第9話 一般空想家の閃き

 じゃあまず、二択から絞って捜索を始めよう。

 紛失か盗難かの二択なら、手掛かりが分かりやすいのは紛失の場合だ。

 不知火が嘘をついてなくても、記憶違いであった場合は失くした場所を辿りやすい。


「不知火。君はスマホをロッカーに入れたと言ってたけど、それが記憶違いの可能性もある。そうだった場合、今日君が行った場所をくまなく探せば案外簡単に見つかるかも」


「まぁそうでしょうね。一応その可能性も考えて、失くしたと気付いた時に私もくまなく探しましたが見つかりませんでした。それでも時間を無駄にしたいと言うなら、学校を回ってみましょう」


 不知火はため息混じりに言いながら指導室を出る。

 そりゃそうだよな。失くした物は探すだろうし、見つからなかったからこうして勝負を持ち掛けた。

 だが見落とした可能性なんてものは現物が見つかるまで残り続ける。排斥するのは下策も下策だ。


「ではまず、私のクラスから見てみましょうか」


 俺たちが足を踏み入れたのは1-Dの教室。教室に残っている生徒は流石にいないようだ。


「今朝、自分の席でスマートフォンを開いて電源を切りました。その時画面に出ていた時刻は8時35分。ホームルーム開始の5分前でした。そうして、私の記憶では後ろのロッカーにそれをしまい、それから一日中見ていませんでした」


「一日中?」


「ええ、私にとってスマホは連絡手段以上の価値を持ちませんので」


 確かに、逐一SNSを確認するような現代っ子には見えないな。

 教室の後ろのロッカーは上段と下段の二段造り。上下合わせて小さなロッカーが40個。一番右側の上段が1番。その下が2番……と端から出席番号順に並んでいる。


「不知火の出席番号は?」


「15番です。気になるならロッカーを開けていただいても構いません。何も入っていませんけど。残念でしたね」


「下心なんてないんだけどな……じゃ、俺は不知火のロッカー見るんで、先生は全部の机の中をお願いします。入ってる可能性あるんで」


「了解した」


 含みを持たせる不知火に辛うじて苦笑いを返しながら15番のロッカーに手を掛ける。

 俺たちの教室と同じようにロッカーに鍵は付いておらず、少しの手応えの後ガチャッと音を立てて開いた。


「新品だし、勝手に開くこともないか」


 老朽化して歪んだロッカーがゆるくなることはあるけど、今回はその可能性は低そうだ。仮にゆるくなってたとしてもスマホがどっかに飛んでく訳でもない無いんだけど……。


「うん、次」


「では、移動教室で行った教室を順に回りましょうか」


 次いでやってきたのは地学室。長机が等間隔で並べられている。


「私の席はここです」


 そう言って不知火が指す机の中を覗くが、誰かが捨てていったお菓子の空袋が入っているだけだった。

 それをゴミ箱に投げ入れる。


「次」


 その後、体育館、理科室と回ってみたが、どれも不発。

 三人で探してこれなら、見落としの確率は下がる。


「授業で私が行った場所はこれで全部ですね。どうです? 見つかりそうですか?」


 少し煽るように言う不知火は、八重歯を覗かせて楽しそうに俺の様子を窺う。

 時計の針が指す時刻は17時25分。残り25分か……。

 紛失の可能性を追うのはここまでだな。


「先生、落とし物の報告とかは……」


「あったら勝負の前に言ってるよ」


「違いない。誰かが拾ったなら先生に届けるだろうし……。ってことは……」


「盗まれた。やはりその結論に行きますよね、かなり遅かったようですけど」


 「ふふんっ」と薄い胸を張る不知火は、この状況をかなり楽しんでいるようだ。

 こんの……自分のスマホが盗まれたってのに……。まぁ本人も言ってたように、彼女にとってスマホなんてものはただの連絡ツール。周りの生徒たちのように生命線ではないのだろう。

 

