第34話 №4ハンター弓野亜美&専用鎧装『神楽』
SNSにてMMOアップデートの話題が持ちきりになっている
無論クソゲー乙というつぶやきもあるがそれ以上に注目を集めたのが
ヒュドラ。討伐である。レベル20でレベル60&石化能力プラスアルファ再生能力を持つヒュドラ相手を倒した猛者がいるとの情報だ
それはかの有名なランキング4位 レベル1の魔法使いでイーヴィルヴァーンを倒した少女
絶対に勝てない状況下でイーヴィルヴァーンを倒した経歴がある彼女は人一倍負けず嫌いでありプライドが高い。
つまり気位が高い女の子だ。
そんな彼女の持ち味が『不撓不屈。不退転の心』であり何度敗北に喫しようと立ち上がるその姿を見て心を惹かれた人は数知れずネットではアイドル扱いにまで持ち上げられていた
今ではレベル50でありながらレベル70を平均としたエースの中に枠組みされている俺以上に
それを訊いて俺は気づく。もし俺がヒュドラを倒していたら変に注目されるのではないかと
つまり俺は倒さなくてよかった。もしヒュドラを倒していたらコミュ障の俺が目立ってしまう可能性がある。つまり感謝だ。…決して負け惜しみなんかじゃないんだからね!!!
まあ言い訳はこのくらいにして
ついに念願の
新たな武装を試すために俺は低レベルのダンジョンへソロで出かける
単身で来た理由はアリアはまた活発化した裏政府の回し者の排除と
花道さんは都合がつかなかったという理由だ。家族と親睦を深める為旅行らしい
つまり久しぶりにソロ…いやゲームの中でもソロだったのだがリアル世界で久々の一人でのハンティングである。
更衣室にて新たに出来た鎧を眺めて悦に入る。かなり重厚なアーマーで
名前は『神楽』らしい。
だが俺的には素晴らしいの一言に尽きる。男のロマン満載な漆黒の外装。
オーダーメイドの為か作り手の趣味が入った突起部分やらの男心をくすぐる厨二感
黒騎士のような西洋の兜が
それによって魔素を抑制するシステムらしい。
つまりは
顔を隠すハンターは少なくはないが特注でない限りはあまり
頭の装備はもちろんあるが顔を覆うタイプは少ない
そしてその最たる理由が…いや、端的に言えば仮面は暑いらしい。スーツアクターと同じ悩みが今でもある。
レベルや同期である程度抑えられるのだが呼吸がし辛いのが不人気の理由で頭の装備は基本軽装が普通だ。
なので必要な時に兜が出てくるのはありがたいが…。
ロマン的に仮面があった方が格好いいという落胆もある。配慮してくれているのは知っているんですがね。武装展開とか男のロマンだし
さっそく装着し手を閉じ開きを繰り返して馴染みを確認する
やはり魔素がいつもより低く感じる。多分俺の中の魔素を何らかの方法で低下させているのだろう
というか…何か吸収されてね?なんて思いながら
ポータルに行きソロでも行ける範囲の場所へ移動する
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ダンジョンを出てフィールドに入る
モンスターは狩らずひたすら動きを確認の作業に入った
一連の動き。戦闘に必要な所作を繰り出して挙動を確認
魔素がなくなっている分動きも落ちている…わけではない
何というか俺の魔素を吸収して鎧が強化されているという感覚
弱体化ではなくむしろ強化。吸収された魔素分武装が強くなっている
魔素低下によって弱くなることは承知していたがまさかこんな運用をするとは思わなかった。店長や鍛治の人に感謝。
事情は聴かず俺に配慮してオーダーメイドという無茶をしてもらってこの厚遇は幸甚の至りだ。
改めて店長や武器に携わる人がすごいと理解する
これは
魔素が低い人ならば無用の長物と化しているだろう
確かに魔素の運用によって魔素で出来ている防具の防御力を上げられるが体内の魔素が欠乏すれば
ダンジョンや武器の適正免疫が低下し最悪死に至る可能性がある。
