第30話 茨の道≪ドロローサ≫
「まさかデッドゴードの群れを一人でやっつけちゃうなんてさー。すごいね☆」
「ホントですよ!私たちが来た時にはもう終わっちゃってましたからね!」
「いや…あれは
彼女たちの治療はわずかな時間で終わり俺の治療はまたもや一週間近くかかってしまい頭を悩ませる。
もうちょっと穏便にできないかなーなんて思いながらもあの抑えきれない欲動を止める術はない。
そのことは咎められずむしろいつもの事みたいに流されている辺り俺はこの路線のキャラにされているんだろーな何てことも考える。
先述の事。デッドゴードを倒したことについて俺は二人に持ち上げられている
アリアや花道さんに褒めちぎられてこそばゆく面映ゆいが正直俺自身の実力とは思えない。
謙虚とか謙遜とかそう言ったものではない。
俺ではない何かの力を使って倒したという漠然とした他人事にしか感じられなかった。あの時の俺は俺ではなかった
少なくとも生きて帰ると約束した俺とは全く違う。いつの間にか戦いに酔いしれる凶戦士に成り代わっていた。
まったくもって正気ではない。危殆に瀕するほど興奮を感じ自身の身を顧みず肉塊になろうとも戦い続けるのは人間のそれではない。
何とか良い案はないものかと考えていると
「あ、そういえば雄一君。新しく装備を買わない?デッドゴードでかなり良いアイテムが手に入ったしさ☆」
と失念していたことをアリアが言ってくれた。そうか…装備か…。もしかしたら
そう思い立って
「良いね。みんなの装備を買いに行こう。店長なら良い品揃えてくれてるし」
俺達は防具屋へ足へ赴く
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「ちわーす。店長!儲かってる?」
「やあやあこんにちわ雄一君。どうやらパーティーを組めたようだね。喜ばしいよ」
いつも通り冗談を交えながら店長に向けて挨拶をし入店する
そして花道さんも挨拶をする
「こんにちわ店長さん!お久しぶりです」
「おー。花道ちゃんお久しぶり。ハンターになって以来だね。…という事はそろそろ武器が怪しくなってきたところだね?」
「はい…お恥ずかしながら…」
「いやいや。そろそろ頃合いだと思っていたよ。…そういえばその子は?」
「私?」
自分を指さすアリアに向けてうんうんとうなずく店長
…そういえばそうだった。アリアは政府が作り出したハンターだ。だからハンターになれば本来顔を合わせる店長とは面識がない。どういうべきか悩んだが
ある程度事情を察したのか店長は物腰柔らかく微笑み
「いや、深くは聞かないよ。初めまして。僕はギャリックス店長の真崎 雄二です」
「あ、初めまして。私は水無月アリア。…雄一君の彼女です☆」
「なあ!??」
「はいそこ冗談でも言っていいことと悪いことがあるって分別付けようね。店長相手だからいいけど」
「ちぇー。同棲してるのに」
花道さんの間に受けているリアクションはどうやらアリアのジョークにまだ慣れていない様子。流石に俺はアリアの世迷言発言に慣れたので適当にあしらう。
そしてそんな様を見ていて微笑を浮かべて店長は聞く
「いやー両手に花とは雄一君も隅に於けないねー。…男女比大丈夫?」
「二対一の配分は流石にきついです先生…。と思っていたけど大丈夫っすね」
「それは良かった。思っていたよりコミュ障は悪化していないようだね」
そういえばそうだな。と言いたいところだが
花道さんとはボッチ仲間として出会えたからだしアリアは気遣う必要がないし
「何か今失礼な事考えてなかった?」
「いや別にィ!??」
とにかく。コミュ障問題は解決したとは言えない。偶然と幸運が廻り合って今のパーティーが出来ているのだ。そしてみんな心強い。俺にはもったいないほどの行幸だ
「そういえばさ、真崎さんと雄一君はどういう関係?兄弟とかなの?」
はたとアリアは意味わからんことを尋ねてきた。いや…兄弟はねえだろ…年の差的に
「雄一君。今失礼な事考えてなかったかい?」
「はいすみません!年の差でありえねーだろって考えてました!」
「よろしい」
心の中で考えていたことを披歴し俺は素直に謝罪した。
あれ?同じやり取りしてなかった?デジャヴ?
誠意をもって謝ったので無事許してもらえた。よかった
まあ実際大して気にしていなかったようで店長はそんなこと気にも留めず
アリアの質問に答える。
「ん~。親戚のおじさん的ポジかな~?色々あって雄一君とは長い付き合いなんだ」
「へ~。良いですね。気兼ねなく話せる相手がいるって☆」
「その辺君も同じなんじゃないかな?」
「いえいえ☆同性同士にしかわからない機微はありますよ」
まあ実際問題店長がいなかったら俺は今の今まで気落ちして引きこもっていただろうし確かにそう言えるだろう
そしてちゃんと両親に事については話さずにいておいてくれた店長に感謝!!