「生命線……やっぱり……」


 そう。彼女の同級生たちにとってスマホとはかなり大事なものだ。だとすれば、不知火に嫌がらせをするとき、無防備なスマホに手を出す可能性はある。スマホを失くした時の彼女の焦った顔でも見たかったのだろうか。

 それ以外にスマホを盗むメリット――これをメリットとは呼びたくないけど――もない。


 ただその場合、とても面倒だ。


「参ったな……」


 誰かが盗んでいた場合、その犯人が持ち帰っている可能性が浮上してくるのだ。そうだったら、この勝負は詰みだ。


「あら、どうしました?」


 勝ち誇った顔を浮かべる不知火は「やっと気づきましたか?」と言外に伝えてくる。

 彼女がこの勝負を持ち掛けたのは、この結論に至っていたからだろう。


「人の悪意ほど確固たるものはないんですよ。これは私が人生で得た教訓です」


「飾……」


「同情はいりませんよ先生。慣れてますので」


 何とも悲しいことを口にする不知火。

 カチッ、とやけに耳に響く音に顔を上げれば、時計の長針は30分を指していた。

 残り時間は少ない。だが、諦めるのはタイムリミットが来てからでいい。


 俺がこの勝負に勝つには、彼女のスマホがまだこの学園のどこかにある可能性を追うしかない。虱潰しに探すのは不可能だ。ピンポイントで可能性の高い場所を……。



 ――可能性の高い……場所?



「さ、動きが止まっていますよ、先輩(笑)」


「……響也?」



 可能性の高い場所? 本当にそうだろうか?

 例えば、盗まれたスマホがこの学園にある場合、盗んだ犯人は意図的に『スマホを隠した』はずだ。

 もし俺が嫌いな奴のものを盗んだなら、それを持ち続けるリスクを負うだろうか? いや、一刻も早く手放したい。誰にも見つからない場所。可能性の低い場所に隠す。


 暗んできた窓の外からは、元気の無くなった部活中の生徒たちの声が聞こえてきている。

 それを聞きながら頭の片隅で大変そうだな……と考えた時。

 部活……部活か。

 

「あ……先生」


「うわっ、急に喋り出した」


「この学校の部活開始の時刻って……」


「16時10分だね」


 そう、16時10分だ。俺はいつも16時に終わるように調整されたホームルームの後、教室で10分間暇を潰してから屋上に向かうんだ。それは屋上に入って行く姿を他の生徒に見られないためと、音無が屋上のプレハブに入った後に俺が屋上に到着できるようにするため。

 つまり約束の時間が16時10分なんだ。

 16時に終わるホームルームの後、すぐさま屋上に向かう音無は屋上の鍵を開けたままにして、10分後に来る俺が開いたままの屋上に入り、外側から鍵を閉める。

 これが一連の流れだ。


 10分……短いか?

 いや……。


 俺はスマホを取り出し、メールアプリの音無とのチャットを開く。


『開いてる』


 今日の放課後、狙いすましたかのように送られてきた音無からのチャットだ。

 いつもはこんなチャットは送られてこないのに、今日に限ってなぜこれを送ったんだろうか……。

 例えば、いつもより時間に余裕があったから……とか?

 

「一年……時間……可能性の低い場所……」


「……あの……ぶつぶつ何を」


「飾、静かに。ちょっと、面白いかも」


 怪訝そうな不知火の声をニヤついた先生の声が聞こえてくるが、それを努めて無視する。


 そう言えば……さっき。



『ああ、少しね。というか君、学年棟から屋上に上がった?』


『ええ、そうですけど』


『だめだよ、屋上に上がったらちゃんと。そう言う約束でしょ』


『——あれ? 閉まって無かったですか?』


『開けようとしたらすでに開いてたよ。聡里と君、後から来た方がちゃんと鍵を閉める。徹底してね』



 記憶が引きずり出されるように、俺の頭にその会話が回想された。


 すると、俺の手足は自然と動き出した。

 音無とのチャットの上部にある電話マークをタップして教室を出る。


「先生、不知火。付いてきて」


 耳にスマホを当てながら言えば、二人は各々表情を変えながら頷いた。


『……もし、もし』


 すると、数コールの後、綺麗な声がいつもより近くで耳朶を打つ。


「あっ、ごめん音無。今って屋上にいるか?」


『ううん……もう、がっこうでた』


「そりゃそっか」


 それを聞き、すぐさま進路を職員室に変える。

 

