第8話
~~戦闘とはそれまで積み上げてきた結果の集大成、故に積み上げろ~~
振り上げられた巨大な鎌がユウトの操るホワイト2に向かって振り降ろされるのをベルンハルトが乗るホワイト1が間に割り込み掲げた大盾で受け止め、金属を削る耳障りな音が響き渡る。ホワイト1は挑発するように55mmアサルトライフルを成熟個体の頭部に向かって連射するが、狙いを付けずにばら撒いた弾頭は硬質な顎に当り弾かれ、残りは命中することなく通り過ぎて行った。
「どんな馬鹿力だよ!受けれてあと数回だ。盾が持たない!」
攻撃が煩わしかったのか、成熟個体がホワイト1に狙いを定め20mの巨体の向きを変えホワイト1を正面に捉えるが、それを待っていたかのようにエステルの乗るホワイト3が55mmアサルトライフルから持ち替えた105mmスナイパーライフルを側面から撃ち込むが、首を振って回避される。即座に105mmをラッキングし、55mmアサルトライフルをばら撒き牽制しながら距離を取るホワイト3。ホワイト3がいた空間を成熟個体の頭部の触角が薙ぎ払う。
「うっそでしょ。アレを回避するってどういう動体視力してるのよ!?」
「昆虫型がベースよ。複眼は動体視力高いわよ!」
シュシュの乗るホワイト4から警告が飛ぶ。203mm砲で後続のM級格闘種を吹き飛ばしながら、ホワイト4小隊各騎の損傷状態をモニタリングしているが、連戦でホワイト小隊の魔装騎の損傷は軽くはない。データを纏めてホワイト1に送信する。
「ホワイト2。一旦下がって応急処置を受けてくれ。それと蒼炎化率が50%を超えている。こちらで下げるよ!」
「チィッ…...了解」
跳躍を多用しながら白兵戦闘を熟すホワイト2の各部位の負荷が無視できる範囲を超えていたのだ。ホワイト1の指揮に従い、ホワイト2はホワイト4の位置まで後退する。ホワイト4の精密作業用の多関節腕部と胸部のサブアームが展開し、腰部に搭載した予備パーツと交換し、装甲の損傷にはリペア剤をぶちまけて装甲の再生を行っていく。
蒼炎化率と呼ばれる指標がある。魔装騎を駆る灯火の騎士たちについて回る問題だ。魔装騎に適合した者を灯火の騎士と呼ぶが、より正確には魔獣の化石から精製される『魔晶』を投与されて拒否反応が出なかった者で魔装騎に乗るものを灯火の騎士と呼ぶ。彼らは体の一部から蒼い炎が浮かび上がる現象があり、これを『蒼炎化』と呼称されている。蒼炎化魔力を運用すればするほど、つまりは魔装騎に搭乗し、動かせば動かすほど体が蒼い炎に侵食される現象でこれが全身に回ると灯火の騎士は燃え尽きて一握りの灰と化してしまう。魔装騎が非人道兵器と言われる所以である。
蒼炎化にはもう一点特徴がある。歪神眷属は蒼炎化率が高い対象を優先的に攻撃目標にするのだ。つまり、戦闘を続け魔装騎で戦い続けると歪神眷属の攻撃が集中するようになる。これに対して、蒼炎化を抑制する法術を編みだした。皮肉な事に元になった法術は結界が魔獣を退ける法術だった。小隊長機はこの法術を行使出来る機体に乗ることが義務付けられており、小隊メンバーの蒼炎化の侵攻度に応じて使用する事で1騎に攻撃が集中しないように戦況をコントロールする事も仕事となる。
ホワイト2の応急処置の間、ホワイト1が敵の攻撃を引き付けながらホワイト3が105mmスナイパーライフルで腹部に幾つかの損傷を与える事に成功していたが、決め手に欠ける状況だった。ついにホワイト1の55mmアサルトライフルが弾切れとなり腰部にマウントしていた白兵戦用の戦斧を握り近接戦闘へと移行していた。数度の攻撃を受けたためか大盾はボロボロに損傷し、何とか盾の形を保っている状況だ。
ホワイト1が成熟個体の主腕に備え付けられた巨大な鎌の一撃を大盾で受け流し、胸部から伸びた副腕を右腕に握った戦斧で切り飛ばす。右肩にマウントされた20mmガトリングガンが唸りを上げ成熟個体の頭部から生えた長い触角の攻撃を弾き飛ばす。
「後ががら空きよ!」
ホワイト3がスラスターを噴かせて一気に成熟個体の背後に回り込む。成熟個体に追従していたS級M級などはあらかた排除が終わっている。後はこの成熟個体を倒せばここでの戦闘は終了するだろう。取り回しの悪い105mmスナイパーライフルから55mmアサルトライフルに持ち替えたホワイト3が成熟個体の背後から連続して射撃する。55mmの弾頭が次々とカマキリで言えば腹部に当たる部分に撃ち込まれていく。
「これならユウトが戻る前に片が付きそうね」
そんな呟きが油断の表れだったのか、成熟個体の尾部から一瞬で伸びた触手がホワイト3を吹き飛ばす。悲鳴を上げながら大きく弾き飛ばされたホワイト3の騎体に向かって触手が鋭い先端を向ける。
「ホワイト3!?」
予想外の反撃に対してホワイト1の反応は的確だった。即座に蒼炎化制御装置の効果を反転させ、自分自身の蒼炎化を侵攻させたのだ。これに成熟個体はすぐさま反応して尾部から伸びた触手をホワイト1に向け射出する。
「待たせたな!ホワイト1交代だ!」
応急処置を済ませたホワイト2が跳躍から大剣を振り降ろす。ユウトの左目が蒼い炎を噴き出し見据えるのは、成熟個体が振り回す残された大鎌の付け根だ。独特の甲高い音を鳴り響かせる魔力炉から大剣へと魔力が流し込まれる。
一閃。魔力によって極限まで研ぎ澄まされた刃が成熟個体の残った主腕を切り飛ばす。一瞬気を取られた隙を突いて、ホワイト3の105mmスナイパーライフルが成熟個体の頭を吹き飛ばした。
「ジャックポット…...ってね」
ホワイト3からエステルの冗談めかした明るい声が音声通信を介して届いてくる。成熟個体はしばらく蠢いていたが、ついに地響きを立てて崩れ落ちる。成熟個体が倒されたことによって、残存している歪神眷属が次々と拠点へと退却していくのを見て第32機甲騎士中隊から歓声があがる。
「ヘッドクォーターへ。こちらはホワイト1。ポイントC-24に出現した成熟個体を撃破し救援は成功。同時に歪神眷属の撤退開始を確認」
支配領域から出た成熟眷属が一定数を下回ると歪神眷属たちは拠点の防衛のために退却する習性がある。これにより歪神の活動個体数が氾濫を起こす基準値を大きく下回ったということだ。つまり、今回の間引き作戦の演習が終了となる。
「これにより演習の戦闘工程を終了する。各員ご苦労だった。本番でも各員一層の奮戦を期待する!」
HQより演習終了の宣言が出され、演習戦闘に参加した人員は安堵のため息をついた。これから先はデブリーフィングを行うためにホワイト小隊と第32機甲騎士中隊との戦況の推移と反省点の洗い出しが行われる予定だ。
「終わったかぁ。あーシャワー浴びてぇ」
顔面の左半分から左腕に掛けて蒼炎化したユウトは、長時間の操縦で流した汗で張り付いた騎士服を引っ張りながらぼやいた。
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