第7話

予約投稿してたつもりがしてなかったぼんくらぶりですが見捨てないでね!

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~~架空の戦場でも感じる恐怖は変わらない~~


 演習が開始されてどれだけが時間が経っただろう。ユウトはモニターの画面端に浮かぶ経過時間を目の端で確認するが、まだ3時間すら立っていない。機甲騎士達の砲撃から始まった演習は、歪神眷属が反撃を開始したところで停滞し始めた。


 砲撃を受けた歪神眷属たちは一斉に防衛行動を開始した。真っ先にL級前衛突撃種が外縁部から機甲騎士たちに向かい疾走し、その後を軽量のM級射撃種が追従している。機甲騎士の砲撃に応じ、M級L級砲撃種が砲撃を開始する。


 観測データを元に再現された『Y-856』で生産された歪神眷属は虫型魔獣を中心に構成されており、強固な外殻を備えており主力の55mmアサルトライフルでは弾頭の入射角次第では弾かれてしまうのだ。結果として砲撃で撃ち漏らしてしまった眷属が機甲騎士が展開した弾幕を抜けて中隊に接敵してくるのをホワイト小隊が対処する事が増えてきている。


 S級はまだ55mmアサルトライフルの徹甲弾で対処できるが、M級が想定よりも削り切れない。特に正面装甲の厚い突撃前衛種は105mm狙撃砲や88mm砲が直撃しなければ倒しきれないのだ。機甲騎士の操縦手たちは戦術を変え、55mmアサルトライフルと40mm多砲身対空砲で徹底的に眷属の足を狙った。露出面積が少ないため大半は外れてしまったが、敵眷属の突撃速度を鈍らせることに成功した。動きが鈍くなったM級を105mm狙撃砲や88mm砲で狙い撃つことでどうにか対抗する事が出来るようになってきた。


 救援要請が中隊の彼方此方から聞こえてくるのが途絶えると共に、要請を出していたマーカーが消失したのを確認するとユウトは悔しさで歯を噛み締める。先程の救援を自分たちがもっと早く終わらせる事が出来れば、あの消失した救援要請にも間に合ったかもしれない。そんな自責の念を消し飛ばすようにホワイト1から通信が入る。


「ホワイト1より、各騎へ。ヘッドクォーターよりポイントC-24にて第7小隊より援軍指示!L級突撃20とM級射撃30の群れが突っ込んできている!」


「「「了解!」」」


 ホワイト小隊はスラスターから光を撒き散らしながら指定されたポイントへ急行する。次々と味方を示すマーカーが消えていくのが網膜投影モニターに映る。仮想空間とはいえ味方が死んでいくのは焦りを覚える。先程消えた救援要請が脳裏をちらつきユウトはスラスターの出力を上げていく。


「ホワイト2。焦り過ぎだ。陣形を崩すな」


 小隊長騎のホワイト1からの注意が飛ぶ。ユウトはスラスターの出力を絞り陣形に合わせる。通信には次々と悲鳴が飛び込んで来て、どうしても焦りが出てしまう。ジリジリとしながら目標地点へと向かう。


「対象まで距離200。側面から射撃で牽制後に白兵で成熟眷属を叩くぞ!」


 ホワイト1からの号令の元、敵眷属の右側面から鏃のように突っ込んでいくホワイト1・2・3の55mmアサルトライフルが金切り声の様な銃声とともにL級前衛突撃型の脚部関節を次々と破壊していく。ホワイト4が撃ち出す203mm砲が空気を弾け飛ばすような轟音と共に眷属後方に位置するM級射撃型を榴弾で薙ぎ払っていく。


