第9話
今回はちゃんと予約投稿出来ました。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
~~演習なんて終わってからが本番だよ~~
「よし、全員シャワーを浴びてさっぱりしたところで今回の演習の振り返りと行こうじゃないか」
トレスプシュ大尉の一言から『Y-856間引き作戦』の感想戦が始まる。会議室に備えられた大型モニターが映し出す戦場全体図から今回ホワイト小隊と第32機甲騎士中隊が受け持ったエリアが拡大される。
「さて、今回の損耗だがうちは10小隊中4小隊分が喰われたわけだ」
トレスプシュ大尉の言葉に何名かの機甲騎士乗りが項垂れるのを見て、ユウトは奥歯を噛み締める。例え演習でも、いや演習だからこそせめて組んだ機甲騎士たちの救援には素早く応えて被害を抑えたかった。
「あぁ、勘違いしてる様だがホワイト小隊の働きに不満はないよ」
そんなユウトの気配を察してかトレスプシュ大尉が視線をよこしながら声を上げる。実際に、ホワイト小隊の働きに文句を言う人間はここにはいなさそうだ。視線をさまよわせるユウトに笑顔や頷いて応える人間たちばかりだ。
「今回の損害は、こういっちゃなんだが平均的な被害だ。まぁ、4割を平均的って言うと割と絶望的ではあるがね」
トレスプシュ大尉が肩をすくめて皮肉気に笑う。
「となると、問題はこの被害をどれだけ食い止められるか。今回の演習で何らかのミスがあったか確認していこうじゃないか」
会議室のあちこちで話し合いが始まる。
「さて、こっちはこっちで連携について話して以降じゃないか」
トレスプシュ大尉が会議室の一角に設置されたテーブルに腰を下ろし、ホワイト小隊の面々に声を掛ける。誘われてユウトたちは各々腰を下ろし、テーブルの天板に設置されたモニターを見やる。モニターには戦況の推移と特に被害が大きかった小隊位置や歪神眷属の動きが矢印などで示されている。
「やはり、M級前衛突撃種の被害が大きいですね」
時速150kmで突っ込んでくる機甲騎士の55mmアサルトライフルでは抜けない正面装甲を持つ歪神眷属の最前衛を務める種だ。55mmアサルトライフルならまぐれ当たりで脚を潰すぐらいしか突進を止める手がなく、88mm砲か105mmスナイパーライフルの直射でしか止められない。44mm対空砲で地面を耕して相手の速度を落とすことが精一杯だ。
「となると、鶴翼陣形を敷いて前衛突撃種を誘引して、側面から削るのが現実的かねぇ」
「正面戦闘が得意な敵と同じ土俵で戦う必要はないと思います」
トレスプシュ大尉の呟きにベルンハルトが応える。問題点があるとすれば。
「誘引する方法ですが、魔装騎を使うしかないですわね。機動戦力をそこに張り付けるのは難しいのでは?」
シュシュの言う通り、魔装騎は戦場を縦横無尽に機動し窮地に陥った機甲騎士への救援を主に担当している。実際今回の演習でも魔装騎部隊に助けられた機甲騎士たちは多い。
「それに関してなんだが、ちょっとこいつを見てくれ」
モニターを女性と言うよりは兵士と呼ぶにふさわしい指先でタップし、機甲騎士たちの被害データを呼び出すトレスプシュ大尉。映し出されるのは今回の演習で撃墜された機甲騎士たちの状況だ。何れもM級前衛突撃種によって跳ね飛ばされ、騎体が破損したところを後続のS級格闘種に喰われたり、射撃種の照射を浴びて蒸発している。それらのデータをみたベルンハルトが答える。
「なるほど、前衛突撃種の突撃さえ何とか出来れば被害は確実に減ると?」
「あぁ、正直こっちの手持ちの火器じゃ連中を抑えきれない。だが、魔装騎の扱う武器なら話は別だ。正面装甲も抜けるだろ?」
実際問題として、確かに魔装騎の55mmアサルトライフルであれば正面装甲を抜けはする。しかしだ。
「無理ですね。この数を捌くには魔装騎4騎では足りない。最低でも2個小隊は必要になります」
