第28話 バトルバトルバトル

倒れたアリアを抱きとめる。呼吸はある。HPも残っている。だがあまり多くはない。死んでいないという安堵で呼吸を一拍置く。もし死んでいたら悔やんでも悔やみきれない。


「佳夕さん。アリアを頼みます」

「は、はい!」


花道さんにアリアを預け彼女を花道さんはおぶって俺は現状を冷静に考える

数多くの技と天魔の威圧によって消耗しバフを打ち消された斧撃は剣によるガードでも往なし切れなかった。あの時は平静を装い少ない体力で俺に絞り出すように助言してくれたのだ。それをアリアが倒れてから気づく自分の察しの悪さに苛立ちを覚える。煮え切る怒りを静めながらも理解できた。そしてアリアが消耗したタイミングで群れのデッドゴードが現れた事でもうひとつ理解できた


「こいつら…アリアを倒した後俺達を殺すつもりか…」

「え!?」


デッドゴードについて知っているのはアリアだけ。

つまり政府関係者の報復か?それとも女神を狙う連中か?だがあまり考えすぎるな。下手な考え休むに似たり。深読みで余計な行動が仇になる。

出来すぎてはいるが多分…こいつらの天性の勘だろう。

アリアが脅威とみなし先に叩いたのだ。

もし何者かがモンスターを操り俺達を消すことが目的ならいつでも不意を突いて殺せたはず。

なので単純にこいつらは一体を餌に俺達を狩りに来た…ところだろう。

仲間を捨て石にするという精神構造が全く理解できないがモンスターにとってはそれが普通なのだろうか。ともあれ絶体絶命な状況には変わりない

唯一デッドゴードの情報を知っているアリアがリタイアした。そして花道さんを守りながらの戦いは困難だ。ゆえにここは俺が単独で戦うしかあるまい。その為には


「佳夕さん!俺が突破口を開く。その間アリアを連れて逃げて!!」

「え!?雄一さんは!??」

「俺は大丈夫!むしろ申し訳ないけど佳夕さんがいると却って戦えない

そしてアリアをダンジョン運営に預けて救護を呼んでほしい!これが今できる最善手だと思う。アリアの保護と救援頼んだよ!!」

憚りなく現在できる一番の策を花道さんに伝える。それを聞いて戸惑いはしたが

「・・・はい!絶対生きていてくださいね!!」

「合点承知!最短距離は南北一直線。そこのデッドゴードを倒すから空いた場所から一気に突っ切って!!」


そう言って俺は内にある力を引き出す。魔素洞調律シンクロニシティを引き上げて戦闘能力を上げる。大剣愛染と魔石がそれに呼応し追随で強化される。

斬風バニッシュは或程度使いこなせた。そして今の俺は通常よりもステータスが引きあがっている。―これで魔人化トランツァーに近づいたが頓着している暇はない。そしてこれにより俺は開放する。俺の必殺技『斬鉄嵐ブレイクストーム』をいかんなく使用できる。それだけではない。リスクの低いアリアに教わった酷死剣タナトスも併用し今できる十全を今発揮する

黒い霧により防御力の低いハンターは即死付与をされてしまう。花道さんがその対象にある。

だがそんなのは関係ない。その霧ごと叩き伏せればいいだけのこと


斬鉄嵐ブレイクストーム!!」


風の魔石の特性を生かし鉄をも切り裂く烈風がドリルのように横回転で前方にいるデッドゴードに向け放つ。迎撃準備はしているが遅い。初動も先制もすでに俺が所有権を持っている。戦いの主導権を握った俺からすれば全力でポテンシャル十分の必殺技でデッドゴードをなぎ倒す。だが即死には至っていない。しかし確実に動きが止まった。その隙に花道さんは全力疾走で切り開いた道へ駆け出した。

だがそれだけ、大勢のデッドゴードの何匹かが花道さんを追いかけて殺せば終わりだ

だからこそここで俺がここにいるデッドゴードすべての注意を引く

斬鉄嵐ブレイクストームを再度放つ。次に放つそれは横ではなく文字通り大きな台風。嵐として俺を中心に周囲20メートルに斬撃の風がデッドゴードの肌に傷を負わせた。花道さんを追いかけようとした奴も巻き込んで脅威は俺だと主張される

