第26話 剣山樹海《ブレイドオールキン》
一息で振るわれる五撃の攻撃に対しアリアはバフなしであるが回避に徹することで
戦闘を続行できている。もし攻撃に転じる。というなら多少のダメージは覚悟しなければならない
いくらレベル差があれどスペック差というものは存在する
アリアのスペックは実は乏しい。
だがその代わり得たものがレベル以外にあらゆる武器を使用できる『
アリアの平均は1000であったのは単にバフによる強化と訓練のたまものだ
だがその強みであるバフを殺されればステータスは500を下回る。
そしてデッドゴードのスペックは300を超える。だからこそ上回ってはいるが僅差に近い数字であり双方に出力差に大差はない
それゆえにこの戦いではアリアは圧倒的に不利だ。『
それだけでなくステータスに反映しない体格差と重量を鑑みれば両者が殴り合った結果アリアが敗北するというのは火を見るより明らかだろう
将来性という面ではすでにアリアは絶頂期を迎えており雄一と佳夕に比べて見込みは絶対にない。
・・・だが彼女はデッドゴードを単騎で倒したという経歴があるのには理由がある
それはまかり間違っても政府のバックアップがあったからではない。もしあったならば彼女はすでに廃棄処分行きだ。不良品というレッテルを張られ捨てられる
それは何の特別なことはない。諦めない粘り強さ。それこそアリアが暗殺者として認められた要因だ。真っ向勝負は向いていない。だからからめ手による暗殺しかない。という理由だけではない
アリアには他の実験体にはない忍耐力がある。それこそが彼女が暗殺者に選ばれた証左だ。拷問に近い、死よりも
他の被検体はその激痛にとても耐えられず死亡ないし廃人化。つまりスペックはともかくレベルという点ではアリア以上の強化人間はおらず耐えられたのも心が強いだけではない。
それは泥をすするほどの『生きたい。必要とされたい』という願望の反映によるもの、生きていたいしその為に政府にすがってでしか生きられない自分のプライドを捨て生きる事のみに専心した。それ以外に道はないと知っていたために。
死を選ぶ方がマシであるレベル増幅に耐えモルモット同然に扱われていても彼女は政府を裏切ることはなかった。
裏切る理由がないのだから裏切りようがない。
どのような扱いであれ生かしてもらった身だ。
それに泥を掛けるほどプライドは捨てていない
だが鹿目雄一との出会いを契機に変わった。それはなぜか
それは鹿目雄一が化け物じみた強さを持っていたからでも仲間を守る行為に心を打たれた訳でもない。
ただ…一緒にいて楽しかった。自分と一緒にどこまでも行けそうだとふと思っただけ
たったそれだけの動機で彼女は今まで生かしてくれた政府を裏切り切り捨てたのだ
だが経歴を鑑みればいつ政府から抜け出してもおかしくはないので裏切りを咎めるのはお門違いだ。そう、果てのない
それでも自分を活かしてくれた恩があったにもかかわらずあっさりと裏切った。
なぜならそれは彼女にはないと思っていたもの。一緒に旅できる仲間という選択肢が自分にあったという驚き。彼女にとって生きていたい、必要とされたい。それを上回る驚天動地だった。多分それは彼女自身気づいていない答え『なぜ生きていたい?』『なぜ必要とされたい?』という疑問の氷解だからこそだ。
それに気づくのはいつごろか、それはまだわからない
それよりもまず眼前の問題に対処すべきだからだ
徹底的に回避に徹し雄一や佳夕への意識を削ぎさらにデッドゴードに攻撃を総てさばききらねばならぬ状況。無理難題を押し付けられたものの水無月アリアの胸中にはあの言葉が鼓舞してくれている
『信じている』
始まりの邂逅は最悪だった。
殺しあいの果てアリアは敗北に喫し当の雄一も根治したとはいえ大けがを負ったのだ。
恨まれこそすれ信頼されるとは思わなかっただろう。出会ってひと月も経っていないというのに心を開いているというのは優しいのか愚かなのか
どちらにせよ水無月アリアはそんな彼に惹かれている。優しくも愚かゆえに両方好きになったのだ。
自分には何もないと思っていた。ただ道具のように扱われるのが生きる理由だと思っていた。だが違った。人間らしい憧れが彼女にもあったのだ。それ気づき気づかせてくれた彼に恩返しをしたい。彼の信頼にこたえたい
それだけで…すでに救われているといつか彼女は自覚するだろう
回顧の間連撃を躱しながら攻撃の隙を作らせて雄一は攻撃を叩き込む
瞬間雄一に意識が向いた時にアリアが牽制をかけてまた意識をこちらに向けさせる
その繰り返し。ローテーションは戦いの中で組み上げられている
そしてなにより佳夕の魔法が絶大だ。雄一の防御で彼女は傷一つ負っておらず
あらゆる魔法や能力を打ち消す咆哮を放ついとまを与えることなく詠唱抜きで放っている
