-04- 引きこもり と トランスフォーム
「カゲちゃん、御機嫌だねぇ」
「久しぶりに旨い物を食べたからな。引きこもりにとっては最高の贅沢だ」
10年も引きこもっていれば、通販で買える物は大抵買ってる。品揃えが変わらなければ同じ物を食べるしかない。多くの店舗が有るとはいえ、店舗数も商品数も有限なのだ。
食べ終わった包装や空き缶が霧散して消えていく。不思議な光景だ。爺さんから引き継いだ記憶にもこんな現象を説明出来る知識はない。
いったいダンジョンとは何なのだろうか。
「じゃあ出発するぞ。サッサと帰らないと俺まで叱られそうだ」
「そうだね。夕食に遅れたら、お母さんに怒られるぅ~」
俺たちは新たに出来た階段を駆け下りた。
階段の先に待ち受けていたのは、双頭のトナカイだった。角同士がブツカリ合って常に頭を傾けている。
「お互いの角がじゃまで、まともに歩けて無いだろ。あれに何の意味があるんだ?」
俺はフラフラと近付いてくるトナカイの頭と頭の間に、疑似特異点を作った。
トナカイはあっと言う間にブラックホールに吞まれて消えた。
階段を降りると、次の階層にいたのは雪ダルマだった。
俺が近付くと、枝で出来た手の先から何かを連続で放って来た!
俺は左手を前方に突き出して、俺の前の空間と雪ダルマの側面の空間を繋いだ。
雪ダルマから放たれた何かは俺の目の前まで来ると消失し、雪ダルマの真横から出現した。放たれた勢いそのままに、雪ダルマに全弾命中し雪ダルマは木端微塵に砕け散った。
「自分の攻撃で砕けるって、防御力低すぎるだろ。所詮雪ダルマだから仕方がないか」
次の階段を降りた第4層には超巨大な鏡餅がドデーンと構えていた。
すこし近付いて見たが全く動く気配が無い。デカ過ぎて動けないのだろう。
「でっかいねぇ、カゲちゃん……」
「ダンジョンって中途半端に地球の文化を知ってるようだな。誰から訊いたんだろうな」
俺はモチの部分を余剰次元に放り込んで、残ったミカンの部分を踏み潰した。
「・・・カゲちゃんって強いんだね」
「俺が強いというよりも、相手がオカシイだけだろ。トナカイはマトモに歩けない。雪ダルマは自爆。鏡餅はデカ過ぎて動けない。誰でも勝てるだろう」
「そうかなぁ」
「次はたぶんボスだろう?早く倒して、早く帰ろうぜ!」
階段を下った階層は、吹雪で真っ白だった。
徐々に雪がおさまって行き、敵が姿を現した。大きな山の稜線に左右1羽づつ鷹が停まっている。ただ、サイズ感は滅茶苦茶だ。山の大きさが鷹の10倍しかない。鷹が多き過ぎてバランスが悪いのだ。
『侵入者か?』
『侵入者だな』
『ヤルか?』
『ヤルしか無いだろ』
『面倒くさいな、帰ってくれないかな?』
『ここまで来て帰る訳ないだろ』
鷹同士で訳のわからない事を話してる。どうやら別々に自我があるようだ。
メイは基本的に戦えないので、2対1の戦いになりそうだ。
「メイ、少し離れてろ。お前を守りながらだと、少し厳しいかもしれない」
メイは後退りする様に、今入って来た階段の有る方へとゆっくり移動する。
俺はメイが移動したのを確認すると、左の鷹の頭の上に疑似特異点を発生させた。次の瞬間、鷹はブラックホールに飲み込まれて消えた。
その様子に驚いた右の鷹が、俺に向かって口から何かを飛ばして来た!
俺は右の鷹にも疑似特異点を出そうとしていたせいで反応が遅れてしまい、地面を転がる様に避けるのが精一杯だった。体制の崩れた俺に追い打ちをするように鷹は何かを放ってくる。
ギリギリの所で、俺の前方の空間と後方の空間を繋げる事に成功した。ミサイルのように飛んでくる何かは毎回3つ1セットで飛来し、俺をすり抜けて後方へと飛んで行く。
何十発も撃たれて気が付いたが、鷹が放ってるのはナスビのようだ。つまり一富士二鷹三茄子って事だ。
このダンジョンは色んな意味で間違っているが、地球の文化に毒されているのは確かなようだ。
ナスビミサイルの発射が止まった瞬間、俺は自分の耳を疑った。
『なんだ、まだ生きてるのか?』
『なかなか当たらないんだ』
『何をチンタラしてる、俺が手柄を奪っちまうぞ』
『良いからお前も手伝えよ』
倒したハズの左の鷹が復活していやがる。
どうなってる?2羽同時に倒さないとダメなパターンか?それとも、もっと他に条件があるのか?
迷ってる時間が惜しい。俺は両手を突き出して、それぞれの鷹の頭上に疑似特異点を発生させた。次の瞬間、2羽ともブラックホールに飲み込まれて消えた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
呼吸に血の味を感じる。鼻を袖で拭う。結構な量の鼻血が出ていた。無理をし過ぎたようだ。
―― ゴゴゴゴゴ・・・
「メイ! そこに居ろ! まだ来るなよ!!」
空気を震わすような音と共に地響きが始まった。
周りを良く見ると、山が形を変え始めている。一部は折りたたんで小さくなり、一部は伸びて大きくなっていく。まるで変形ロボットだ。
気が付くと復活した2羽の鷹が、上空を旋回していた。
「マズい。非常にマズい。3体も同時には相手出来ないぞ。・・・ハァァァァ。仕方が無いか」
俺は地面に手を突き集中を始めた。
これはメイには見せたく無かったんだが、もう手段を選んでる余裕が無くなった。
上空を旋回してる鷹が、俺の様子をみて何か言ってるようがだ気にしない。いや、気にする余裕はない。今は集中力が必要なのだ。
「ベビー・ユニバース!!」
俺の掛け声で、俺と俺の周りの空間が一気に歪んだ。歪んだ内側の空間が僅かな時間見えなくなり、歪みが消えると俺がもう1人現れていた。
「よぉっ、久しぶり」
「ハァ、ハァ、悪いな。頭上の鷹を2羽とトランスフォーム中の山を1つ倒したい。手を貸してくれ」
「バイト代は高いぞー」
「あの鷹は好きにして良い。何回倒しても復活する」
「マジで? ワンコ蕎麦状態かよ! ちょっとヤル気出て来たゾ!」
もう一人の俺は、早速2匹の鷹を体ごと余剰次元に入れた後、手の届く所に頭だけを出現させた。余剰次元に保管してあったと思われるハンマーを取り出して、鷹の頭部を潰し始めた。
容赦のない1撃だ。返り血を浴びても全く気にしてる様子が無い。並行宇宙の俺とはいえ、俺よりも頭がブチ切れている。
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