第11話
~~死地へと向かう荷造り~~
歪神拠点への間引き作戦が実行されることが通達された。歪神拠点Y-856が俄かに活性化し、眷属の生産が活発に行われているという事だ。これは氾濫までの期間が大幅に短縮された事を現している。コーウェンズ監視基地の司令部はこの事を重く受け止め、基地の総力を挙げて間引きを行う事を決定した。
近日中にY-856に対して間引き作戦を実行するのは確定だが、本来であれば後方のサラスヴァティ駐屯基地からの増援を受けて戦力を充実した後行われる予定であった。しかし、先日からの歪神拠点の眷属増産体制を見るにサラスヴァティ駐屯基地からの増援は間に合わないと司令部は判断した。
このため、現在コーウェンズ監視基地の持てる総力を結集し、間引きを行う事となったわけだ。この場合の総力とは訓練生も含めてという意味であり、ユウト達もついに実戦の場に出る事となるのだ。
「で、今回は訓練生がいる事も考慮して機甲騎士は1個中隊ではなく2個中隊。魔装騎は1個小隊ではなく2個小隊で行動するようにってことになったと?」
作戦指令書を読み、ベルンハルトが確認するように事務官に言葉を投げる。
「はい。今回は卒業試験を兼ねていますが、今回の歪神眷属の増産は想定外の事態であり通常よりも1集団の数を大きくしたいとの事です」
「了解しました。因みに僕たちホワイト小隊と組むのは何処でしょうか?」
「オレンジ魔装騎小隊と第24・第32機甲騎士中隊と一緒に行動していただきます」
オレンジ小隊はヴァネッサ・サーブリコヴァーが所属する小隊だ。軽量2脚で編成された快速打撃部隊という編成だったはずだ。第24機甲騎士中隊もベテラン揃いだと聞いている。
「了解しました。では、これから彼らとブリーフィングを行うのでブリーフィングルームの手配をよろしくお願いします」
事務官は了解と敬礼をすると、12番ブリーフィングルームのカードキーを渡して部屋を去っていった。
「さて、僕たちもいこうか」
指の間にカードを挟みヒラヒラと振って見せたベルンハルトについて12番ブリーフィングルームへと向かうユウト達。
硬質な足音が響く基地内の廊下を歩き、12番ブリーフィングルームにつくと丁度オレンジ小隊と第24機甲騎士中隊の隊長たちも到着したところだったようだ。後からはおまたせと第32機甲騎士中隊の隊長たちも到着していた。
ひらひらと小さく手を振るヴァネッサにユウトも小さく手を振り返すと、何故かエステルが脇を抓って来た。
「それじゃあメンバーも集まったことだし、ブリーフィングを始めようか?」
ベルンハルト・グッドフェローが口を開く。基本的に灯火の騎士は特務階級と言って一つ上の階級として扱われるが今は訓練生の准尉、一つ繰り上がったとしても少尉待遇でしかない。今回集められた中には機甲騎士中隊の隊長もいる。中隊長と言えば大尉だし、その下にいる機甲騎士小隊を纏める小隊長だって中尉だ。にもかかわらず、ベルンハルトが音頭をとっているのはこの間引き作戦事態が現在の訓練生への最終試験として位置づけられたからだ。
勿論下手な戦術を提案されても困るので、今回は各機甲騎士中隊の中隊長が監視役を担っている。中隊長たちの厳しい視線だけではなく、小隊長とその周りに開いたホログラフウィンドウにはブリーフィングルームに入りきらなかった機甲騎士小隊の隊員たちの顔が映っている。
「さて。今回僕が提案する戦術は比較的単純なものだ」
ベルンハルトがブリーフィングルームに備え付けられているモニターを操作すると歪神拠点を中心とした戦術図が映し出される。西から東に向けてABC、北から南に向けて1、2、3と区切られており、EFGと456が交差するエリアの色が変わる。
「ここが僕たちが担当する区域となる訳だが、地形図を見て貰えるとわかる通り歪神拠点から見てなだらかな上り坂となっている。そこで機甲騎士中隊を1個中隊ごとでV字のラインを構築して十字砲火を行って貰う」
以前の演習後のミーティングで提案されたがベルンハルト自身が無理だと判断した戦術だ。
「今回この戦術をとるにあたって重要なのは投入できる火力総量と、敵の誘い込むための囮役だ」
そういうと、オレンジ小隊の方に視線を向ける。
「なるほど。つまり、俺たちで眷属どもをこの殺し間に引き摺り込めばいいって事だな?」
ブルネットの髪にヘーゼルの瞳を持つオレンジ小隊の小隊長セドリック・アーミテイジ。筋骨隆々で魔装騎のコクピットに入るのに一苦労しそうな体格だ。
「そうだ。軽量級で構成されている快速のオレンジ小隊による釣りだしを行って、これを十字砲火で殲滅する。今までは敵拠点に直接砲撃を行って出てきた眷属を叩くという戦術をとっていたが、これだと敵の規模を制御できないという難点があった」
「なるほどな。それで魔装騎で制御可能な数を釣りだして叩くって寸法か」
「ちょっと待って欲しいね」
二人の会話にトレスプシュ大尉が割り込む。
「確かに少数ずつ釣りだすのはいいと思うがね。想定よりも多く連れた場合はどうするんだい?」
「前提としてオレンジ小隊は退き撃ちで前衛突撃種の数を減らしながら釣りだして貰う。他種との速度差で敵対列は伸びるはずだ。それにいざとなったら僕たちホワイト小隊も前に出る。前衛突撃種さえ抑えてしまえば機甲騎士中隊の火力で殲滅できると思うがどうだろうか?」
「了解した。それならあたしはこの戦術には賛成だ」
トレスプシュ大尉の一言が決め手となったのか、機甲騎士小隊の配置などが次々と決まっていき、無事ブリーフィングは終了した。ユウトも漸く解放されるかと思っていたら1人の少女が声を掛けてきた。ヴァネッサ・サーブリコヴァー、ユウトと同じ灯火の騎士の一員だ。
「ユート君。今度の作戦は一緒だね!」
「あぁ、最終試験でもあるから気が抜けないけどな」
「今回も危なくなったら助けてね」
「了解了解」
柔らかい笑顔を投げかけた後、オレンジ小隊と一緒にヴァネッサは立ち去って行った。
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