Pillow talk
横にはバーで知り合った女、B子が横たわっている。密な関係になって三か月ほど経つ。年を聞いたことはないが、多分僕より五つほど年上だろう。B子にはそんな知性を感じる。
「抱きしめて」裸の彼女は求めてくる。
背後に手を伸ばし、僕に寄せるようにギュッと抱いた。B子の体温が伝わってくる。
「なんだか、こうやって素っ裸になったら、とても寂しく感じるの」B子はそう呟いた。
僕は黙って聞いた。
「漠然とした孤独を感じる。多分、生まれたばかりの赤ちゃんがそうみたいに、無防備な状態になるからよね」
B子が言うことはすんなり理解できた。
「一人でいるときに裸になってみたら、本当に寂しいの。誰も守ってくれない気がして。でもあなたがしてくれてるように、肌を重ねると一人じゃないんだって。そう実感できるから抱きしめられるのが好き」
「他の男とも寝ているのかい」僕は訊いた。
「さあ、どうかしらね」B子は小悪魔的に笑ってみせた。
「もし明日、僕が死んだら、君はどう思う?」
僕は言った。
「それ、答えなきゃいけない?」
「嫌ならいいさ」
B子は少し考えて言う。
「あなたと同じことを思うんじゃない。どう思う?」
僕も少し考えた。そして口にする。
「多分、寂しいって思うだろうね」
B子はクスッと笑った。
◇
横には僕の彼女、サトミが横たわっている。幼馴染からの付き合いだが、彼女とは初めてそういうことをした。誰にも見せたことがないだろう姿を独占したつもりになれて、僕は嬉しかった。
「抱きしめて」裸の彼女は求めてくる。
背後に手を伸ばし、僕に寄せるようにギュッと抱いた。サトミの体温が伝わってくる。
「なんだか、こうやって素っ裸になったら、とても寂しく感じるの」サトミはそう呟いた。
「どうして?」
「人との繋がりが完全に断たれた心地になるの。結局のところ、皆一人ぼっちなんだなって思い知らされる感じ」
サトミが言うことは何となく理解できた。
「だから少なくとも、トオルとは今こうやって繋がりを感じていたい。そうしないと不安に押し潰されちゃいそうになる」
僕は黙って強く抱きしめた。僕の胸が濡れた感触があった。
「何かあったの?」そう静かに訊いた。
「あったんじゃなくて、小さい頃からずっとそうなの」
僕はそれ以上訊くことが彼女を傷つけかねないと思い、押し黙った。
しばらく黙り続け、サトミは口を開けた。
「もし明日、私が死んだら、トオルはどう思う?」
僕は少し考えて言う。
「多分、僕も死ぬだろうね」
サトミはクスッと笑った。
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