「先生、屋上の鍵を借りてもらっていいですか?」


「ああ、いいとも」


 本当は成績優秀者でなければならないのだが、今回は先生にそれを借りてもらう。


「それと、二、三年生で最後に屋上の鍵を借りた生徒ってわかります?」


「鍵の管理は『貸し出し表』に記録されてる。道すがら確認しよう」


「ありがとうございます。で、音無。ちょっと聞きたいことあるんだけど」


『ん?』


「今日——?」


『——うん。せんせいがしゅっちょうしてたから、ほーむるーむがなかった』


 先生が出張……。なるほど。


「わかった! ありがとう音無!」


『……? うん……がんばって』


 俺が少し駆け足なのが電話越しに伝わったのだろう。応援の言葉に頬が緩むのが自分でわかった。


「ああ、頑張る。続けような、文芸部」


『……っ……ありがと』


 恥ずかしそうに呟いた音無は、そのまま電話を切った。



 鍵を借りて直行してきた屋上。

 日差しが無くなった屋上は風が吹き少し肌寒い。さっさと見つけて早く帰ろう。


「……屋上……ですか。はぁ」


 やる気満々の俺とは対照的に、不知火は失望した目を俺に向け、ため息を一つ。

 なんだその可哀そうなものを見る目は……。


「あなたに一つ教えてあげましょう。一年生は、授業以外で屋上に上がることができないのです。それは――――」


「中間テストがまだ実施されていないから、成績上位者がいない。そうだろ?」


「……はっ、そうです。ですから、屋上はありえません」


 屋上の鍵は、各学年の成績上位者10名にのみ借りる権利がある。

 だが四月下旬現在、一年生の成績上位者は生まれていない。成績を測るための定期テストが実施されていないからだ。

 つまり、一年生はこの期間のみ、屋上への出入りは実質禁止なのだ。


「だからありえない。普通はな」


「……いいです。探しましょう」


 そうして探すこと少し。

 俺は理科の授業などで入用の屋上菜園のプランターを上げた。


「あっ」


 そこにあったのは、画面に土と水がついた、ケースにも入っていない新型スマホ。


「不知火、これ?」


「……そんな……なんでっ!」


 その驚愕の表情が物語っていた。これが、不知火のスマホであることを。

 俺からそれを受け取った不知火は汚れた画面を見つめながら、俺を睨む。

 そ、そんな顔されても……、俺がここに隠したわけじゃないしなぁ……。

 困惑顔の俺に、佐久間先生も目を輝かせて詰め寄る。


「すごいね響也! なんでここだってわかったんだい!?」


「あー……運が良かった……から?」


「ふざけないでください。説明をっ」


「わ、わかったわかった近い近い!」


 ぐいっと顔を近づける不知火を引き剝がしながら距離を取って、俺は説明を始める。

 しかしこれは推論が大いに入り交じっているし、犯人が分かった訳でもない。

 だから、運が良かっただけなのだ。


「まず、不知火のスマホはいつ盗られたのか。それは多分、移動教室の時だ。今日だけで地学、体育、理科の三教科。いつかはわからないけどね。他人のロッカーを漁る奴なんて目立ってしょうがないだろうから、生徒が少なくなってから盗ったんだと思う」


「それで……?」


「俺が犯人だったら持ち帰るなんてせずに隠す。そう思ったから一番見つかり難い場所を考えた時、ここだと思ったんだ。……一年は屋上の鍵を借りられない。だから難しいと思ったんだけど……今日は少しの間、屋上に鍵が掛かってなかったんだ」


