぜここまで無意味に地球文化に弩腐ドくされているのか意味がわからない。


 ―― プシューッ!


 奇妙な音と共に、飾りだと思っていたハッチが開いた!

 中から犬とも熊とも判別出来ない、毛ムクジャラが這い出て来た。だが、どう見ても生物というよりは、ぬいぐるみだ。

 その毛ムクジャラと一瞬目が合ったような気がした。目がドコに有るのかもわからないが、そんな気がした。


『ヒィィッ! お助けー! 殺さないで下さい! お願いします! お願いします!』


 開口一番の命乞いである。既に決着は付いているので、今更殺す意味も無い。

 だが、この奇妙な生き物が敵で有る事に変わりはない。


「まず俺の質問に答えろ。正直に話したら助けてやる」


 毛ムクジャラは怯えながら土下座をしている。犬や熊が土下座をした所で”伏せ”をしているのと変わらないが、そこを指摘しても仕方が無いだろう。


「お前は何者だ?」


『ヒィィッ! ぼ、ボクはこのSランクダンジョンのダンジョンマスターをしてます』


「ダンジョンマスター・・・」


 まあ、ダンジョンのボスの中から出て来たんだからダンジョンで一番偉いと言う意味なら、なんとなく予想はしていた。


『名前は……わかりません。 あと・・・たぶん・・・人間です』


「「 はぁ!?! 」」


 メイと息が合った。流石に今の発言には驚いた。

 この生き物はどう見ても、ぬいぐるみだ。百歩譲っても、犬か熊だ。人間には到底見えないし、名前がわからないとはどういう事だ?


「お前は自分を人間だと言うが、どう見ても人間には見えない。詳しく説明しろ」


『えぇっと、ボクもどうしてかは解らないけど、人間だった記憶?思い出?があるんです。でも名前とかはわからなくて――――』



「・・・なるほど。まとめると、お前は元人間で誰かに記憶と体を弄られて、ダンジョンマスターをするように命令された」


『はい』


「他にも大勢お前と同じような立場のヤツがいたが、拒否したら殺された。命令したヤツの情報は全くわかない」


『はい』


「命令の内容はダンジョンマスターになって戦え。それだけか?」


『はい』


「だから俺たちと戦ったって事か・・・」


『えっ? ち、違います。戦う相手はダンジョンマスターです』


「ハァ? ダンジョンマスター同士で戦うのか。じゃあ人間と戦う意味は無いのか?」


『人間を倒したりするとダンジョンポイントが増えて強く成ります。ダンジョンマスターにとって人間は敵ではなく、エサです』


 エサか・・・。人間を敵として認識してるよりもマズいんじゃないのか? だが、Sランクでこの程度なら人類が一方的に駆逐される事もないだろうな。

 それよりも気に成るのは、ダンジョンポイント・・・俺の冒険者カードにも記載されているアレか。同じ物がダンジョンマスターにも存在する。


 なんだか、きな臭い感じがしてきたな。誰かが俺たち人類を弄んでるような気がする。


「じゃあ、最後に1つだけ訊かせろ。お前は俺たちに敵対するか?」


『ヒィィッ! お助けー! 言う事聞きますから、殺さないで下さい!』


「カゲちゃん、可愛そうだよ。イジメちゃだめだよ!」


 イジメるとかの問題じゃないだろう。ダンジョンマスターは人類をエサだと思ってるんだぞ。そんなのと仲良く出来る訳がない。


 ダンジョンマスターも放っては置けないが、今はそれよりも重要な事がある。


「メイ、帰るぞ。夕食に遅れたら、俺まで怒られちまうからな!」


「うん!」

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