つまり俺だけがメリットとして使える装備というわけだ。
魔素を駆使するたびに俺の防御力はより堅固となり攻撃力も吸収した魔素に応じて強くなる。意図的に調整し送り込めばその分強化もできるという逸品。
暴走というデメリットを抑えなおかつ弱体化がない秀逸な武装だ。そしてデザイナーの人最高。今度名前聞きたいな…。友達になりたい。なんて思っていると
「あっ」
ふらっ、と体が傾いてしまう。
調子に乗りすぎて魔素を鎧に送り続けた結果だ
といってもここらのモンスターはレベル差で警戒し手を出さない為安全ではある
なのでキャンプを設営ししばし休むことにする。
「ふう…」
鎧を脱いで流れる汗を拭く。デメリットと言えばやはり暑いことくらいか
水分を補給し時間が15分しか経っていないことに気づきこの後どうしようかと考えていると
「アンタ…鹿目雄一さん…だろ?」
そう、突然だったのだ。不意だった。休憩中で腰かけた時である
女の子が俺に対し、話しかけてきたのだ。
背後から声をかけてきたので反射的に振り返る。
これがいけなかった。顔を真正面から見てしまい目が合ってしまった。
それは言わずと知れたハンターランキング4位の少女弓野亜美
栗毛の頭髪に防御力の低い軽装備で敏捷さによって確実に相手にダメージを与え3時間以内に確実にキルするあの弓野亜美である。男勝りな口調も特徴
超有名人。ネットアイドル。最強レベルのハンター。お近づきになれない存在。ファンに刺される。
色々思考が巡り初めて会う彼女に対し俺は
「・・・・・・・・・・・・・・」
「…?アレ?間違えたか?いや確かに鹿目雄一って人だよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「うん、間違いない。武装は違っているけど確かに合ってる。
初めまして、オレは弓野亜美。苗字の縁か弓が武器なんだけどアンタに聞きたいことが…」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「…アレ?やっぱり人違いか?オレそんなに人間違えないタイプだと思ってたのになー?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「もしもーし、聞いてる?初対面だからってちょっと馴れ馴れしかったか?」
滝のような汗が出る。肉体が硬直してるのに心臓がバクバクと止まらない
顔が青くなる。溶けて水になりそうだ。
この場から逃げ出したくなるけど足が震えて動けない。脳みそがシェイクされて混濁している。
そう、これが俺のコミュ障であり知らない相手にはこうなってしまうのだ。逆に言えば佳夕さんやアリアの
だが相手は№4のトップランカー。粗相はいけない。なので早急に固まっていた口を無理やり開くと…
「ははははははははははははははははははははっはははははははあははははははははああああああああああああばばばばばばばばばばばばっばばばばあばばばばばばばあばあばばっばばばばっばジジジジジジジジジジジジジジメメメメメメメメメメメメメマママママママバババババババババババババババババババババババババッッッッ!!!!!!!!!!!!!」
「どしたんだ急に!??」
「がががががががががががーピー。コンニチワ。ボクカナメユウイチ。」
「昔風のロボット!?」
「よろろろろろろろろろろろろろろろろろろごごごごごごggggggggggggggggggggggggggg!!!!!!!!」
「バグってる!?ほんとに大丈夫なのかお前!??」
心配され急接近してくる女子を前に
血流が加速し紅潮してしまう。青い顔が赤くなる
そしてそのまま案の定。俺は泡を吹いて失神した
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――――――――――――――
