第28話 過去

 まず私がアクセサリー作りが趣味になった発端から話し始めた。


 確か、それは私が小学校3年生の時だった気がする。おばあちゃんが私の誕生日に髪飾りをプレゼントしてくれたのだ。その髪飾りの美しさに魅力を感じ、早く誰かに見せたくなった私は、それを早速付けて翌日学校に行くと、友達から「かわいい」とか「似合ってる」とか言われて嬉しくなってしまったのだ。別に特別かわいくなかった私をアクセサリーというアイテムで姿を変えてしまった。それから私はお小遣いが入るたびに、計画しながらアクセサリーを買っていた。だから、今は押し入れにしまってあるけれど、自分で買ったアクセサリーのボックスというものも今でも私の部屋には存在している。


 でも、ある時から自分で作ったらいいんじゃないかと思うようになった。そしたら、自分通りのものが作れるのに。もっと、自分にあったものが作れるのに……詳しくは覚えてないけど、そうとでも思ったんだろう。それで私は小学5年生の夏休みの工作で、アクセサリーを作り見事入賞した。これが私が唯一もらった賞状だ。全校集会でこの賞状をもらったけれど、確かそれをもらう前日は緊張のあまり寝られなかったっけ。


 それからも中学2年生の夏頃までは趣味としてアクセサリー作りを続け、うまくできたものについては友達にプレゼントなどもしていた。唯衣花にもミサンガを渡したことがあるけれど、その時の素直に嬉しそうだった笑顔は今でも忘れられない。それを今も大事に持ってくれているということが、私にとってはとても嬉しいことだ。自分に希望を与えてくれた。


 ここから少し暗い話に入る。私がやめてしまった理由だ。中学2年の夏休みという時間が取れるときに私はクラス全員にミサンガを作った。このミサンガこそが、今も唯衣花が持ってくれているものだ。


 夏休みが終わって久しぶりにクラスの皆に会える日、私はミサンガが沢山入った紙袋を持って登校した。一番初めに、そのミサンガを渡したのが、当時私と一番仲のよかった唯衣花だった。唯衣花に渡した後も、仲のいい女の子から順番に渡していった。たった小さなプレゼントではあるけれど、「ありがとう!」だとか、「早速付けるね」だとか言ってくれて喜んでくれた。たぶん、あの時は私が沢山の人を一番笑顔にできた日だったんだろう。つまり、特に取り柄のなかった私が自分の力を一番出せた日だったんだろう。


 半分配り終えたところで、別にクラスの中心人物でもない私が渡すのは少し恥ずかしかったけれど、クラスの男の子たちにも渡し始めた。でも、渡してみるとちゃんとお礼を言いながらもらってくれるし、皆、女の子に渡したときと同じように嬉しそうな顔をしてくれたのでいつの間にか恥ずかしさは消えていた。


 でも、皆が皆そういうわけではなかった。


『よかったら、どうぞ』


 それは、私がクラスの中でも少しチャラめの(そして少し悪ふざけのする)ほとんど関わったことのない男の子にミサンガを渡したときだった。


『何だこれ?』


『ミサンガだよ』


 最初はこれは何かという名前について聞いてるのかと思ったので、私は丁寧にそう答えた。でも、『何だこれ?』の意図が違うことはすぐに分かってしまう。


『いや、俺みたいなやつがそんなのつけたり、持ってたらかっこ悪いだろ。それにさ、そんなの作ってる暇あったら、もっと役に立つもの作れよ。だいたい、アクセサリーなんてさ……まあいいや、俺はとにかくいらねえよ、悪いな』


 そんなことを私の目の前で言われてしまったのだ。『何だこれ?』というのは、俺をバカにするなとか、私に対しての批判を表していたのだ。この言葉に私は強くダメージを受けた。言葉という形としては残らないもののはずなのに、当分消えることはなかったし、今でも残っている。この時、自分のやっていることが否定された。このときの生きがいはアクセサリー作りだったのに、自分の全てを否定されたみたいで私の風船みたいに弱い心は傷ついた。


 このときから、私はアクセサリーを作るのをやめてしまった。急に自分の趣味がなくなった。そして、中3になり受験勉強を始めることにより勉強で忙しくなると、完全にアクセサリー作りとは縁を切ってしまったのだ。それが数年経った今でも続いている。


「そうなのか。というか、心葉にそれ言ったやつ、ひでーな」


「でも、さっきも少し言ったけど、男の子でもすごく嬉しそうにもらってくれた子もいるし、それを言われた後にも『気にする必要ないよ』とか、『僕は大切にするから』とか言って励ましてくれた人も沢山いたから。たぶん、もしもの話ではないけど、あの空間に汐斗くんがいたら、そんな感じに私を励ましてくれたんだろうな」


 もちろん、全員が私に傷つけるような言葉を言ったわけではない。言ったのは、その人ぐらいだ。その人以外は私の味方をしてくれた。でも、その1人の言葉の大きさの方が大きかったのだ。本当はまだまだ続けたかっただろう、その時の私は。


「……それは分からないけど、世の中は味方も沢山いる。それだけは忘れるなよ」


「うん。私、今ならもう1回作れる気がする。海佳ちゃんにも今度作るときはほしいって言われてるし。でも、最初だから簡単にミサンガからかな。汐斗くんのも一緒に作ってもいい?」


 いきなり難しいものを作ると多分失敗して挫折してしまうかもしれないので、まずはミサンガからだ。前のトラウマがあるから、私はもらってくれる? ではなく作ってもいい? という言葉をあえて選んだ。


「もちろん。というか、作ってほしい! 僕もつけたいよ。心葉が頑張るなら、じゃあ、僕も染め物、もっと頑張らないとな。お互い見せあいっこできるようになったら報告しような。そうだ、僕もその染め物、心葉にあげちゃおう! そしたら、平等だろ」


「うん、分かった。私も汐斗くんの染め物もらえるの、楽しみにしてるね」


「よーし! じゃあ今日は帰ったらそれをやろうかな」


「じゃあ、今日はここで解散にしようか」


「そうだな」


 それぞれのことをやるため、今日はここで解散することになった。私は帰り道にあったお店でミサンガを作るための材料を買ってから家に戻った。


 ――染め物を作る君と、ミサンガを作る私。


 何かそれが特別なように感じてしまうのは、私だけだろうか。





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