第35話 ダンショウ&センジュツ

弓野さんの監視の許何となく時間いっぱいまでこの鎧の性能テストをしたかった

ハンター同士争うことはない。

順位争いはあるがトップランカーのステータスはランキングにて開示されているのだ

当初の予定にはなかったが試しにモンスターを狩ってみる。動きは上々。その辺の雑魚なら簡単に屠れる。それを眺めて弓野さんは訊いてくる


「へー。変わった鎧着てんのな」

「まあ…。オーダーメイドで」

「ほう…特注とは結構金あるんだな。何か用途あんのそれ?」


話していいものか迷うが別に話したところで問題はないと思い打ち明ける

というかこっちが一方的に知っているのに教えないのはフェアじゃない気がするので


「えっと。魔素洞調律シンクロニシティを抑える鎧なんですよ。

俺の魔素は暴走しやすいので」

「・・・へえ。特異体質なんだな。つーとなんだ?その魔素を別用途で運用してんのか?」

「そうですね…。魔素を吸収して強化する鎧なんですよ」

「はー。きいたことねえやつ。いや、たしか一部の武器を強化するための魔素を供給する奴はいるな。だが防具に注ぐ奴はそうそういねえぞ」


初めて知った。魔素を使って武器を強化する人いるんだな…。トップランカーでも秘匿情報あるのか…

そして俺も聞いてみたことがあった。そう…因縁(?)のヒュドラを倒したことだ

後学の為二度と経験したくない雪辱果たしのリベンジの為聞いておきたかった


「こっちも質問良いですか?どうやってヒュドラを倒したんですか?」

「あ?ライブ見てねえのかよ?心眼使って眼え矢で潰してひたすら弱点の首を斬りまくったんだよ」

「なるほど…くぅ、俺も倒してマップ埋めたかった…」

「何か言ったか?」

「いえ別に」


心眼。直観系スキルで目視ではなく感覚でとらえるスキル

なるほど、それならば目を見ずともヒュドラを射抜ける。

というかライブあったんだ…見てなかった…二度の不覚…!おのれヒュドラ!!

まあそれはそれとして格上殺ジャイアントキリングしとしてはかなりの先輩だ。勉強になる。魔法銃的性はないが弓矢なら対処可能。ただし心眼やよほどの的中率を誇る技術が必要…。やべえ、勝てる気がしねえし俺とタイプが違いすぎて参考にならない…!!


「すごいですね。流石、格上殺ジャイアントキリングし」

「んなことねーよ。事前に弱点知ってたしな。それよかすげー奴もいるんだぜ?」

「へー…トップランカーの方々ですか」

「ちげーよ。レベル∞のイーヴィルヴァーン倒した謎の男だよ」

「え?」


なにそれ、すげえ聞き馴染みのある出来事だ。とりあえず心中悟られぬよう平静を装う


「へえ…。レベル∞…なんだか嘘くさいですね」


色々ごまかしたいしなかったことにしたいのでうやむやにしようとするも食って掛かるように弓野さんは語る


「いやいや、マジなんだって。ゲームのバグだかでレベルとステータスがオール∞になったイーヴィルヴァーンがいて、そいつを倒したやつがいるって確かな情報筋から聞いたのよ。何でも無銘のルーキーで素性は分からず男であることしかわからねーらしい」

「…うっそだあ」


はぐらかしたい。この話題から早く抜け出したいので他人事っぽく装ってそんなことを言う。


「嘘じゃねーし!オレも負けられねーって俄然熱くなったぜ!・・・秘密なんだけどよオレそいつに憧れてんだ」

「憧れるようなことじゃなさそうなんですがね…」


あれはただ状況が俺に適していただけですごさでいったら弓野さんが断然上だ。

憧れの対象にはなりえない。


「たりめーよ!良い女ってのは良い男に魅かれるもんだぜ!