正面装甲を抜いて仕留める事が出来たとしても、問題になるのはその数だ。流石に時速150km、秒速41mで迫る30体近くの眷属を4騎の魔装騎だけで押しとどめるのは無理だ。
「機甲騎士で左右から削っても難しいかい?」
「無理でしょうね。この場合機甲騎士は後続の格闘種や射撃種の相手で対応能力の限界を迎えるでしょう」
「対M級地雷を含めればどうだい?」
「それでも難しいですね。どの道魔装騎を餌にするにはそれなりの蒼炎化率か必要です。仮に引き込むことができてもその後の戦闘までは持たせるのは無理があります」
「やっぱり難しいかぁ。となると機甲騎士の火力を上げるか地形効果で対応するしかないか」
突撃衝力を殺すには火力か地形というのは古来からの伝統だ。こちらの有利な点は戦場をある程度自由に設定できることだ。
「事前に地雷を埋設して、高低差を作って」
やれる事を指折り数えながらうんざりした顔になったトレスプシュ大尉はため息をついた。
「工兵たちにはだいぶ働いてもらわないといけないねえ。あとは設置型の重機関砲があればなんとかなるか?」
「カーロフの無反動砲なんかどうですかね?」
ユウトはこの前カタログで見た製品の事を提案してみる。カタログスペック上はM級前衛突撃種の正面装甲を抜けるはずだ。
しかし、反応は芳しくなかった。
「無反動砲か。悪くはないんだけど数が打てないんだよねぇ。一個集団20〜30の前衛突撃種分の。まてよ」
途中まで否定的だったトレスプシュ大尉は考え込んだ。ロケットランチャーならハードポイントに専用のラックを付ければ複数持ち歩けるのではないか。
「一度上に掛け合ってみるよ。ひとまずこっちはこれぐらいかねぇ」
第32機甲騎士中隊の各小隊長からトレスプシュ大尉にミーティングのログが渡されるとトレスプシュ大尉に促されて席を立つ。
「さて、こっからは交流会だ。我らが英雄たる灯火の騎士との仲を深めようじゃないか」
歓声とともに部屋に食事や飲み物が運び込まれてくる。ハードな演習の後のささやかなご褒美だ。食事の乗ったカートの前に整列する様は軍隊らしくて少し面白かった。飲み物も珍しくアルコールが出されており、酒好きが集まったテーブルが出来上がっている。
ユウトも食事の乗ったプレートを持ってホワイト小隊が集まるテーブルに向かおうとしていたら、小柄な少女が声を掛けてきた。
「あ、あの演習ではお世話になりました。成熟個体から助けて頂きありがとうございました!僕は第32機甲騎士中隊第7小隊所属のオデット・デュボワ少尉と言います!」
「あぁ、あの時の。無事で何よりでした。ユウト・サキガワ特務准尉です」
特務准尉とは灯火の騎士たちは通常階級より一段階上の扱いを受けるため、特務とつくのだ。なので、デュボワ少尉と同じ階級として扱われる。外向けの笑顔を浮かべてオデットに答えるユウト。
「あの時は本当に助かりました。撃墜されたら腕立て伏せ300回の罰則だったんですよ」
「うわぁ。それはきつそうですね。助けになって何よりです」
じっとユウトと目を合わせるオデットが言葉を続ける。
「貴方たちは私たちの希望です。差別する人達もいるかもしれませんが、少なくとも私にとって本当にヒーローなんです。だから、これからもよろしくお願いします」
じっと目を合わせた後、一礼した後オデットは去っていった。
「ユートー!こっちよこっち!」
自分を呼ぶエステルの声に呼ばれ、ホワイト小隊の集まるテーブルに向かうユウトを迎えたのはほほを膨らませて不機嫌ですと主張するエステルだった。
「で、あのか~わいい娘はどちらさまぁ?」
「演習の時に助けた人だよ。ほら、成熟個体とやった時に逃げ遅れた人」
「へー」
ジト目のエステルに何故こんな目をされなければならないのかと思うユウトだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
きっと新しいヒロイン登場ですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます