第4話

~~人類は勝つために人類らしさを投げ捨てた~~


 人類は魔獣が跋扈する世界で、非力な人々は魔物におびえながら生活してきた。相手を切り裂く爪も嚙み千切る牙もない人類は、幾度となくその生活圏を脅かされながら武器を作り、知識を積み重ねて細々とその命脈をつないでいた。


 魔獣には通常の動植物とは明確に区別される点がある。地脈から直接力を汲み上げ体内にある物質に保管し、それを何らかの形で利用する生物の総称である。陸上では自重でつぶれてしまうほどの巨大な甲殻類や昆虫。体内で発電しそれを放出し獲物を狩る獣。航空力学的に飛行する事がかなわないはずなのに物理法則を無視して飛行する竜。通常の物理法則に従わず別の法則に従って生きる生物、それが魔獣である。


 地脈から力を汲み上げる技術が発見されたことにより歴史的な転換点を迎える。それにより魔獣を寄せ付けず居住地を守る壁となる『結界』を開発した。結界内での安全が確保されたことにより、人類は加速度的にその数を増やしていった。特に自然に膨大な力が湧きだす土地を源泉と呼び、ここから汲み上げた力は万能と言って差し支えなく、直接的には工業用動力へとまた力を加工する事により土壌改良や植物の品種改良まで行えるまでに至った。


 源泉を中心に集落から村へ、村から街へ、街から都市へと発展し、複数の源泉を所有する事で国が興った。そうして源泉の所持数が国力ともいえる世界へと変容していく。歴史上では複数の地域で同時期に源泉の利用法が発見された事であるが、大陸に住む人の大半が信仰する星導教などでは神が人間を助けるために授けたとされている。


 生存が保証されたことで次に始まるのは人類同士の勢力争いである。各国はある時は武力で、ある時は外交で源泉の確保に躍起になった。争いが技術の発展を促すのは自然の流れだった。


 工業技術の発展により、力を直接操作する法術が生まれた。法術は力に特定の指向性を持たせる技術で、力から熱を生み出したり逆に熱を奪う、圧力を生み出したりなどの物理現象を直接発生させる技術の事を指す。この法術の発展により工業は更に発展していくこととなった。より安全な生活を、より良い暮らしを求めるが故に源泉の確保を行うのは各国にとって自然な流れである。生存圏の拡大に伴い、より危険で大型の魔獣との交戦機会が増えていくこととなった。


 人間サイズの剣では歯が立たない。槍で刺したところで大型魔獣にとっては針に刺された程度の傷でしかない。そんな大型魔獣と対峙する為に生み出されたのが法術によって駆動する特殊合金で建造された全高5mの巨人、機甲騎士である。その力は凄まじく、体高10mを超える魔獣すらもチームを組むことで駆除する事が可能となった。かくて人類の生存圏は拡大の一途をたどる。


 各国が拡大する事によりやがて互いに勢力圏が重なる事となる。互いに譲り合えば平和に人類は発展していったであろう。しかし、新規に源泉を開拓するのは巨大な投資が必要である。ならばどうなるか、既に開発が終わっている所から奪えばよい。領土の奪い合いが始まるのは自然な流れであった。各国は保有している源泉の数がそのまま国力へとつながる事を理解していた。源泉を一つ奪われればそれだけ自国の国力が落ちる。対魔獣用に建造された機甲騎士が戦場に投入され始めるのは必然だった。


 争いは技術の発展を加速させる。どこの世界でも同じ事が起こる。機甲騎士はより洗練されて行った。敵に合わせて武器の交換ができるよう、戦場に合わせて容易にパーツの交換ができるよう。操縦者が乗るコクピットを中心に頭部、腕部、脚部が規格化され状況に合わせて付け替えられるように改良されていった。一時期大型化も計画されたが出力不足により断念された。


 群雄割拠の舞台となった大陸は名をアクタ大陸と呼ばれた。南部には多数の源泉を抱えるハイランド王国。東部には神が結界と法術を与えたと謳う星導教国が周辺の小国と強固な同盟を築いており、西部はラオロン連邦共和国が貿易によって成した財力により周辺国を支援という建前で防壁としていた。大陸中央から北部に掛けては源泉は多いが魔獣の脅威が高く中小国家が立っては滅んでいった。しかし、大陸最北端の小国が18年前に高性能の機甲騎士を開発し北部の状況は一変する。その小国はグロースノルデン帝国とその名を改め一気に周辺諸国を滅ぼし大国へと成った。





 一人の天才が居た。紫紺の長い髪を適当に束ねた褐色の肌にスカイブルーの瞳を持つ、名をエヴァンジェリン・ブラックバーンと言いハイランド王国に生まれ、幼いころより様々な分野特に法術と魔獣について数々の論文を発表しハイランド王国の発展に寄与したが魔獣の生態を利用した法術の発展の研究が倫理的に問題視され学会を追放された。その後ハイランド王国から姿を消し、数年後北の小国にその姿を現した。


