第15話 朝の挨拶

 ――今日の天気は、出かけないのがもったいない! 思わずそう言いたくなるような快晴な空が広がります。また、お洗濯ものもよく乾く、そんな一日となるでしょう。


 ピンク色の爽やかなワンピースを着た20代ぐらいの笑顔もかわいいお姉さんは、そんな太陽みたいな明るい口調で今日の天気を伝えていた。どうやら、太陽は私たちが公園に行くのを知っていたのか……そうかのように味方してくれた。実を言うと、1週間前ぐらいまでは今日の予報は雨予報だったのだ。


 スマホを開くと、汐斗くんからラインが送られてきたみたいだ。太陽さんが『おはよう』と言っているスタンプが送られてきた。なので私も、太陽さんが『今日もよろしく』と言っているスタンプでお返しした。でも、送ってきたのが5時すぎだから、かなり早起きなんだな。そう思っていると、すぐに既読が付き、『最近知ったんだけど、今日行く公園に新しく鳥ゾーンっていうのができたんだって。海佳と唯衣花とかと行ってみたら?』と次はアドバイスが送られてきた。私は初耳だけど鳥を見ることができるなんてなんか面白そうだ。私は次に『ありがとう』と猫が言っているスタンプで返した。あとで、2人にも言ってみよう。


 時間になると、テレビを消す。それから、カバンの中身などの確認が終わると、最後に英単語帳を一番取りやすいポケット部分に入れる。そして、家を出る前にまだ出張中で頑張っているお母さんとお父さんにいってきますと言ってから扉を開けた。


 途中の(合流する)駅までは1人だ。会社員の人たちが大半を占める電車に乗って向かった。私が乗っているのは都会の方に行く上り電車なので、駅に停車するたびに乗る人数が増えてくる。十数分乗ったところで、合流する駅まで来たので、多くの降者とともに、電車を降りていった。


 この駅は初めてきたので、集合場所まで迷わないか想像以上に沢山の人たちがいたという要因もあって少し心配だったけれど、汐斗くんの姿をすぐに見つけることができた。特に問題もなくお互い待ち合わせ時間に合流できたので、昨日、汐斗くんが送ってくれた通りの電車に乗車した。


 さっきよりもこの路線は乗客が少ないので、私たちはボックス席に座ることができた。私たちは今、ボックス席を横並びに座っている。この路線の電車を使ってあの公園に行く人が大半だと思うけど、まだ同じ学校の知り合いは見ていない。


「改めておはよう」


「うん、汐斗くんおはよう」


 私は朝、コンビニで買ったもうすでにぬるくなっている水を飲んだ後に、さっそく持ってきた英単語帳を見始める。


「あー、早速、心葉は英単語の勉強か。僕はまだ全然してないけどやっぱ努力家は違うな」


「いや、そんなことはないよ」


 そんなことはない。何度も言ってるけどあくまでも私は勉強できないから勉強してるだけだ。あまり勉強しなくても点数が取れるんだったら、私はたぶんこんなに勉強することはないだろうし、そもそも人が変わっていると思う。


 とはいえ、せっかく汐斗くんと来ているんだから、というかそもそもの話、私が誘ったんだから、このまま英単語帳を見るのも少し違う気がする。


「なんか私から誘っておいてあれだから、もしよければ話しかけてよ」


 だから、私は堂々とそびえ立つ山々を窓の外から眺めている汐斗くんに対してこう言った。すると、すぐに汐斗くんが、


「なら、ちょっと僕の近況報告でもしようかな」

 

 そう言って、汐斗くんはスマホを取り出した。ロックを解除したと思われる後に、何かの画面をもし大丈夫だったらと言って、私に向かって見せてきた。


 私は英単語帳から汐斗くんが見せてくれた画面に少し視線を映す。そこにはマインドマップの画像があった。マインドマップっていうのは簡単に言うと、ある事柄を広げていくものだ。例えば、赤というものからりんごと信号機に分け、それをどんどん発展させていく……そんな感じのものだ。


 中心となる一番大きな丸には伝えたいことと書かれていた。そこから、どんどん様々な方向に広がっていっている。一部見られるのが恥ずかしいのか、それともただ秘密にしたいのか分からないけれど、黒く加工で塗りつぶされている部分もあったが、伝えたいこと、自分の心、明日、虹、などのように書かれていた。


「これは?」


「あー、これはねー。前にも少し言ったけど、僕が今度作ろうとしてる工芸作品の染め物。まあ、ちょっと秘密な部分は隠してるけど」


「あー! それのイメージを決めてる感じ? 私も文芸部のとき、小説のアイデア出しのためにやったことがあるから、なんとなく共感できるかも!」


「確かに、こういうのは小説を書くときと似てる部分があるのかもね」


 どうやら、今、私に見せてくれたのは、汐斗くんが次に作ろうとしている染め物についてのアイデア出しのメモみたいだ。私が幼稚園の時だか小学校の時だかに作った輪ゴムで模様を付けるという染め物ではそんなことを一切考えずにただその時に思いついたものでやっていたから、そこからの段階から行なっているところにすごいとしか思えない。やっぱり本当の夢を持っている人のそれに込める想いは私たちが思う以上に強いみたいだ。私も、中学の時にやっていたアクセサリー作りでは確かに汐斗くんまでの想いはなかったとしても、強い想いが――


「頑張って、応援してる!」


「ありがとう。できるだけ早く見せられるように頑張るよ」 

 

「どんなイメージの作るの?」 

  

「まだ色々考えてるから決まってないかな。だからその時までのお楽しみに!」


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