-03- 引きこもり と 冒険者カード

「ど、どうしよう。夕食に遅れたら怒られるよ・・・」


 夕食よりも閉じ込められた事を心配しろよ!


「あそこに扉がある。出口とは思えないが進む事は出来る。進み続けたらそのうち出れるだろう」


 メイがLEDで照らした先には銀色の扉が立っていた。趣味の悪い装飾がされており、いかにも怪しい雰囲気を出している。


「気持ち悪いデザインだね。地獄につながってたりしてね」


「行き先が地獄でも、あの扉以外に進む場所が無いなら行くしかないだろ」


「え? 行くの・・・?」


「他に進める場所が無いのだから、仕方が無いだろう」


「でも、不気味なレリーフが彫ってあるし、絶対ろくでもないことが待ち構えてると思うよ?」


「それは、この扉をデザインしたデザイナーにでも言ってやれよ」



 ―― ギギィィィィ


 俺は扉に手をかけて、ゆっくりと押し開いて行く。

 俺が1歩進むと、メイは俺のうしろにピッタリと付いて来る。


「何も居ないな」


「そ、そうなんだ。・・・警戒して損しちゃった」


 扉の先は、先程の闘技場のような空間とは違い、静寂が支配する闇の空間だった。

 LEDで照らしても何も見えない。光が減衰して見えないのか、光が届く距離には何も無いのか、それすら判らない。


「いきなり大量のモンスターに襲われるよりは、良かったな」


『ようこそ。我が主のダンジョンへ・・・』


「ひぃっ!!」


 声が聞こえるまで全く気配を感じなかった。今この瞬間に現われたのか、最初から居たのか解らないが、その存在は闇の中に立っていた。

 白を貴重とした赤い服と赤い帽子。まるで季節外れのサンタだ。だが、どうにも腑に落ちない。


「サンタか? 1つ訊いて良いか?なぜ赤い鼻を付けてるんだ?」


 俺の記憶では、鼻が赤いのはトナカイだ。なぜサンタの格好をして鼻を赤くしてる。意味がわからん!


『では自己紹介をしよう。我はサンタ。モンスター脅威度SSにして、このSランクダンジョン第1層の守護者。我はプレゼントする事を喜びとしている。お前たちにもプレゼントしてヤルので有難く思え。それじゃあ、まず大きい方のお前。お前にクレてヤルのは・・・死だ!』


