Pillow talk

 横にはバーで知り合った女、B子が横たわっている。密な関係になって三か月ほど経つ。年を聞いたことはないが、多分僕より五つほど年上だろう。B子にはそんな知性を感じる。


「抱きしめて」裸の彼女は求めてくる。


 背後に手を伸ばし、僕に寄せるようにギュッと抱いた。B子の体温が伝わってくる。


「なんだか、こうやって素っ裸になったら、とても寂しく感じるの」B子はそう呟いた。


 僕は黙って聞いた。


「漠然とした孤独を感じる。多分、生まれたばかりの赤ちゃんがそうみたいに、無防備な状態になるからよね」


 B子が言うことはすんなり理解できた。


「一人でいるときに裸になってみたら、本当に寂しいの。誰も守ってくれない気がして。でもあなたがしてくれてるように、肌を重ねると一人じゃないんだって。そう実感できるから抱きしめられるのが好き」


「他の男とも寝ているのかい」僕は訊いた。


「さあ、どうかしらね」B子は小悪魔的に笑ってみせた。


「もし明日、僕が死んだら、君はどう思う?」


 僕は言った。


「それ、答えなきゃいけない?」


「嫌ならいいさ」


 B子は少し考えて言う。


「あなたと同じことを思うんじゃない。どう思う?」


 僕も少し考えた。そして口にする。


「多分、寂しいって思うだろうね」


 B子はクスッと笑った。





 横には僕の彼女、サトミが横たわっている。幼馴染からの付き合いだが、彼女とは初めてそういうことをした。誰にも見せたことがないだろう姿を独占したつもりになれて、僕は嬉しかった。


「抱きしめて」裸の彼女は求めてくる。


 背後に手を伸ばし、僕に寄せるようにギュッと抱いた。サトミの体温が伝わってくる。


「なんだか、こうやって素っ裸になったら、とても寂しく感じるの」サトミはそう呟いた。


「どうして?」


「人との繋がりが完全に断たれた心地になるの。結局のところ、皆一人ぼっちなんだなって思い知らされる感じ」


 サトミが言うことは何となく理解できた。


「だから少なくとも、トオルとは今こうやって繋がりを感じていたい。そうしないと不安に押し潰されちゃいそうになる」


 僕は黙って強く抱きしめた。僕の胸が濡れた感触があった。


「何かあったの?」そう静かに訊いた。


「あったんじゃなくて、小さい頃からずっとそうなの」


 僕はそれ以上訊くことが彼女を傷つけかねないと思い、押し黙った。


 しばらく黙り続け、サトミは口を開けた。


「もし明日、私が死んだら、トオルはどう思う?」


 僕は少し考えて言う。


「多分、僕も死ぬだろうね」


 サトミはクスッと笑った。

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