 前衛突撃種の装甲は正面装甲に特化しており、それ以外の部分はその突進力を支える為の駆動系となっている。つまり側面や後方は相対的に脆弱で破片除けの程度の強度で装甲されているのだ。加えて同じ55mmという口径でも全高5mの機甲騎士が使用するものと、全高10mの魔装騎が使用するものでは銃身長がまるで違う。この時代使用されている銃砲は、銃身の奥で法術による爆発を起こしその勢いで弾頭を加速させる。銃身の長さが長いという事はつまり法術によって発生させたエネルギーをより効率よく弾頭に伝えられるのだ。さらに今回の状況では、敵眷属群の側面やや後方からの奇襲となりより装甲の脆弱な部分をホワイト小隊に晒していたことも関係する。


 勿論機甲騎士たちの攻撃が無意味だったわけではなく、前衛突撃種に追従する比較的装甲の薄い射撃種や格闘種が機甲騎士たちの砲撃によって無力化されたのは大きい。これによりホワイト小隊は、敵側面やや後方という絶好の位置から奇襲する事が出来たのだ。


「魔装騎隊の到着だ!後退して陣形を整えろ!」


 脚部を破壊されL級前衛突撃種が次々と他の歪神眷属を巻き込みながら転倒していく。その重量と速度では止まる事も出来ず転倒した味方の歪神眷属に激突し、一気にその突撃は停止させられる。その間隙を突いて第32機甲騎士中隊第7小隊の隊長騎から指揮下の小隊に指示が飛ぶ。


 前衛突撃種の転倒や、味方の射撃の着弾煙の中から一際異様な歪神眷属が姿を現す。全高が20m近く巨大化させたカマキリのような外観の無機質な複眼に後退の遅れた1騎の機甲騎士が映る。まだ経験が浅いのだろうか恐怖で喉が引き攣るような声が音声通信を通して聞こえた。


「成熟個体のL級はこちらに任せろ!」


 成熟個体。歪神が支配している眷属は、汚染された源泉から生産された直後はその大きさは元となった生物と同じサイズだが、源泉からの力を受け取ることで変異を繰り返し、大型化していく。元になった生物にも限界があり、限界まで変異を繰り返し歪神の拠点の外縁部に配置されるようになった物を成熟個体と呼称される。元になる生物の限界は地脈の力の恩恵を受けやすい程高くなる傾向があり、主に魔獣が使用されているのだ。


 音声通信と共にユウトが駆るホワイト2、アーレスが55mmアサルトライフルを肩にラッキングし、代わりに魔獣の牙より削りだした大剣に魔力を流しながらブースターに火を入れて跳躍する。着地点にはL級格闘型の成熟個体が待ち構えているる。しかし、不意を打つことには成功している。L級格闘種の頭部から伸びた二本の触角が咄嗟に振り回されるが、これをブースターによる回避機動でかいくぐり、魔力により切れ味への付与が行われた大剣が成熟個体の振り上げられた右腕を切断していく。振り降ろされるはずだった機甲騎士と目が合う。


「あ、ありがとうございます」


 肩に32-7-6のマーキングされた機甲騎士から可愛らしい女性の声の通信が入るのに、軽く手を振り答え成熟個体との白兵戦に移行する。着地と同時に膝を沈め目の前にある右足の一つを切り飛ばし、ブースターで一度距離を取る。振り降ろされた成熟個体の折りたたまれていた副腕が目の前を通り過ぎる。一瞬感情を感じさせない無機質な複眼とセンサー越しに目が合う。


 対峙する巨大な両前肢のうち右側は先程ユウトが切り飛ばしたが、左側も鎌状の前肢が残っている。昆虫で言えば胸部に当たる部分からは鋭利な槍を思わせる副腕を展開し始めている。それ以外にも腹部の上部には多連装の砲塔を備えていた。


「ホワイト2はそのまま近接戦闘。僕も補助に入る。ホワイト3は回り込んで敵砲塔の破壊。ホワイト4は機甲騎士の援護をしつつ、こちらの補給を頼む」


 ホワイト1からの指示が飛び、即座に陣形を整えるホワイト小隊。位置取りに間違いがないことを確認したベルンハルトが獰猛な笑みを浮かべ、それに応じるように彼の右腕の蒼い炎がコクピット内で噴き上がる。


「さて諸君、大物狩りの始まりだ」


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