第14話 少し見えた明日
汐斗くんの私をいつでも気にかけてくれるというのは、色々な場面でそうしてくれた。例えば、汐斗くんからの提案で、毎日電話する時間を設けた。私の勉強がだいたい終わる時間の夜の12時半ぐらいに5分間ぐらいそれを行う。それぐらいならと私はそれに承諾したので、何日かたった今日も、私から電話をかける(私の都合のいい時にかけられるようにと汐斗くんからではなく私からかけることになっている)。
――プルルル、プルルル。
数秒間このような音がなった後に、汐斗くんの声がした。いつもと変わらない、私を安心させてくれる声だ。そしてその声はまるで私の手が届くところにいるように思える。
『もしもし、今日も何も変わりないか?』
今日もまた、それが決まった言葉かのように、最初にこの言葉を言ってきた。なんだかこの言葉の繰り返しに私は微笑してしまう。でも、この言葉に汐斗くんの色々な気持ちが現れているのだろう。
「うん、大丈夫。いつも通り、変わりないよ」
特に今日も変わったことはなかった。いつも通りの一日だった。ただ、少しだけ私には生きる意味があるんじゃないかとか、私が生きる場所があるんじゃないかと思えてきている。だから、もっとそう思えるような自分になりたい。この汐斗くんと創る1ヶ月で。
『よかったよかった』
「そう言えば、明日は英単語の小テストがあったよね?」
私はそう言えば、明日は英単語テストがあったような気がして聞いてみる。とは言っても、私は普段から英単語の練習をするという習慣をつけているので、いつ英単語の小テストのテストがあってもいいように対策はしている。
『うん、5時間目にあるよ』
やっぱり、汐斗くんは流石だ。即答した。
「分かった。ありがとう」
『他に今なんか言っときたいことはないか? 苦しかったこととか? 辛かったこととか?』
そしてこれもまた、お決まりのような言葉だ。私が何か相談したときには、汐斗くんはまるでカウンセラーの人みたいにきっちりと私の隅々の部分まで聞いて解決策を見つけたり、私の心を締めているものを緩くしてくれる。
でも、今日は特にはなかった。そういえば、最近はあの時にお昼を食べた、海佳ちゃんと唯衣花と少し仲良くしてもらっている(と言っても私は基本的に休憩時間は勉強をしているのであまり話す時間は取れていない。それでも、2人は仲良くしてくれている)。
「そういうのはないけど……よかったら明日一緒に行かない? 公園に?」
『あー、午前中はそれだったな。全然いいよ。あとで、この電車乗らないかっていうのはラインに送っとくから。というか、今考えれば、それで午後授業あって、英単語テストとか体に応えるよな』
「本当にそうだよね」
今、汐斗くんに言った公園に行くとは、この高校は自然の多い市にあるため、数ヶ月に1回市内の公園に行くという行事的なものがある。先生いわく、自然の力で心を休めるとかいう目的があるらしい。明日行く公園は市内で一番大きくて、そして人気な公園なので、もちろん何回かは行ったことあるけど、その一瞬だけは勉強について忘れられるので少し楽しみだ。
それで、汐斗くんを誘ったのは学校に通っている電車はそれぞれ違うけれど、明日行く公園へは途中からお互い乗り換えて行かないと行けないから、その乗り換える電車が同じだからだ。唯衣花や海佳ちゃんと行きたい気持ちもあったけれど、気づいたのがついさっきだったので、誘うのを忘れていたので、汐斗くんを誘うことにした(2人はもう12時頃に寝ているらしいので、今ラインしても難しい)。ただ、少しだけ異性を誘うというのはそういうことをほとんどしたことのない私にとっては恥ずかしかった。でも、汐斗くんは私の不安を吹き飛ばすかのようにいいよと言ってくれた。
「ちなみにだけど、汐斗くんも体調の方はどう?」
私は、気遣ってばかりいるだけではだめだと思って、逆質問してみる。汐斗くんだって悩みというか事情を抱えているのだから、その部分は私も少なからず気にしないといけない。大切な人なのだから。
『おー、ありがとうな、気遣ってくれて。今は安定してる。というか、少しよくなってる気がする。薬のおかげかな? もちろん、心葉のおかげもあるよ。ありがとうね』
「私は関係ないよ。でも、そうならよかった」
どうやら、汐斗くんの方はよくなっているようだ。私も汐斗くんと同じようで前よりはよくなっている。多分、どこかの病院が汐斗くんという薬を私に処方してくれたんだろう。
――明日が少しずつ見えるようになった彼と、明日を閉じることを違うと思えてきた私。
そんな風になれるといいな。
『じゃあ、おやすみ、心葉。また明日』
「うん、おやすみ。また、明日」
私は汐斗くんとの電話を切った。それから、汐斗くんからのラインを待つついでにに明日の英単語の練習をもう少しした。多分明日は公園に行くので疲れてあまり昼休みは見返す時間が取れないと思うから、できる限り追い込んだ。追い込むことが私にとって効果的なのかは分からないけれど、私はこれで今までやってきたんだ。だから、そうするのが一番いいんじゃないか、そう思ってラストスパートをかける。
少し経ってから、汐斗くんから電車についてのラインが来ると、その電車を確認する。それからあくびも出てしまったため、眠りについた。
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