・・・意識が口を開く。つまり覚醒したというものの例えだ
どうやら俺はあまりの緊張に気絶していたらしい
…だが逆にチャンスだ。あの対応をされればドン引きされて
立ち去るはず。そうされたらめっちゃ傷つくが仕方ない。現実逃避の為しばし瞼を閉じたまま深呼吸をする
意識はまだ胡乱としている。感覚がしっかり働いていない
頭の後ろの感覚が特にだ。固い地面に接しているはずがそのような感覚は一切ない
むしろ柔らかい。こう…むにゅっとした感覚でまるで生物の肉感にも感じられる
・・・。異常だ。久々のコミュ障発動で感覚系統がおかしくなっている。
鼻孔もそうだ。とてもいいにおいがする。まるで女性特有の香りというか
…、いや、ありえない。一瞬頭によぎった言葉を打ち消してこのシチュエーションを頭ごなしに否定する
まるで膝枕をされてるみたいだなー。なんてアホな考えに至っている
そんなはずはない。あんな対応されて膝枕されるなんてありえないし俺なんかにそんなことをする理由はない。
彼女いない歴=年齢の俺にそんなギャルゲみたいなこと起きるはずがない。だが頭から否定できない。友達とはいえ佳夕さんやアリアがパーティーにいる。むしろ今までそう認識出来なかったのは身近過ぎたため。だが彼女らはあくまで友人でそんなことはされたことはない。
瞼を恐る恐る開ける。すると
「あ、目が覚めたか?ビビったぜ。いきなり倒れちゃうもんだからなー」
弓野亜美さんが俺に膝枕をしていた。
びっくりして飛び起きると肌が触れ合うほど顔が接近してしまい呼吸が触れ合うほどの距離になり
脊髄反射で俺は距離を取る。そのさまは驚いて逃げる猫のようだ
それに対し気にしていなさそうな雰囲気で
「へぇー。そんな鎧着込んでてスピード早いんだな。驚いたぜ
突然倒れたり飛び起きたりせわしないなお前」
「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょ!!!!!初対面なのになぜ膝枕を!??」
「あー、やっと話せた。ちわっす。オレは弓野亜美。お前が鹿目雄一って奴だよな
水無月アリアをパーティーにしてるって噂でもちきりの。やっぱすごいんだな」
「・・・アリア?ということは…」
「そう、水無月アリアについて聞こうと思ってたんだぜ。わりーけどお前の事じゃないんだ」
・・・すっげえ安心した。俺の事じゃないんだ。なら話は別だ。緊張を解く
というか俺の事だと思ってたんだな俺…自意識過剰恥ずかし!内心俺の事じゃなくてショックなのは内緒だ。ていうか膝枕の件答えになってない
というかようやく腑に落ちる。アリアをパーティーに組み込む弱小ハンターなど
注目されないのがおかしい。
特にアリアは最近になって素性が明かされたハンターだ
今まで尋ねられなかったことが不思議だ。
レベルを聞けば上位のハンターにカウントされているアリアに対し勧誘を持ちかけるのは当たり前だろう
深呼吸しまくってとりあえず落ち着いたあとどもりながら視線を合わせまいと俯いて話しかける
「えっと…あの…。・・・・・・・・あ、アリアに…つ、つつついて。でした…け」
「緊張しなくていいぜ。今はオフだから誰も見てないからよ」
「いえ…じじじ、じぶ…自分…コミュ障…なの…で」
思った以上に声が出ない。淡で息が詰まりそうな感じがする
ある程度事情を察したのか弓野亜美さんは気を遣ってパネルを開く
「コミュ障?あー、なるほど…。喋んの苦手なんだな。
じゃあチャットで話すか?」
「おおおおおお、お願い。します」
という訳でお言葉に甘えチャットタイム。筆談ならば多分大丈夫だろう多分
≪―おーい、聞こえるかー?―≫
≪―はい、失礼と迷惑をかけてすみません―≫
≪―いやーわりいわりい。オレも配慮が足りなかった―≫
≪―それで、アリアについてでしたっけ?勧誘ですか?―≫
