第10話

予約投稿てたつもりなんです信じてください。

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~~穏やかな日常の足音はやがて疾走へと変わる~~


 コーウェンズ監視基地の近郊には休暇中の兵士向けに色々な店舗が軒を並べた街がある。今日はエステルに連れ出されたユウトは辟易としていた。何せ女性の買い物は長いと相場は決まっている。女性ものの服を見に行くから付き合えと、朝から叩き起こされたのだ。休日である今日は一日魔装騎のカタログを見て過ごすつもりだったのだ。


「ねぇねぇユート。この赤と緑のワンピースどっちがいいと思う?」


 そんなユウトの憂鬱を無視して、エステルからの無茶振りが飛んでくる。正直女性の服飾なんてさっぱりわからない。だが、どっちでもいいと言ったらエステルは間違いなく拗ねる。


「エステルの髪に合わせるならそっちのミントグリーンの方があうんじゃないか?」


 右手に持っている緑、ミントグリーンの方が左手に持っている赤の服より若干大事そうに持っているのを見て、ユウトが答える。


「やっぱりユートもそう思う?」


 嬉しそうなエステルに若干の後ろめたさを感じながらこの埋め合わせはショッピングに付き合う事でどうにかしようと思ったが、そもそもエステルが連れ出さなければこんなことにはなっていなかったことを考えると微妙な気分になってしまう。


「ちょっと休憩しましょ。お勧めのカフェがあるの」


「了解了解。ちょっと小腹も空いたし行こうか」


 エステルに手を取られ引っ張られる。思ったより柔らかな感触で心臓が高鳴るが、そもそもエステルは小隊の仲間でコミュニケーション能力も高く距離感も近いからこれが普通なのだと、誰へとも知れない言い訳を心の中でしながらエステルに連れられて目的のカフェに向かった。


「お、ユートとエステルはデートか?」


「デデデデデートじゃないわよ!ユートがいつも通り引き籠ってるから偶には連れ出してあげただけよ!」


 目的のカフェには先客がいた。そもそも休日に行ける街はここしかないのだから出会う可能性は十分にあった。ベルンハルトとシュシュが優雅にお茶を飲んでいた。顔の良いベージュのジャケットにセーター、スラックスを履いたベルンハルトと長身でフェミニン系のファッションを身に纏ったシュシュが向かい合ってお茶を飲んでいると雑誌の表紙のような雰囲気が出ていて、ユウトとしてはちょっと近寄りがたい。


 顔を真っ赤に染め上げて否定するエステルにユウトも言葉を重ねる。


「そうだぞ。俺はエステルに連れ出されて、服屋周ったりしただけだ」


 マジかこいつ。そんな目でベルンハルトとシュシュがユウトの事を見た直後、エステルがユウトの足を思いっきり踏みつけた。痛みに蹲りながら女性は本当に良くわからないと呻くユウトだった。


「じゃ、じゃあ。一緒にお茶でもしようか?」


 呻くユウトを見ながら怒り心頭のエステルを宥めるためにベルンハルトが提案する。シュシュがエステルの肩を軽くたたき落ち着くように促す。


「ユートは鈍ちんですからね。はっきりと言わないとわかりませんよ」


「デートじゃないって言ったわよね!」


「なんで俺は怒られなきゃいけないんだよ。理不尽じゃないかベルンハルト?」


「いやー、今のはユートが悪いね」


 ウェイターを呼び止め、それぞれ好きな物を注文していく。ユウトは抹茶ムースに深煎りのブラックコーヒー。ベルンハルトは紅茶にリンゴのシュトレーゼを楽しそうに口に運んでいる。エステルは、カフェラテと苺のショートケーキに目を輝かせていた。シュシュはミルクティーにマカロンとを美味しそうに食べている。とりとめのない雑談で時間が過ぎていくのがユウトにとっては心地よかった。


 夕方まで続いたお茶会は、楽しさのあまり時間を忘れてしまう程で、危うく門限を破ってしまう所だった。






 明るい照明が照らす落ち着いた雰囲気の作戦会議室は、その部屋が持つ雰囲気とは異なる重苦しい雰囲気に包まれていた。会議に参加している佐官たちは配られた資料を前に誰もがため息をつきたい気持ちだった。


「これが今回の観測の結果です。ここ数週間で眷属の数が爆発的に増殖しており想定より一月以上は氾濫は近いと予想されます」


 会議室のモニターに映し出された歪神拠点内の個体数の増加グラフを指しながら進行役のダニオ・コラッツィーニ少佐が告げる。各種センサーと偵察用ドローンを飛ばした結果、拠点規模に対しての個体数が氾濫を起こす数字に近付いていた。


「それと気になる点としては、観測用ドローンが今までと違い積極的に射撃種によって撃墜されています。これは今までになかったことですね」


 歪神拠点は基本的にドローンによって監視されている。定期的にカクシュセンサーを搭載したドローンを飛ばす事で個体数や眷属の各級各種の割合を確認し、このデータを元に間引き作戦を行うのだ。


 歪神の眷属は一定以上の大きさのものにしか反応せず、歪神の拠点の上を航空機を飛ばせば当然のように猛烈な対空砲火を浴びせてくるが、ドローンのように小型の飛行体に対しては今まで特に反応する事はなかった。しかし、今回はそのドローンが積極的に撃墜されているというのだ。


「うぅむ。偵察をドローンに頼っている我々としては目を潰されたようなものか。他の歪神拠点で同様の事例が無いか問い合わせておいてくれ」


 コーウェンズ監視基地の司令官であるゴードン・オールディントン大佐が言葉を続ける。


「歪神の眷属にどのような変化があったにせよ間引き自体は行わなければならないな」


「その通りです。近日中に間引きが必要ですな。しかし、本来投入される予定だった後方のサラスヴァティ駐屯基地から戦力の補充は間に合わないと思われます」


 後方のサラスヴァティ駐屯基地から氾濫を防止する為の追加戦力を送ってくる予定ではあるが、輸送スケジュールと氾濫が発生する時期は合わないのが現状だった。


「致し方ない。間引きへ訓練生を投入して最終試験としよう」


 ここで人員の補充を待って氾濫を引き起こすわけにはいかない。どの道試験として実戦を経験させる必要はある。錬度として不安は残るが投入せざる負えなかった。


「訓練生の実戦投入か。出来れば避けたい事態ではあったが各員には苦労を掛けるが宜しく頼む」


 ゴードン・オールディントン大佐の指示の元、間引きについての具体的な作戦立案が始まる。基本的にはネクラーソフ・ドクトリンに沿って遠距離からの砲撃により歪神の眷属を釣りだし、これを機甲騎士によって叩き、出現した成熟個体に対しては魔装騎小隊をぶつける。今までと同じように熟せばいいだけだ。精々互いに面識があり連携が取りやすいであろう演習で組んだ部隊同士を組ませるぐらいだろう。何も問題ない。ないはずである。にも関わらずこの背筋を這い上がる悪寒はなんだろうか。不安を振り払うようにゴードン。オールディントン大佐は目の前に積まれた書類を捌いていくのだった。

 

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