―それにより大勢のデッドゴードの意識が俺に向いた。つまり人海戦術で俺が屠られるのは数秒もかからない。絶死剣タナトスも使えるが残念ながらあれはサシでなければ効果を発揮できない。そして今は一対一に持ち込める状況ではない

少なくても花道さんやアリアが助かれば…なんて考えない。俺は全員生きて帰るんだ。


≪前向きになったじゃない≫


すると不意にキャシーが話しかける


「まあね。やっぱ俺は生きたい。生きてやりたいことやるんだ。こんなとこで死んでたまるかよ!」

≪でもどうする?この状況じゃ負けるわよ?≫


その場合は致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―と起死退転を用いてダメージを受けずに一体ずつ屠るのみ。それでだめならお手上げだが…


「キャシー。何か女神プゥァワァーで何とかできない?」

≪出来たらとっくにやってるわよ。今できるのは救援要請するくらいね≫


そう、フェアリーがいればわざわざ花道さんを逃がして応援を呼ぶ必要はない。

のだが連絡している状態は無防備でありその隙を狙われるために実行をためらっていた。

そしてその状態の場合アリアの治療ができない。

最小限の被害で憚りなく戦う状況というならば、守るという行動を捨てれば

俺一人でこいつらと戦うという状況が最適解だと思う。

だが、問題が一つある。それは俺が持ちこたえられるかともうひとつ

確かに運営には専属のハンターがいる。

だが今の状況を伝えてデッドゴード相手に命を懸けてまで助けてくれる奇特なハンターがいるだろうか?

デッドゴードは強力なモンスターであり高レベルのハンターでも相手をしたくない手合いだ。専属という一か所にとどまるレベルは大体50とこいつら相手ならば間違いなく痛手を負う。

そしてそれに対し俺達ではそれ相応の見返りがない。

運営から追加報酬は貰えるだろうがそれほどのリターンがある状況とは思えない。

ハンターに被害が出れば運営にもるいが及ぶ

だがハンターの死は自己責任でもある為大した咎はない。

つまりメリットがない。ここで俺が死んでも特に問題はないのだ

俺みたいな弱小ハンターならなおさら。

若い芽が摘まれるより成熟したハンターを重要視する実力主義世界。

それほどハンター業とは厳しいのだ。

つまりどちらにせよ俺は死ぬ運命から免れない

だが諦めるつもりは毛頭ない

魔素洞調律シンクロニシティ上昇。呼吸が荒くなる。

死に瀕する状況に、かつてないほど追い詰められているこの状況に、興奮を隠しきれない

脳内麻薬アドレナリン揮発ニトロのように爆発しそうだ。

─今ここだけ、俺は狂い咲く獣となる。

囲う形で点在している獣の群れは慎重だ。不意を突けたと雄一は言ったが

そんな隙は寸毫たりともなかった。

もし仮に不意を突いて攻撃すれば迎撃されていたという直感が群れにはあった。

何か触れてはいけない逆鱗に触れるような恐怖があったのだ。

ゆえに仕掛けたのは示威行為デモンストレーション

圧倒的彼我の差を見せつけて心を折る戦法。だがそれも通用しない。むしろそれに中てられているような剣呑がある。攻撃にためらいが生じながらも自身の強者たるプライドを以てデッドゴードの群れは一斉に攻撃を仕掛けた

左右上下に一気に戦斧が四撃。

同時に展開される四方の攻撃を前に斬風バニッシュで壁を作り攻撃を揺らがせ受けきれない攻撃を前に時計回りに往なし軌道をそらし回避。

コンビネーションが素晴らしいと心の中で称賛する。

本来なら互いが邪魔しあい衝突する状況を事前に合わせていたように寸分の狂いなく完璧に攻撃として放ち相打ちすることなく四体の攻撃がさらに連撃として16撃さらに放たれる。

流石にそれはさばききれないので全神経を集中させ眼球がひび割れるほど見開き酷使。血走った眼で斬鉄嵐ブレイクストームを放ち乱気流のように放つことで風の刃はうねりを上げ蛇腹のように16の攻撃を這いまわり一瞬だけ軌道をそらし瞬刻大剣にてはじき返す