 そう。音無のクラスは今日担任が出張していたため。ホームルームの工程が大幅に省略された。恐らくいつもより10分ほど早かったんじゃないだろうか。

 つまり、音無が屋上についてから俺が行くまで20分ほど、屋上の鍵は開いていたことになる。


「一年の教室は一階。犯人目線で隠すなら一番遠い三階か、もしくは屋上がいいなって思ったんだ。だから犯人は、偶然開いていた屋上に入り、不知火のスマホを隠してそのまま帰ろうとした。でも、そこでアクシデントが起こったんだ。それは、部活のために俺が屋上に来たこと」


 そこで佐久間先生は、はっと何かに気付いたように目を見開いた。


「犯人は焦ったはずだ。そうして息をひそめた。俺に見つからないように。幸い、俺が用があったのは部活棟の方だから、扉付近を見回すこともしなかった。死角にでも隠れてたんだろう」

 

 屋上の扉は小屋のように突き出ており、扉の後ろに隠れることもできるからな。


「ただの……推測ですね」


 不知火は静かにそう漏らす。

 確かに推測だ。でも俺は、を知っていたから、この推測に自信を持てた。


「先生言ってましたよね。学年棟の屋上の鍵が開いてたって」


「……言ったね」


「でも、俺は確かに鍵を閉めた。なのに開いてたってことは、考えられる可能性は二つ。誰かが内側から鍵を開けたか……――外側から鍵を開けたか」


 そこで、俺は先生に貸し出しリストを確かめてもらったわけだ。


「二年生で最後に借りたのは今日の昼休みに2-Bの泉。返却済み。三年は昨日の四時限目の3-Aの早乙女。返却済みだ」


 先生がリストを読み上げると不知火は再び俺に目を向けた。


「つまり、今日の放課後、鍵は貸し出されてない。ってことは、鍵を持たずに入った奴がいるってことだ。犯人は俺が鍵を掛けた後、外側から鍵を開けて校舎に戻った。でも、開けたままにするしかなかったんだ」


「……鍵を、持ってなかったから」


 不知火の呟きに頷いて返す。

 俺たち以外の何者かが屋上にいた。それを知っていた俺だから、屋上にスマホが隠された可能性を予想できた。

 だから本当に運が良かっただけだ。好奇心で入った生徒の可能性もあったからな。


 不知火が俯き、スマホを握りしめた時。


『完全下校時刻です』

 

 そんな校内放送が流れ始めた。


「少し……考えます。勝負のことは忘れていませんので、ご安心ください」


 意気消沈。そんな言葉がぴったりな姿に気まずくなり先生に目をやれば、彼女は不知火の肩に手を置く。


「今日は帰りなさい。返事は、いつでもいいから」


「はい……失礼します」


 先生に深くお辞儀をした後、ちらりと俺を見た不知火はぺこりと小さく会釈をして踵を返す。

 風が吹き、忘れていた寒さを思い出して俺は身体を震わせる。

 さて、俺も帰ろ。


「響也、少し聞きたい」


「……寒くないですか?」


「コーヒー奢るから。あったか~いだよ」


「……なんでしょうか」


「現金な奴め」


 軽く笑った佐久間先生は、すぐにその表情を引き締めた。


「君は言ったね。犯人目線で隠すなら三階か屋上だと。なのになぜ、屋上に直行したんだい? 屋上に君たち以外の人間が入っていた可能性を知っていても、少しは三階を探す素振りを見せても良かったんじゃないかな」


