第13話 友達
次はお昼だ。妙にお腹が空いている。これは、今日は自分の作る別に美味しいわけでもない弁当ではなく、汐斗くんのお母さんが作ってくれた弁当だからかもしれない。これから1ヶ月は、私の明日を閉じたいという気持ちを変えるため汐斗くんが一緒にお昼を食べてくれることになっている。もちろん、弁当を食べる際も学習本は必須だ。
「心葉ちゃんって昔はアクセサリー作ってたの?」
どこまでも透き通っていく声。私の前の席の女の子――
「うん、まあ、今は作ってないけどね」
「私は作ったことはないけど、つけるのは好きだな。ねえ、お弁当、たまには一緒に食べない? お勉強道具、持って行ってもいいから。班活動以外のときは、心葉ちゃん、頑張って勉強してるからなかなか話しかけづらくて……。でもなんかやっぱり話したいなって! もちろん無理にとは言わないけど」
確かに私に話しかける隙を見つけるのはかなり難しいかもしれない。でも、今回、海佳ちゃんはここだと思って話しかけてくれた。そんなものを断るわけにはいかない。
「食べるのはいいんだけど……」
勉強道具を持ってどこかで食べるのはいいんだけど、汐斗くんとの約束がある。だから、私のことを気にしてくれて言ってくれたのに、汐斗くんのことも断ることができない。そう思ってると、汐斗くんと目が合い汐斗くんはスマホを手で指してきた。なんだろうと思いながらスマホを見てみると、誰かからラインが来た。私は少しごめんねと謝った後に、そのラインを確認する。そのラインの相手は汐斗くんだった。
『俺とはいいから、その子と食べなよ。そっちのほうが楽しくなるって。というか、アクセサリー作りが趣味だったんだね』
そういうことが書かれていた。やっぱり、汐斗くんって人は――。
『うん、じゃあお言葉に甘えて。まあ、さっきも言ったけど今はあれだけどね』
私はそう返信する。
「うん、じゃあ、食べよう!」
私は普段はあまり見せることのない明るい笑顔をしながら、海佳ちゃんの誘いにのった。
「でも、2人だけだとあれだね。誰か他に1人ぐらい誘わない?」
「じゃあ、私と中学同じ子なんだけど、
「あ、唯衣花ちゃんね。いいよ、いいよ! そうしよう」
最初は汐斗くんを誘おうかとも思ったけれど、汐斗くんとは学校で話したことはほぼないので、急に誘って、海佳ちゃんになにか感じ取られても少し困るし(海佳ちゃんはそういう子ではないと思うけれど)、すでに汐斗くんは他の友達とどこかに行っていたので、中学が同じで私ともある程度仲のいい唯衣花ちゃんを誘うことにした。
私が唯衣花ちゃんに声をかけることになったので、私は唯衣花ちゃんの席の近くに行く。といっても、高校生になってからはずっと勉強づくしだったし、話したことがあったっけ? というレベルだから、少しだけ緊張した。数年ぶりに会う幼馴染に話しかけるみたいに。
「唯衣花ちゃん。よかったら一緒にお昼食べない? 海佳ちゃんもいるんだけど」
「うん、今日は特に約束とかはしてないからいいよ。というか、心葉から誘ってくるの珍しいね。それよりも、話すの久しぶりだね」
「そうでした。お久しぶりです」
私は反射的にペコリと頭を下げる。
「ふふっ。何その対応? というか、私のことちゃん付けになってない? 前みたいに呼び捨てしてくれていいのに」
そう言えば、唯衣花ちゃんのことを中学の時は呼び捨てしていた気がする。たぶん、私が今回ちゃん付けしてしまったのは、話すのが久しぶりすぎたということを間接的に表しているんだろう。
「じゃあ、唯衣花も行こう」
「うん」
今日は天気がいいからということもあって、外にあるベンチで食べた。本当は屋上か外のベンチどっちがいいかと聞かれたのだけど、私は外のベンチの方が人いなさそうじゃないと言ったのでこっちになった。本当にこっちの方が人が少ないのかは分からないけれど、屋上で食べると昨日みたいな行動をしてしまわないか不安だったからそう答えた。
「……っていうか、この3人メンバーでお弁当食べるのは多分初めてだね」
3人が座ったところで、真ん中に座っている海佳ちゃんがそれぞれ端にいる唯衣花と私を見回しながら、そう言った。言われてみればそうかもしれない。なので私はそうかもねと相槌をとる。この姿を写真に収めたらきっと青春色で輝いているんだろう。
私は空腹に耐えられず、早速お弁当箱を開ける。パカッ。
――流石、汐斗くんのお母さんだ。
想像していたもの以上のクオリティーだ。卵焼き、ミニハンバーグに鮭、そしてほうれん草とコーンのソテー……栄養バランスまでも気遣ってくれている。こんな私のためにしてくれるなんて本当に感謝しかない。
――いただきます。
私は早速食べ始めた。流石、見た目を裏切らない美味しさ。とくにこの玉子焼きのほんのり甘いところだったり、ふわふわ感がたまらない。まるで汐斗くんみたいだ。
「そういえば、心葉ちゃんはアクセサリー作ってたって言ってたけど、どんなの作ってたの?」
海佳ちゃんが唐揚げを食べながら私のことについて聞いてくる。
「んー、花の髪飾りだったり、ミサンガだったり、腕輪とか……色々と作ってたかな……」
今も中学の時に作った私のアクセサリーコレクションは押し入れだけどそこに大切に保管されている。でも、もう何年も開けていない。だから実質ただ置かれてるだけだ。