「!?カゲちゃん!?」


 メイが悲鳴のような声を上げた。


 サンタは何処からともなく出した大剣で、俺の胸を一突きにした。その剣は俺の心臓を貫き、剣先は背中へと大きく突き抜けている。


 俺は胸に刺さった剣を見つめながら、1歩下がった。そのまま、また1歩、また1歩と、ゆっくり後退りして剣を体から抜いた。


「え?」


『なんで生きてる?』


 2人のマヌケな声が響いた。


「あっ、悪いな。俺のTシャツの前と後の空間を繋げてるから、すり抜けるんだわ」


『何ィーーー!?』


「次は俺の番だな」


 俺の言葉を聞いたサンタが剣を構えようとした。

 そこでサンタは剣が無い事に気が付いた。無いのは剣だけではない。両手も消えていた。次の瞬間両足も消え、胴体も消えた。そして頭部が自由落下を始めた。

 頭だけになったサンタが、地面を転がりながら俺に訊いてきた。


『ドッ・・・ドウナッテル?』


「余剰次元にツッ込んだだけだ。切断した訳じゃ無いから痛く無かっただろ」


『ヨジョー?・・・・・・ナニヲイッテル?』


 俺は余剰次元に入れたサンタの大剣だけを、サッと取り出してサンタの頭にブッ刺した。


「サンタを殺すって後味悪いな。まぁ、1度もプレゼント貰った事無いから罪悪感は無いな」


「カゲちゃん! 今のは何? どうして剣が消えたり現れたりしたの?」


「この世界は3次元だけど他にも次元が重なっていて、普通は他の次元に干渉出来ないが俺は空間操作で、・・・・・・・・・あぁ~。つまり4次元ポケットだ!」


「そうなんだ!良くわかった」


 メイの屈託のない笑顔を見てると、どっと疲れが出た。

 モンスターを相手にするよりも、メイの方が疲れるのはどうしてだろう。


 剣の刺さったサンタの頭部が霧散して消えていく。それと同時に場を支配していた闇が薄れていった。

 この闇はサンタの能力だったようだ。サンタが消えるとメイが持っているLEDで遠くまで見えるようになった。


「カゲちゃん。何してるの?」


 俺はサンタの頭があった場所で注意深く探し物をしていた。


「モンスターを倒したら普通ドロップするだろ? ゴールドとか、ちっちゃなメダルとか、何かドロップするのが普通だ」


「ここはゲームじゃなくてダンジョンだよ。そんなの落ちて無いと思うなぁ」


「あっ! 見つけたぁ!」


「えぇっ!?」


 メイの予想に反して、俺はドロップ品を見つけてしまった。

 メイが駆け寄って来て、俺が拾い上げた物をLEDで照らした。


「メイ、これは何だと思う?」


「・・・2つ? 何かのカードかなぁ」


 材質は紙では無い。プラスチックよりも硬そうだが、金属にしては弾力がある。LEDの光源が透けて見えないのでそれなりの密度はあるようだ。

 表面は表も裏も真っ黒で何も書いてない。質感は滑らかで金属っぽさを感じる。

 片方をメイに渡し、擦ったり舐めたり叩いたりしていると文字が浮かび上がった。


「え? 今、どうやったの?カゲちゃん!」


「なんか適当に叩いたら出てきたぞ。・・・こうして……」


「・・・ダブルタップをダブルでする?」


 タタンッタタンッ


「あ!出た。これ冒険者カードだよ! 凄いよカゲちゃん!」


 俺には何が凄いのか全く理解出来ない。確かにこのカードの性能は凄いだろう。この薄さで叩くと表示されるなんて技術は見た事も無い。

 だが今カードに表示されている内容は、俺が愛用しているゲームのステータスに比べたら項目数が少な過ぎる。ステータスの成長を見ながらレベリングを行うのは常識で、これでは全くヤル気が出ない。



【名前】 我生陰々々

【職業】 自宅警備員

【戦闘力】SSS

【ランク】1位

【DP】 520211


【名前】 黒鉄芽唯伝

【職業】 学生

【戦闘力】E

【ランク】19位

【DP】 10404


「うーん。1匹倒しただけで1位なのか。意味がわからないな」


「えっ!私、19位だって!何もしてないのに!!」


 戦闘に同席しただけのメイでも19位なのか。そもそもダンジョンに潜ってる人間の数が少ないって事だろうな。メイの話しではダンジョンが初めて見つかったのは昨日らしい。その前日から出現してたとしても、まだ2日だ。こんなダンジョンに入るような物好きは、そうそう多く無いだろうな。

 俺がカードから興味を失って、ポケットへ入れようとするとメイが話しかけてきた。


「ねぇ、カゲちゃん。このカード、まだ他にも機能が有るんじゃない?もう少し調べてみようよ!」


 正直、そんな事は帰ってからゆっくり試した方が良いとは思ったが、ダンジョン内でしか動作しない可能性もある。

 何しろこのカードは俺の知識にも無い謎の物体だ。予想外の仕掛けが有っても不思議では無い。


 2人でカードを弄り回して色々と判明した。


 1.名前以外の欄は長押しすると公開、非公開が選べる。非公開だと自分以外からは見えなくなる。

 2.戦闘力は武器を含めてのもの。メイが武器を手放すとFに下がった。

 3.ランクは戦闘力とは関係ない。たぶん得た経験値の量と推測される。

 4.DPはダンジョンポイントと言うらしい。欄をダブルタップするとオンラインショップのような画面が出た。購入するとポイントと引き換えに商品が目の前の空間に現れる。



「おぉっ! このお菓子は旨いな。メイも食べるか? う~ッ、デカパインサイダーの炭酸がキツイな」


「これ、美味しいね。私も何か買ってみようかなぁ……でも食べ過ぎたら夕食が食べれなくなって怒られるかも……」


 このDPは凄いな。これが有ればダンジョン内で飢え死にする事も無い。それどころか、あらゆる商品が手に入る。高額な物ではミサイルや戦車まである。実際に買うヤツがいるのか解らないが、俺のポイントでも足りない事を考えるとそう簡単には買えないだろうな。もし購入した商品が地上でも使えるなら、ダンジョンへの立入を国が禁止しそうだな。


「お!メイ。なんだそれ?ケーキか?何処に有った、俺も買って食べる!」


「ふっフ~ン。教えな~い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る