第2話 完璧な女

2023年7月28日深夜。


「助けて、助けて」


あるアパートの一室に膝を抱えて震えている女性がいた。

彼女の名前は近藤サクラ。


いったい彼女はどうして震えているのか?


それは、、


もうすぐ死ぬから。


サクラは誰も信じてくれないだろうと思いつつも、この一週間のできごとを遺書として綴り始めた。


一週間前。

私は朝目覚めると別人になっていた。


正確には、別人の様な顔立ちに変わっていたのだ。


これまでコンプレックスだった低い鼻は、白人のように高く。


小さな目はビー玉のように大きく。


ざらざらとした肌は絹のように滑らかになった。


不思議な出来事はこれだけではない。


顔立ちが変わった朝、私はスマートフォンに見知らぬアプリを見つけた。


それは「ENKAN」という小説アプリ。

開くとトップページには「完璧な女」という試作品が表示されていた。


その作品の主人公は同姓同名の女性「近藤サクラ」


エピソードのタイトルは次の日の日付、「7月23日」。


気になって開いてみると、こんなことが書いてあった。


【珍しく遅刻したサクラは、12時ピッタリに渋谷駅で運命の相手に出会う】


半信半疑ながら私は小説に書かれている状況を再現してみることにした。


すると駅で絶世の美男子に声をかけられた。


「とてもお綺麗ですね。。良ければお茶しませんか?」


私は小説のストーリーを再現することで、幸せを手に入れていった。


【7月24日、バリスタ教室で別のイケメンと出会う】


【7月25日、その帰りに宝くじを買うと大当たりする】


私の人生は、今絶頂にある。


しかし、今アプリにはこう表示されている。


【7月29日、最終回】


ストーリー画面を開いてみても、真っ黒で文章はなし。


日付が変わった瞬間、死ぬに違いない。

サクラは過呼吸気味になりながら、日付が変わる瞬間を待った。


チクタク…


11時59分58秒


              11時59分59秒


                              00時00分00秒


何も起こらない。


「なーんだ、ビビらせやがって。未来を教えてもらえるのが最後ってことだったのね」

サクラは安堵してスマホをベッドに放り投げ、トイレに向かった。


そして手を洗おうと洗面所に立って叫んだ。


何よこれ!


顔が水に浸けた粘土のように、ドロドロに溶けていたのだ。


目玉がぼとりと零れ落ち、右側が真っ暗になる。


サクラはアプリが関係していると感じ、急いでスマホを取りに向かった。


すると小説アプリのトップページにはこんな表示が。


【2323年7月22日のストーリーを作成してください】


「なによこれ」


このアプリは、小説を作ることで自分の過去を変えられるという仕組みになっていたんだ


サクラは全てを理解し、キャラクターのデザインに取り掛かった。


だが、間もなく左目がぼとりと落ちた。


「何も見えないじゃない」


それでもサクラは手探りでストーリーを書き上げようとする。


【朝起きると、私は顔がgあああkaw】

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