「私も、中学の時に心葉にミサンガもらったよ。ピンク色の」
「あ、そういえば中学の時にあげたね。私、ピンク色が好きだから、唯衣花にはピンクの色の糸を使ったんだ」
数年前のことだけど、唯衣花にはピンクに少し黄色の糸を混ぜて作ったミサンガをプレゼントした気がする。
「今もまだつけてるよ」
そう言って唯衣花は足を見せてきた。――あ、あの時にあげたミサンガだ。少し色が薄れたりしてはいるけれど、たしかにあの時私があげたミサンガで間違いない。あの時の唯衣花の喜んでくれた顔が懐かしい。
「中学2年の夏頃にもらったから、2年少しつけてるのかな」
私の中学ではミサンガを付けることは禁止されてなかったので、私があげてからずっと今日までつけてくれたんだろう。今日までそんなものをずっとずっと大切にしてくれたなんてあの出来事はあったけれど、ものすごく嬉しい。私はありがとうと素直にお礼を言った。
「でも、なんで今はやらなくなったの? 勉強に専念したいから?」
「それもあるけど……、ちょっと色々あって」
今、アクセサリー作りを私がしてない理由。もちろん、勉強に専念したいからという理由もある。でも、中学の時にある出来事があったのだ。それも大きく関係していると思う。そういう背景もあって多分私は、もうアクセサリー作りをすることはないんだと思う。だから、染め物を作るという趣味というか目標のある汐斗くんが、なんだか高い位置にいるように思えてしまうのだ。
「そうなのか。でも、もしまた作る気になったときは私にもちょうだい!」
「……まあ、作る気になったらいいよ」
海佳ちゃんは遊園地に行く前の子供みたいに楽しみだよという顔をしながら、そう私にお願いしてきたが、それは少し難しい。希望に添えそうになくて申し訳ないけど、一応そう答えておいた。
私は汐斗くんのお母さんのお弁当を美味しくいただき終わると、心の中で汐斗くんのお母さんにお礼を言い、漢字のテキストを見始めた。まだ2人はお弁当を食べている様子だったので、邪魔にならないように配慮して。
「おー、勉強か。偉いなやっぱ」
「でも、こうやってもテストの順位は全然なのが現実だけど」
「まだ花が咲いてないだけで、これからまだ伸びてくんだよ。だから、応援してる! 努力は必ず実るわけじゃないけど、心葉ちゃんの努力はきっと実るはずだよ」
そういうことを言ってくれると、頑張ろうと思うになる。でも、羨ましいな。2人が。もちろん2人も私の考えている以上に努力をしているんだるけど、クラスの中でも2人のテスト順位は上位だ。でも、私はその反対。なにが違うんだろう。努力の違い? だけど、私は自分で言うのはあれだけど、できるだけ空いている時間は勉強に費やしているし、一体2人と何が違うんだろう。何をすればもっと……。
「あ、これ、汐斗のインスタグラムじゃん! これ、昨日のやつ? なんだ彼、どこのかは分からないけどカフェでパフェとかパンケーキとか、それにサンドイッチまで、色々テーブルにのってるじゃん! 学校の帰り道にでも寄ったのかな? 心葉は勉強してるっていうのに羨ましいよねー」
漢字のテキストを赤シートで隠しながら、正解したものはそのまま、間違ってしまったものにはチェックをつけてというやり方で勉強を進めていた時、2人がそんなことを話していた。
汐斗くんのインスタ? カフェ? パンケーキ? サンドイッチ?
さらに、昨日?
「ん、どれどれ」
まさか昨日の私が汐斗くんといったやつかもと思い、私も2人が見ていた汐斗くんのインスタグラムを覗く。
確かに昨日の光景がそこに広がっていた。私を撮った写真はあげられていなかったのでよかったが、これらは昨日、私が食べたやつで間違いない。
「ねー、ずるいよねー。心葉ちゃんはその時、勉強中なのにね」
海佳ちゃんが私の顔を見てそう言う。あ、ごめんなさい。その空間に実は私もいるんです。さらに、汐斗くんのおごりで食べていました……そんなことは到底言えそうにはない。心葉ちゃんはその時、勉強中なのにねと言われれば尚更だ。
「……まあ、そうかもね」
ここに、汐斗くんがいなかったことが救いだった。いや、彼ならこういう嘘は許してくれるのかもしれない。
「なんか、誰かの手が映ってるから汐斗以外のやつもやっぱいるんじゃん。羨ましいー。私も連れてってほしかったな」
海佳ちゃんが次に見た写真でも引き続き美味しそうな料理の写真が映っていた。でも、その端の方でなにやら手のようなものが映っていた。ごめん、それ、私の手です……とは流石に言えない。でも、ぎりぎり手のひらのところだけなので、私と判断される可能性が低くて助かった。
「でも、心葉も休めるときは休みなよ。教科書を見たり、問題を解いたりとかするだけが、テストの点をあげたりするわけじゃないから」
唯衣花がひょいっと顔を出して、そう言ってくる。確かにその通りだとは思うけど、やり方を変える……それが不安定な橋を渡るかのように怖い。
――キンコーン、カーンコーン。
午後の授業まで10分前だよということを知らせる予鈴が鳴ったので、私たちはお弁当を片付けて、教室に戻った。
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