ちなみに俺的には店長は頼れるお兄さんポジだ。話すと恥ずかしいので言わないけど。
「そういえば、今日は何か買いに来たんだろう?」
「あ。そうだった。実は店長。
「…
う~~~~~~~~ん。初めてのオーダーだなぁ…。普通それを上げる武器や防具を欲するものだけど下げる…かぁ…」
それはそうだ。強く成る為の武器防具はあれど、
弱体化するための道具などここには置いていないし前代未聞だ。
「理由は、聞かないでおこうかな。何かヤな気がするし」
「流石店長空気が読める男。だからこそ店長にしか頼めないんです。他の人には頼めないんです!!」
手を合わせ頼み込む。それを見て驚いたのか店長は優しく笑い
「へえ…そんなに真剣に頼まれたの初めてだよ。雄一君。成長したね。
良いよ。手筈と都合は任せて。君に用意する最高のものを提供するよ」
「ありがとうございます!!!」
「まあね。伊達に有名看板背負ってないから。お客様のオーダーに応えるのがギャリックスの売りだから。でもその代わりかなりお金がかかるけどその辺大丈夫かな?」
「…フッフッフ…店長。実は」
そして俺達は互いに視線を合わせ笑い。
アイテムボックスからデッドゴードの戦利品を山のようにレジカウンターに置く。いや、比喩抜きで山ができている。たまげる店長のリアクションを見て俺達は期待通りの反応を見れて互いにハイタッチしあう
「す、凄い…。デッドゴードのドロップアイテムをこんなに…!?そんなに強いパーティーなのかい君たち!??」
「俺たち全員が力を合わせた結果です!!」
(雄一君が全部かっさらったけどねー)
(雄一さんのおかげです)
なんか俺らの心に全体不一致感が否めないが気にしない。
いやマジでみんないなかったら勝てなかったからね!
あんまり俺を持ち上げないで!??
鑑定メガネを用い店長は嬉々として言う
「これならお釣りがくるくらいだよ!すごいじゃないか雄一君!僕も鼻が高い!これならトップランカーも夢じゃないよ!!」
「店長まで…照れる」
流石にそこまで褒め倒されたら俺もちょっと嬉しい。
ランカー。それほど強くなれば…それほどに強くなれれば
―そうなれば、両親も救えるんじゃないか。
そう思った時、かぶりを振って迷いを振り払う
俺は、もう諦めたんだ。薄情だけど。俺は俺の為に生きるって決めたんだ
合間合間に俺は両親である 鹿目優香 鹿目浩二が入院している病院へ足を運び
魔蝕病で意識不明状態の横たえる二人を見下ろしていた
もってあと五年。早ければ一年以内と告げられていた。
俺はこの二人に何かしてあげられただろうか?
魔素の霧から俺を守ってくれて二人はこの状態になった
つまり俺のせいだ。普通のありふれた普通の家庭。だが俺は貰ってばかりで
だから何か返さないといけない。命を使ってもらったから命で返さなきゃいけない
だからハンターになっていち早く魔王を倒そうと最初は躍起になっていた
でも…そんな最中店長に言われた。
『それはきっと優香さんと浩二君は喜ばないよ。君の人生の為にかばったんだ
君が人生を捨てることを絶対に二人は望んでいない』
だとしても、俺はそのまま両親を見捨てろと承諾しかねた。
だが、仲間ができて。日々が楽しくて。本当にひどいけど二人を救うより
ハンターとして生きていく方が優先してしまっていて、でも迷いは完全に振り切れてなくて。
右往左往してしまっている。
未だに吹っ切れていない。
だってハンターになって魔王を倒すという初志を捨てていないから。
このままハンターにならなければ俺は…悩まずに済むはずなんだ。
悩みを捨てた時こそ。本当に見限ってしまう気がして
悩んで苦しむことが贖いになる気がして。それでも俺は…進みたいと思った。
茨を踏んで血で花を咲かせるその道を俺は進みたいと思ったから
…なーんてポエミーなことを考えているのは瞬きに過ぎない
必要なものはそろった。だから帰ろうと皆に促し踵を返すと店長が背後から声をかける
「雄一君。また来なさい」
それはまた武器がレベルに追い付かなくなった時か。いや、やはり店長には敵わない
俺の悩みを見抜いている。一人で背負い込むなと。肩の荷を下ろせと店長は言っている。それに対し俺は
「うん、また来るよ」
苦し紛れのお世辞笑いで返してしまった。ごまかしの自然な笑顔って難しいななんて思いながら三人でレストランの食事へ行った
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≪ねえ、あんたの両親って≫
「あー気づいちゃうそこ。まあ二人も何か悩んでるって察してるだろうけどシリアスムーヴは趣味じゃないからスルーでお願い」
レストランでの食事の後ベットに腰かけながらキャシーは俺にそれを訊いてきた。
さすが女神様。だが言うつもりはない。自分で決めた自罰だ。打ち明ける気はない
≪はいはい。ま、おおよそ察しはつくけど…一人で抱え込んでも意味ないわよ?≫
「そうだねー。それよかキャシー。今日の天気予報教えてちょ」
≪ま、それくらいなら私にでもできるからやってあげるわよ≫
…やはりキャシーの力ではどうにもならない。
話の節を見る限り女神としての力が大幅に減っていることが察せられる。
『今の私』と言わない辺りどうやら魔王の魔力は女神でさえ打ち消せないと考える。
だとしても俺はキャシーに魔蝕病を直してほしいなんて考えない
これは俺の問題だから俺が解決しなきゃいけないことなんだから…
そしてはたと思い出す
「そういやキャシー」
≪何?≫
「料理いつ教えれば良いかな?日にち決めてないし」
≪…全く、ほんとバカなんだから≫
「ま、自覚はあるよ」
そんな他愛のない話で終わらせる。
心配いらない。きっと大丈夫だと俺は自分に言い聞かせながら
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