「は…ぁッッ…っっ!!!!!!」


筋肉が爆発する。あまりの肉体行使に肉体が破裂する。神経を伝う電気信号が出鱈目な指令を出しているのだ。驚きも実行しそのフィードバックが今俺の体に迸る

全身が爆弾になった気分だ。少しでも誤れば爆発し塵になりそうな危険な状態

なのに喜びに満ちているのはなぜだろう


《左!》

「はっ!!」


キャシーの声で反応し弓なりに体を曲げて回避する。少しでもクールダウンする為に攻撃は避けなければならない。受け止めればたちまちドカンッ!だからだ

そしてキャシーがいるという事実が鎮静剤になった。凶戦士のように立ち回れば勝てるかもしれないが俺は生きてこの包囲網を突破したい


「ありがとうキャシー。助かった」


二重の意味で感謝を伝える


《それがフェアリーの務めよ。私も頼りなさい。それより…良かったの?》

「え?」

《佳夕ちゃんよ。あいつら逃走を見越して彼女を追いかけたって線、考えなかったわけじゃないでしょ?》

「・・・・・・・・」


無論考えていた。ここまでの周到性。

蟲一匹すら逃がさない戦略を前に逃げる相手の想定を知能が高い奴らが考えていないわけがない。

だが


「信じてみることにした」

《は?正気!?佳夕ちゃんがそんなに戦えないこと知ってるでしょ!??》

「いや、花道さんもだけど

《はい…?》

「あいつらの戦いへの誇りを、自信を、プライドを、信じてみることにしたんだ。

アイツらも突破は想定しているだろうけど『それなら自身の軟弱さを悔いるだろうってね』逃げる相手を前に奴らは追いかけない。なぜかそう断言できるんだ」


そんな俺のセリフを聞いて全く理解できないというふうに頭を振るキャシー

だろうな。敵を信じるなんて今俺を殺しに来ている相手を信じるなんて馬鹿げているのは分かっている。

だがこいつらの戦いへの熱量は今もなおひしひしと伝わっている

さっきのコンビネーションもそうだ。一糸乱れぬ交戦は目を見張るものがあった

戦いへの、勝利への矜持を俺はデッドゴードたちから感じ取れた

不意打ちをしなかった理由は分からないが俺としてはそれが信じられるきっかけになったのだ。

いや、この際理屈はどうでもいい。

ただ単純に俺とこいつらは戦いに生きているとシンパシーを感じざるを得ない

戦いに狂っているという共感は腹立たしいが確かに認めなければならない

回避に回避を重ねダメージを極力減らす。避けきれず受けた傷は数知れないが些事に過ぎない。戦いが楽しい、という欲求を脳裏に伏せる。それは奴らへの侮辱ともとれるが仕方ない。だって俺は生き残りたいから。勝つ為ではない。俺は生きて帰る為に…!

今までの攻撃ではどうやってもこの包囲を突破できない。突破さえすれば追いかけてこない。一点集中そこに穴をあけさえすれば俺の勝ちだ。ならば


「一体倒してその隙に逃げさせてもらうぜ!!」


斬鉄嵐ブレイクストームは数と奴らの強さが比例して通用しきれない

ならば酷死剣タナトスを用いる。だがその隙に別のやつの攻撃を受ける

その場合俺自身が無防備で攻撃を喰らえば死ぬ。例えHPが1残る起死退転があってもそれはその場しのぎにすらならない。だったら

ていうか言わせてくれ。アリアの大立ち回りに結構俺は嫉妬していた。

俺にも格好いい見せ場がやってみたかった。

男として良い見せ場が女に奪われるのは業腹だろ?

その為にさ悪いけどお前らには実験台になってもらう…そう考える自分に笑いキャシーにも指摘された


《きもい笑いしてるわよアンタ。変な事考えてるでしょ?》

「ああ、ほんとつくづく自分が女々しいやつってわかったよ」


旋風に刀身の幻影。嵐の中心から展開される風は無数の刃であり幻影の剣

これは、剣を見せることにより意義を成す即興の剣技。その名は。それを


「…死に狂う斬叫―デッドストライク―」


を俺はそう呼んだ

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