本来なら詠唱がなければ威力は半減するのだが元の魔法の威力が高いためにデメリットらしい弱点は見当たらない。魔法無効能力がなければ早急にこの戦いは雄一たちの勝利に帰結していたであろう
だがそううまくはいかない
そう、バフデバフを封じられた程度で苦戦を強いられるデッドゴードの真価はそこではない。それだけならばアリアが苦戦することはない
デッドゴードの恐るべき能力。それは…。いち早くその攻撃の予備動作を看破しアリアは叫ぶ
「雄一君!!『死への誘い《キルゼムオール》』が来るよ!!」
「え!?なにそれ!!!!」
デッドゴードのことを全く知らない雄一は当惑し何をすればいいか分からない
その間にデッドゴードの周囲に黒い靄が噴き出て雄一たちの周囲に立ち込める
「これは…なんだ?」
「これは『死への誘い《キルゼムオール》』防御力の低い相手を即死させるデバフを与えるスキル。つまり私や佳夕ちゃんがあいつの攻撃を喰らえば…」
防御力に一日の長がある雄一ならともかく防御耐性があまりない佳夕やアリアには天敵と呼べるスキルだ。つまりファイター必須の相手でありされど周りがいなくなれば嬲り殺されるという厄介なスキルと言えよう。
そして今一番危険な立場にいるのが他でもないアリアだ。バフが使えれば持ちこたえられるだろうが奴のスキルで無効化されて裸同然だ。
だからと言ってアリアを撤退させれば意識は雄一たちの方へ向かい雄一だけで佳夕を守り切れるという保証はない
つまりこれは…詰みだ。アリアのサポートで成り立っている戦闘が盤面ごとひっくり返された。状況は絶望的。逃走を図ろうにも背中を見せれば背後からばっさりと攻撃を受け雄一がしんがりを務めていてもバフがない雄一では数秒も持ちこたえられない
だからこそここで確実に仕留められる方法はひとつしかない
『致死を癒す
『起死退転』を含めればHPは確実に1残り一撃でデッドゴードを仕留められるだろう
だがもし攻撃を与える前に攻撃を受けたら…?間違いなく死ぬ
それが怖い。その決断に逡巡を覚えてしまう。雄一は死にたくない
確実に生き残る為なら使うことを惜しまないが死ぬリスクがあるなら別だ
あの水底を二度と体験したくない
―使用すれば
見境なくデッドゴードごと仲間を手に掛ける暴走が死よりも怖かった
だが迷っている時間はない。生き残るためにはそれしかないと踏み切ろうとした瞬間アリアが言う
「何やってんの。君が言ったんでしょ?私を信じてるって。それにこいつとは幾度も戦って勝っているんだよ?だから、それは使わないでね☆」
心を見透かしたように、いや雄一の考えは見透かされていた。
信じているとは言った。だがそれはチームプレイによる信頼でアリア一人に戦わせる意味ではない
だがそう伝える前にチッチッチと人差し指を揺らして余裕の笑みでアリアは言う
「伊達に戦ってきたわけじゃないよ☆対デッドゴード対策をしてないわけじゃないよ☆まあ見ててよ。そして離れてて。これは一対一を想定した私の剣術だからね」
そう言っているアリアの笑みはまったく虚勢を帯びていない。
本当にデッドゴード対策に講じ今までさんざん苦汁を舐めさせられた意趣返しのようにアリアの指示通り俺と花道さんは後退し回避に徹していたアリアはすでにデッドゴードの真正面に立ちふさがっていた
―アリアには得意なバフデバフが封じられ特化した剣術も身に着けてはいない
このままでは負けてしまう。そのはずなのに雄一は不思議とアリアが勝算なしで戦っているようには思えなかった
この技は一対一を想定して作られた剣技。故に周囲に仲間がいるとかえって邪魔にしかならない
今から行う剣術は暗殺者としてのスキルを用いた剣術。秀でた剣技ではなく
―手数を増やし相手の強みを殺すアリアが編み出した剣術
それを今から展開するのだ
アリアの外套が翻る。翻ったマントの中には無数の剣。そして振りかざした外套から地面を切り裂きながら剣がアリアを囲う形で展開されている
無数の剣が地面に突き刺さっている。曰く剣は脆く刀身が刃こぼれするために事前に複数の剣を置いておくことで使えなくなった剣を捨て新たな剣を引き抜き戦闘を続行させるという戦術がある。だが先んじていったようにアリアの剣技は器用貧乏。
武器は使えても使いこなすという事は出来ない。つまり決定打にはならない
―ならば、剣に応じて剣術を変えればいい話。様々な剣の特性を生かし敵を翻弄するアリアのスタイル
剣の塚は構築された。後はそれを奴にぶつけるのみ
そしてその剣技の名前をアリアは言う
「さあ、君相手に考えた剣術。見せてあげよう。
名付けて『
人の英知を集めたこの剣の閃き。耐えられるかな?」
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