≪―いやいや、引き抜こうとするわけじゃねーよ。単に何でもっと強いパーティーに所属しないかって聞きたかっただけだ。あ、いや別にお前らを侮辱しているわけじゃない。そう聞こえたらすまねえ―≫
なるほど…アリアほどの実力なら引く手あまただろう。だが何故俺のパーティーにいるか疑問だったらしい
≪―本人曰く『新人育成』らしいです。実力がある芽をつぶしたくないらしいと―≫
だがアリアの事情は話す気はさらさらない。ただでさえ重い過去なのだ。
知らない相手にそれを喋るつもりはないので本人が言っていた嘘を代弁する
≪―ふーん。・・・新人育成なら色んなパーティーに行くはずなんだけど
もしかして聴いちゃいけなかったか?―≫
≪―これ以上聞かないでもらえると助かります―≫
≪―わかったよ。これ以上は聞かないことにする。色々分かったし―≫
彼女の質問はある程度答えた。もしかするとしゃべってはいけないレベルまで喋ったかもしれない。アリアの弱みとか握ったとか。そう言うことはないとは思う
そう言うガラの人ではないというのは周知の事実だ。それほど彼女のハンターとしての矜持をすでに見せられている。しかし本人がいれば解決したであろうが俺が勝手に話していいものなのか。後でアリアに説明して謝らないとな
用が終わったと思いチャットを切ろうとすると彼女は待ったをかけた
≪―ねえ、オレたちのパーティーに入る気はない?さっき膝枕でお前の体調べさせたけどなかなか良い筋肉してるぜ―≫
≪―セクハラだー!!訴えますよ!!!―≫
≪―冗談だよ。でも考えてくれよ。確かにお前は見どころあるからな―≫
そう言われるのは素直に嬉しい。さすがトップランカー。お世辞がうまい。
ならもう俺に様はないはずだ。休憩も十分できたしキャンプ道具をしまおうとすると
じぃっと、弓野亜美さんは俺を見つめて座っている。この場から動こうとしていない
モンスターの危険性は皆無だがそこで座っている意味はない
事が終わったのだから別れるのが普通だろう。なのにこの人一向に動かない
「あの…どして帰らないんですか…」
「ああ、別に。それってオレの自由だろ?」
当たり前のようにそう返された。まあ膝枕で痛かったのだろう。休憩が必要なのかと思い立ち去ろうとすると
すたすたと足音が聞こえる
俺がぴたりと止まると同じタイミングで足音が消える
再び俺が歩くとまた背後から足音が聞こえる
…多少無視すれば諦めるだろう。そう思い速足で歩いていく
いや、もしかすると同じ方向で別の目的があるのかもしれない。
そう思って足を止めず歩を進める
・・・・・・・・・・・・・・
ぴったり間隔を空けて俺の後ろにいる辺り着いてきているようだ
数十分歩いたのち根負けし後ろを振り向いて質問する
「すみません。どうして着いてくるのですか?」
「それってオレの勝手」
「いえ俺には俺の用があってですね…」
「別に邪魔しないから問題ないだろ?」
問題しかない。知らない誰かに見られながら行動できない。
ハンター同士諍いがないために手の内が割れようとどうでもいいのだが
有名人と一緒にいるところを目撃されたら俺はハンターとして終わりだ
ネットで罵詈讒謗の嵐に巻き込まれたら耐えられる気がしない
ポータルを使ってダンジョンを出ればいいのだろうがこの勢い家まで付いてきそうだ
それはアリアと一触即発になるので勘弁願いたい
「はぁ…」とわざとらしくため息を吐いて俺は観念する
「わかりましたよ。でも面白いもんじゃないですからね」
「やった!ありがとな!!」
すると、突然だった。
そう言って彼女は急接近しハグをしてきたのだ
あまりに予測不可能過ぎて対処できず
女性特有の柔らかさに身を包まれ体中が赤くなってしまった
その後俺の頭に手を回し顔を近づけると
「キスでもするか?」
「やめてください!?」
断固拒否し彼女のマイペースさに振り回されるのだった
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