へへ、いつか会えたらいいな」


さながら恋する乙女…というか真面目に恋する乙女な顔してる

やべえよやべえよ…絶対バレたらアカン案件や。

ハンターのアイドル的存在が誰かに恋してるとかその相手が俺とか

想定以上の最悪の事例だ。殺される。ファンの方々に殺される。

普通以上に死んでいるのにこれ以上死んでたまるか


「いや、アイドルなんだし恋してはアカンでしょ」

「なんでえ、そもそもオレアイドルってタイプにみえっか?

勝手に他の奴が持ち上げてんのよ。まあ確かに、そのおかげでランキングに乗るほど強くなれたしそーいう色恋の話はしちゃいけねーよなぁ」


良し!最悪の状況は回避できそうだ!心の中でガッツポーズをとる


「じゃ、そん時はアイドル引退すっか」

「だめでしょ!?お世話になったんでしょ!??」

「えー。でも恋心は止められねーしよぉ。恋愛ってのは自由だべ?」

「ダメダメ!アイドルはなった瞬間からファン全員の恋人なの!恋愛しちゃダメなの!!」

「ちぇー…まあそうだな。例えファンが見てくれなくても続けなきゃな。

じゃ、恋の話はナシだなナシ!」


心の底から安どのため息を吐く。もちろん心の中で


「でもよー、そんなにオレが恋愛しちゃいけないってか?

やっぱ俺のファンかお前?」

「ええまあ、トップランカーは俺の目標ですし」

「憧れってか。なーんだ。オレってわけじゃねえのか。

あー、このガックシをみんなにさせちゃいけねえな

今分かったぜ」

「それは良かったです」


少なくとも深夜刺される事案はなくなったと考えてよさそうだ

龍脈ないとこじゃパンピーだからな…ナイフ一本で死ぬ


「それにしても、何だ、やっぱお前おもしれーやつだな

話してて楽しかったぜ」

「でも今後これっきりにしてほしいですね。ファンの方に刺されたくないし」

「ま、確かにな。あんまりみんなをリスナーを裏切る真似は不義理だよな

残念だがそろそろ時間切れだ」


と弓野さんは上を指さしている場所を見ると時間経過のアナウンスが鳴っている。

話し込んでいる間に一時間くらい経過していたようだ。


「今日は時間使っちまって悪かったな。お前も色々用があるんだろ?

話してて楽しかったぜ。ケケケ」

「そうですね。俺も楽しかったです」

「また会おうぜって言いたいが身分上できんからな。

今度はランカーとして待っているぜ」

「はい」


そういって本当に別れを告げて去っていく弓野さん

話していて楽しかった。トップランカーと話す機会など二度もない事態だ

マイペースに見えて引き際もわきまえているしプロの方は凄いな

なんて感想を抱き俺も自分のやるべきことをやらなければ


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魔素の運用方法の感覚も掴めてきたし弓野さんの話を聞いて

別武器の使用も検討しようと思った


ヒュドラのようなタイプには遠隔武器が必須だ。だが近接武器系は遠距離武器が不適正とされている為弓は俺の苦手とする分野となる。持てなくはないが恐ろしく下手。宝の持ち腐れること間違いなし


なので投擲武器として一番適切なのが『投げナイフ』だ。

というかアリアが使っていた時点で気づくべきだった。


剣一本でうまくいく世界ではない。俺のような突出したものがない奴には

あるべきものをうまく使って立ち回るしかないのだ


アリアと佳夕さん。その二人の持ち味を申し訳ないが参考にさせてもらい


「他武器とMAGを使ったこざかしい戦術。だよな…」


アリアほど他武器をうまく使えるわけでもなく

佳夕さんほど魔法に長けているわけでもない俺にはそれしかない

一撃必殺の致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―と起死退転の組み合わせはなるべく使いたくはない。


ゲームならともかく現実ではリセットは訊かない。

今のハンター業界は死人が少ないとは言っても絶対に死なないというわけではない

というか今の今まで良く生きてこられたなと自分の命冥加に舌を巻く

それらと鎧の使い方戦略を考えながら俺はモンスターを狩って狩りまくる。



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