 当時グロースノルデン帝国の前身となる小国は周辺国家からの圧力に屈しかけていた。王は優秀なれど国力の差は如何ともしがたく、あと数年もすれば周辺国家に蚕食され消えゆく運命だった。そんな所へ現れた天才が王の耳に囁いた。研究の許可をくれ。そうすればその成果をくれてやろう。


 悪魔の囁きであった。魔獣が地脈の力を取り込む器官を機甲騎士に組み込む事で性能が跳ね上がるという研究のはずだった。研究は始まり最初は上手く行っていた。4機の試作機が建造され、それぞれが既存の機甲騎士とは隔絶する性能だった。異様に堅い装甲、尋常ではない機動力、数倍の出力で撃ちだされる法術、挙句空まで飛んで見せた。


 兵器としてはありえない速さで制式採用が決定され量産化が始まったタイミングでエヴァンジェリン・ブラックバーンによって隠し通されていた爆弾が爆発した。機甲騎士の騎体に操縦者が食われる。体と意識が機甲騎士と融合し人間として生きていけなくなる。王にとっても小国にとっても、何もかもが最悪のタイミングだった。新型機甲騎士の量産化を察知した隣国が言い掛かりにも等しい宣戦を布告してきたのだ。詰め寄る王に天才は答える。『魔』を外装だけが持っているのは良くないのだ。操縦者にも『魔』を植え付ければ融合ではなく適合すると嗤いながら言い放った。


 エヴァンジェリン・ブラックバーンにとってこれが本命の研究だったのだ。魔獣の器官を取り込んだ機甲騎士と魔獣の力を注入した人間の変質強化。『魔』獣から因子により扱う力もまた変質した。かくて『魔力』が世界に誕生した。研究の許可をくれ。そうすればその成果をくれてやろう。そう言ったでは無いかと。何故気付かなかったのだろう。魔獣の素材を混ぜるだけで性能が上がるのならばとっくの昔に大国で採用されていたはずだ。だがもう手遅れであった。


 王は操縦者たちに人間をやめてくれと頭を下げる以外に国を護る術を持たなかった。例えそれが狂気の沙汰であったとしても。魔獣の因子が埋め込まれた操縦者たちは人外の烙印であるかのようにそれぞれ体の一部が青く揺らめく炎を纏う事となる。かくして歴史に名を遺す魔装騎の雛型が産声を上げる。


 帝国が成立して3年後の冬、帝国は大陸中央部へと侵攻を開始し二つ目の小国を占領した直後、戦勝に湧く帝国を中心にして大陸各地で空が......割れた。


 割れた空から現れたのは魔物とも違う異形の群れは瞬く間にアクタ大陸北部のグロースノルデン帝国を制圧した。帝国の誇る高性能機甲騎士も抵抗むなしく人類はその版図の4割を失ったのだ。


 異形に制圧された地域の源泉は汚染され変質し、さらなる異形を生む母胎へと化して行き、源泉の周辺地域は異形の生存に適した環境へ、人類が生存できない環境へと塗り替えられていった。


 ここに来て、各国は人類圏の防衛及び、占領された地域の解放のための同盟を締結する事となる。しかし、帝国の高性能な機甲騎士ですら蹴散らした異形には現在人類の主力兵器である旧型の機甲騎士では太刀打ちできないのは自明の理であった。


 異形たちの主力は、機甲騎士の数倍の強靭な体躯を誇り、鹵獲した兵器、生物問わずその能力を行使してくるのだ。絶望と言う他なかった。ここで人類は滅んだ帝国から逃れてきたエヴァンジェリン・ブラックバーンが提供した悪魔の技術である新型機甲騎士を大型化させ、異形達と戦える力に変える事を決定する。


 魔装騎は起動するには特別な才能を必要とし、操縦し続けると操縦者の心身を魔力へと変換し何れ魔装騎の燃料として燃え尽きるという重大な欠陥が存在した。だが人類に選択肢はなかった。


 人類は人権、倫理、良識ありとあらゆる人間らしきものをドブにぶち込んで生存を選択した。操縦の才能のありそうな者たちを実験体として使い潰し、数多の生贄の先に『比較的安全な魔装騎』の原型が完成した。


 完成した設計図と規格は人類同盟各国に渡され、各国は独自の『魔装騎』開発へと乗り出す事となる。


 こうして人類と歪神との終わりの見えない生存競争が始まった。


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ここまで読んでいただいてありがとうございます。

というわけで、世界観の説明回となりました。元々この小説はオリジナルTRPGの世界観を説明する為に書き始めたもので、どうしても説明が多くなりがちなのはご容赦ください。上手く小説としての文章に落とし込めてないのは作者も処女作と言事もあり経験不足という事でひとつお見逃しを。

もし、この世界観がお気に召しましたら★や応援など頂けるとこれに勝る喜びはありません。どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

毎週土曜日23時55分からスペースにて配信をしております。よろしければご視聴ください。

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