第16話 どんな関係

 『まもなく、✕✕。✕✕。お出口は右側です』


 そんな話しをしていると、電車はどうやらどこかの駅に止まるみたいだ。でも、まだ私たちが今回行く公園の最寄り駅ではないので、もう少し時間がかかる。

 

 電車が✕✕駅につき、停車してから少し経ったところで扉が開いた。この駅では数えるぐらいの人が降りた後に、その降りた人の2倍ぐらいがこの電車に乗り込んできた。


「そうだよねー」


「分かるでしょ!」


 楽しそうなことを話しながら学生服姿の人が入ってきた。聞き馴染みのある声だ。昨日も聞いた声。


「あれ? 心葉? ……と汐斗?」


「あ、心葉ちゃんじゃん」


 どうやらその聞き染みのある声は、海佳ちゃんと唯衣花だった。そして、2人は私たちの存在に気づいたらしく、少し混んできた車内の中で声をかけてきた。こんな偶然あるんだ。


「おはよう」


「おはよっす」


 私たちが挨拶を返すと、座っていい? と海佳ちゃんに言われたので、私はいいよという意味を込めて、手招きした。まだ私たちの座っているボックス席は2人分空いている。それから、2人が座る。


「2人のペアって珍しいね。というか2人がいるところ初めて見たかも。偶然会ったって感じ?」


 本当のことを言うなら、約束して会たのだけど、でも、それだと私がどうして汐斗くんといるのかという理由――自分の明日を閉じようとしてることの話になってしまうかもしれない。だから、別に私は汐斗くんと約束したこと自体は隠したいとか思ってないけど、もう一つの方は隠しておきたいので、なんと言えばいいのか分からず、頭が反応を出してくれない。


「なんか、この時間に同じ路線乗る人を僕が探してて、そしたら偶然、心葉がいたから誘ったって感じ。僕、この路線ほとんど乗らないし、方向音痴だから少し不安で……」


 汐斗くんは少し照れた様子で演技しながら、少し嘘をついて2人に説明した。確かに、全部嘘をつくよりはまだましかも知れないけれど、自分から誘ったという部分は、私から誘ったことにしてもいい気がする。でも、私のことを気遣ってくれたんだろう。


「へー、そうなんだ。まあ、この時間はまだ比較的早いからね。多分、皆のんびり屋だからぎりちょんで来るもん。やっぱ2人は偉いな。私たちもだけどねー」


 唯衣花が言ってくれて初めて知ったけれど、汐斗くんが提案してくれた電車はいくらか早い時間のものだったのか。だから、知っている人を見なかったのか。納得だ。たぶん、汐斗くんはそういうきっちりとした性格なんだろう。


「そう言えば、汐斗、少し前の話になるけど、インスタにパフェとか、パンケーキとか、それにサンドイッチとかの写真を載せてたでしょ! ちょっと羨ましすぎるよ……!」


「あー、あれね。色々あって行ったけど、美味しかったよ。あのカフェは評判高いからねー」


 汐斗くんが海佳ちゃんと言ったことに対してそう反応する。その話は確かあれだ。私が明日を閉じようとした時に、汐斗くんが止めてくれて、それでカフェに誘ったという……。3人で初めてお昼を食べた日に話題になった。


「確かに、食ベログとかでも評価が高かったかも。それはともかく、この手、だれ? こんなにたくさんの料理を一緒に食べた人って……?」


 唯衣花が汐斗くんのインスタグラムの写真を私たちに見せてきた。前も私たち3人でそういう話題が出ていた気がする。ごめんなさい、それ、私です。でも、心葉ちゃんは勉強してるのにずるいよねなんてことを海佳ちゃんに言われたので、私だとは言えなかったんだ。さっきはうまい嘘をついた汐斗くんだけど、今回はどう言うのか。たぶん、汐斗くんの性格と、さっきまでの傾向を考えれば、この手を私だとバラす確率はかなり低い。


「あー、この手……? 逆に誰だと思う? まあ、2人も知ってる人だから」


 汐斗くん……? これはばらす方向なのだろうか。それもクイズ形式で。どうやら私の読みは完全に外れたらしい。でも、バラされたとしたら、海佳ちゃんはあんなことを言ってくれたのにもかかわらず少し申し訳ない。


「んー、なんか男の手ではなさそうだよね」


「うん、この手は、女性の手かなと」


 ここで私の手を見られたら、もしかしたら気づかれてしまうかもしれないと思い、さりげなく私は自分の手を隠した。


「……誰かわからないけど、関係的に言うと定番的に、彼女とか?」


 唯衣花が自分の見解を述べる。男である汐斗くんが女の人と行くのなら、考えられる可能性は幼馴染やお姉さん、それにただの仲良しとかもあるが、一番定番なのは彼女なのかもしれない。この手の的にお母さんとかそういうのは考えづらいし。


「そういう関係ではないな」


 その言葉によかったという気持ちと、少しだけ寂しいなという気持ちになる。甘いようで苦い……そんなジュースのよう。別に、汐斗くんはすごくいい人だけど好きという気持ちがあるわけでもないし、それにこんな明日を閉じようとした何の取り柄もない私を好きになっても困るし。


「そうかー。じゃあ、友達以上、恋人未満とかは?」


 次に、海佳が見解を述べた。さっきよりも少しだけ関係を下げた感じか。


『まもなく、△△。△△です。お出口は左側です』


 その時、私たちが行く公園の最寄り駅が読み上げられた。どうやらもうすぐ着くみたいだ。私はこの話も一旦区切られるだろうと思い、通路側に座っていた私は、窓側に座っていた汐斗くんが早く出られるように、開く側のドアに一足早く向かった。


 でも、まだこの話は終わっていなかったようで、汐斗くんはさっきの続きみたいなことを2人に言っていた。


 ただ、私には周りの音もあるし、少し離れた位置にいたので、その声を聞くことはできなかった。


 口の動きだけが見えた。


 ――


 その口の動きははっきり見えたはずなのに、何って言たのか分からなかった。


 この電車は私たちが今から行く公園の最寄り駅に着いた。


 そして、私はホームへ降り立った。

 

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