赤ちゃんと私

ご飯のにこごり

第1話

クラゲみたいにぷかぷかとしたゲップの音、甘くてお湯に入れたら溶けてしまいそうな匂い。赤ちゃんはやっぱりかわいい、些細なストレスとかなんてどうでもよくなってしまうような人に媚を売るあざとい見た目、自分では何にも出来ないくせに亭主関白の男みたいに鳴き声で人を使う。憎たらしい顔に涎や鼻水で汚らしい顔。ほっぺの肉を垂らしてニタニタ笑う。腹が立つ、蹴飛ばしてしまいたくなる。1番可愛がられるのは私じゃないといけないのに。


小さな湯船に浸かる赤ちゃんは死んだことに気づかないまま、死ぬ魚とかエビみたいだった。赤ちゃんはかぷかぷと泡を吐いたら動かなくなった。何も言わない方が可愛いじゃない。私は接吻をして抱きしめた。でも彼女はだらりと腕を空に落とすばかりで抱きしめ返してくれなかった。泣きたくなった。赤ちゃんみたいに、無邪気に。このモヤモヤをかき分けるみたいに。


甘い匂いがする。味はあまり甘くはなかった。ぽちゃぽちゃと床に垂れていて、赤ちゃんは浴室を彩る赤い水たまりになった。白いタイルに赤い絵の具はいかにもな現代美術のようで嘲笑的だった。液体になってもニタニタ笑って、笑って、笑って、まだ笑っている。いい加減そのニヤケ面をやめて。赤ちゃんがもう死んでそれどころか胃の中に住んでいることすら理解しない愚かな少女は愚かに風呂場で騒ぎ踊る。その騒ぎを聞いてパパとお兄ちゃんが風呂に来ると、残った正気を摘まれて胃の中の住人をぶち撒ける。赤くてぐちゃぐちゃとしたそれに混じるまだまだ成長するはずだった噛み砕かれなかった指たちを見たパパは何も言わない、呼吸が速くなり、顔は青ざめ今にもとどめている涙と吐瀉物のダムが決壊しそうだった。電気はチカチカと今にも消えそうで、そんな消えそうな電気にハエがぶつかり死んだ。水たまりに映る私が1番かわいい。

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赤ちゃんと私 ご飯のにこごり @konitiiha0

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