第31話 過大評価
行きの車内では黒い雲のようなものも漂った雰囲気だったみたいだったけど、今、汐斗くんの家の車の雰囲気はそんなものを破り、溢れるばかりの太陽の光が注いでいた。私は、お母さんに帰りは車で送ってあげるよと言われたので、お言葉に甘えて乗せてもらっている。
「そう言えば、汐斗、風邪の方は大丈夫なの?」
「あー、そう言えば僕、風邪だったな。でも、あれの喜びが大きすぎてただの風邪は治ってるかも。お姉ちゃんもありがとうな。今日まで色々助けてくれて」
「風邪、治っちゃったって、何だそれ。まあ、それならそれでいっか。こっちこそ元気な弟が見られて嬉しいよ」
私は、少しの間汐斗くんとお姉さんの会話を聞いていた。なんだか楽しそうだ。流石、姉弟っていう感じ。仲がいいからか会話が次々と続いていく。車内がその空気に包まれる。
「ねえ、心葉、俺んちまた寄ってく? ちょっと言いたいこともあるし」
「うん、別にいいよ」
なんだろうと思いながらも、私は迷わずにそう言う。
「そうか。あっ、でもまだあの染め物は見せられないけど」
「えっー! 少しだけでもだめー?」
「んー。いや、ちゃんと完成したいのを見せたいから無理かも! もう少し待っててくれ!」
私は、汐斗くんの病気が治ったんだし、私たちはだいぶ仲良くなれたんだし少しぐらい駄々をこねてもいいかなと思って、ねだってみたけれど汐斗くんは理由をつけてそれを断った。でも、その言葉が見れる日を余計に楽しみにした。
「へー、汐斗、今、染め物してるんだ。ていうか、2人、打ち解けてるねー。いいじゃん」
「変な顔するなよ」
私たちのこの雰囲気にお姉さんが優しく言葉を添える。確かに、お互いのことが分かってきたのもあって、私たちは家族の一員いなれるかのようにかなり打ち解けてきてるのかもしれない。それは今のやり取りから見ても十分感じられる。汐斗くんは私にとってのある意味、親友なのかもしれない。
「ねぇ、心葉ちゃん。もちろんこれは冗談だけど、汐斗を恋人にするのはどう……?」
「おい、お姉ちゃん……!」
お姉さんは、私と汐斗くんがどうしてこのようにいるのか、私が相談した時に言ったから知っているはずなのに、少し意地悪な質問をしてきた。汐斗くんを恋人にする……? どうなんだろう。今までどんな名前を付けるのが正しいのか分からない関係で過ごしたけれど、もし、汐斗くんと私が恋人という名前の関係になったのなら……。正直、イメージができない。でも、お姉さんは冗談とは言ったけれど、ここでなにかを答えないと流石に汐斗くんに悪い。でも、どうなんだろう。私は本当のことを言うのなら、汐斗くんを恋人にするのも嫌ではない。だけど、正直イメージができない。でも、嫌ではないというと恥ずかしいので、私はもう一つ思っている言葉を言うことにした。
「汐斗くんみたいな人は、私よりいい人を簡単に見つけられると思うので、それは、汐斗くんにとってもったいないかなって……。それぐらい、汐斗くんはすごい人だから、もっといい未来を描ける人とそういう関係になったほうがいい気がします!」
これが、今答えるべき内容でのベストアンサーなのではないか。もちろん嘘なんかじゃなく、これが私の本音だ。きっと私なんかよりいい人は沢山いるし、その人といることで汐斗くんの世界がもっと輝く……その姿を見れることの方が私は望んでるんだと思う。
「おー、そうか。でも、私が思うに、心葉ちゃんはいい人だと思うけどなー」
「いや、過大評価ですよー」
「そうかなー」
本当のところ、どうなんだろう。私は、いい人なんだろうか。私には、お姉さんの言ってくれたことが過大評価にしか思えない。そんなに私はいい人じゃない気がする。
でも、いい人になりたい。
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