第6話 自〇した少女

実際にその場に立つと足がすくんだ。


「死にたくない」と胸の内から声が湧いてくるようである。


だけど仕方ない。私をいじめたあいつらが悪いんだから。私は悪くない。


湧き上がる声を必死に押さえつけて、私は一歩踏み出した。


すべて終わりにするために。



ビルの最上階から落ちている間、私の脳裏を駆け巡ったのは怒りだった。


あれは二年生の夏休み明けのこと。久しぶりに学校に行くと、みんながわたしによそよそしくなっていた。


どうやら同じクラスの女子がウワサを流したらしい。


そこからひどいいじめが始まった。


先生も親も助けてくれない。


助けてくれないのが腹立たしかったし、いじめの対象になっても反撃できない自分も憎かった。


どうして私はこんなにも弱いんだろう。本当にむかつく。


だから全てを終わらせることにした。


ドスン



気が付くと私は暗闇の中にいた。


ここが地獄なのか天国なのかはわからないけれど、とにかく私は死んだらしい。


その場にヘタりこんで、私は暗闇をじっと見つめていた。


不思議と恐怖はない。あるのは全てが終わったことに対する安心感。


と、、死んでしまったことに対するわずかないらだちだった。


どうして被害者の私が死ななきゃいけないんだろう。


そう考えてから思わず苦笑する。


死んでからも自分にむかつくことになるなんて思わなかった。。


そんなことを考えていると暗闇の向こうから子どもの泣き声が聞こえてきた。


「なんだろう」


声のする方へ足を運ぶと、小さなシルエットが現れた。


暗くて顔や服装はわからないが、小さな女の子のようだ。


「どうしたの?」


「みんな私に冷たくするの、、、自分が大嫌いで死にたいの」


「きっとあなたを助けてくれる人がいるよ」


ありきたりな綺麗ごとが自然と口から出た。


「どこに?誰が?」


「うーん」



なんとも答えがたい。なんて薄っぺらいことを言ったんだろうと後悔する。


「もう大丈夫、ありがとうね」


そういって少女がどこかへ歩いてゆく。


私はこのままいかせちゃだめだと強く感じた。


どうしてだか、このまま生かせてはダメな気がしたのだ。


「待って、、実は私ね自分が大嫌いでね、それで自分で死んじゃったの。


でも楽にならなくて、、自分を嫌いって死んだ後も変わらないんだよ」


「なに言ってるの?死んだ後のことがわかるの?」


「あ、えっと、、」


私が死んだ人間と知られれば少女が怖がると思い、必死にごまかす。


「それはなんといか、昔からそういいうし、、」


少女の痛い視線を振りほどくように、言葉を続ける。


「とにかくね、私気付いたの。


もし誰も助けてくれなくても、あなたが何か欠点を抱えているにしてもね。


自分くらいは自分を大切にしてあげなきゃダメだって、、


あなただけはあなたを見捨てないでほしいなって思うの」


それを聞いた少女が少し笑って言う。


「お姉ちゃん、話すのヘタでしょ。

でも好きだな」


その時、上空から一筋の光が差した。

ぼんやりと浮かび上がった少女の顔を見て私は声を上げた。


少女は幼いころの私の顔をしていたのである。



次に気が付くと私は病院のベッドの上にいた。


どうやらトラックの荷台に落ちて奇跡的に助かったらしい。


私はほんの少しだけ、安心していた。


誰が何と言おうと、私は私を見捨てないと決めたからだ。

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世にも奇妙な超短編 @fastnovel

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