「……俺も、両方とも探すつもりでしたよ。でも、そのために職員室に鍵を取りに行った時、見たんです」


「……何を?」


「出勤表って言うんですか? 先生たちの名前と札が掛かったホワイトボード。あれをちらって見た時——1-Aの担任の所に『出張』の札が掛かってたんです」


「出張……。あぁ、そう言えば、今は教師たちも健康診断の時期だ。私も行かなきゃね」


「いや理由はどうでもいいですけど。つまり今日、担任が出張してたのは音無のクラスだけじゃなく、1-Aもそうだったんです」


「……なるほど。飾のスマホを隠した生徒は、偶然屋上に入ったんじゃない」


「はい。ホームルームが早く終わって三階のどこかにスマホを隠そうとした犯人は、同じくホームルームが早く終わった音無が屋上に出て行くのを見たんじゃないかなって。そうして音無が鍵を開けた後、鍵が閉まる音がしなかったから、狙って屋上に入れた。急いで入って音無と鉢合わせないために時間をおいて入って、隠す場所を探してたのかな……俺が屋上に行くまでもたもたしてたみたいですけど」


 まぁ、それだけなら隠すことでもないんだけど……。問題はそこじゃない。

 先生もそれに気づいたのか、悩まし気に頭を抱えた。


「1-Aの生徒が、1-Dの生徒である飾のスマホを盗むのは難しい……」


「だから多分……この嫌がらせは、不知火のクラスメイトと隠した犯人。少なくとも二人は関わってるんじゃないかって思ったんです。ただの空想ですけど。クラスメイトの誰かが盗んで、ホームルームが早く終わる1-Aの誰かに受け渡した。目立たない方法はこんなところですかね」


「仮に真相がそうだとしたら頭が痛い話だね、まったく」


 同感である。


「1-A……飾が今日泣かせたのはそのクラスの子だね。……響也、なんでそれを隠したんだ? 飾は……」


「こんなこと知って良いことなんて何もないでしょう。ただの推測でしかいないですし。不確定情報をべらべら言うのも余計な火種だし。まさか報復希望ですか?」


「そう言うわけじゃないけど……」


 まぁ、それに。


「なんて言えばいいのかわかんないですけど」


「うん」


「確かに口は悪いし、人当たりも良くないですよ不知火は。でも、それは性格が悪いからじゃなくて、素直だからなんだと思うんです。その素直さで嫌われることはあっても、悪意を向けられるのは……不公平というか、フェアじゃないと思って」


「……あの子は案外感情豊かだからね。傷つきやすいんだ。この短時間でよく見抜くね、君は」


「とにかくですね……悪口を言われたら悪口を言ってもいいと思います。殴られたら殴り返したらいい。でも、面と向かって言葉を吐き出す不知火を、寄って集って陰湿に貶めるのは違うでしょうよ」


「……まったく、私の面目丸潰れだね」


「あの素直さは間違いなく美徳です。だから、この事実を知ってどうにかなって欲しくなかったんでしょうね。よくわかんないですけど」


「自分のことなのに?」


「……帰りましょ。寒いんで」


「その割には顔が赤いんじゃないか?」


「うっせぇな……」


 その時吹いた風は、なぜだか冷たく感じなかった。




    ■




 屋上に続く扉に寄りかかった不知火は、泥だらけのスマホを握りしめた。



『なんて言えばいいのかわかんないですけど』


『うん』


『確かに口は悪いし、人当たりも良くないですよ不知火は。でも、それは性格が悪いからじゃなくて、素直だからなんだと思うんです。その素直さで嫌われることはあっても、悪意を向けられるのは……不公平というか、フェアじゃないと思って』


『……あの子は案外感情豊かだからね。傷つきやすいんだ。この短時間でよく見抜くね、君は』


『とにかくですね……悪口を言われたら悪口を言ってもいいと思います。殴られたら殴り返したらいい。でも、面と向かって言葉を吐き出す不知火を、寄って集って陰湿に貶めるのは違うでしょうよ』


『……まったく、私の面目丸潰れだね』


『あの素直さは間違いなく美徳です。だから、この事実を知ってどうにかなって欲しくなかったんでしょうね。よくわかんないですけど』



 こもって聞こえる扉の向こうの会話に下唇を噛み、小さく口を動かす。


「……余計な、お世話です……先輩」


 彼女は、顔を上げずに駆けだした。


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