第24話 ワキアイアイ
「はっ!」
黒い鉄塊が×の字にモンスターを切り裂き戦闘終了。ドロップ品は換金。
食事を済ませた後残り少ない時間、挽回の為に俺は気合を入れていた
といっても無理はしない。ちょっとずつ前進するようにゆっくりと力をつけていくつもりだ
両親の事は諦めたわけではないが俺の事情に仲間を巻き込むわけにはいかない
そもそも魔王を倒せば魔蝕病が治る保証などどこにもない。
勝手な憶測と希望的観測に過ぎず俺の動く動機は薄情にも両親のことではなくハンター生活を楽しみ未知の異世界へ足を踏み入れることのみだ。
それはひとえに
―これが上昇すれば強く成れる。だが同時に
そんな意気込みで次々とモンスターを薙ぎ払い。良いころ合いを見て休憩に入る。
無理はしないと約束したしそう念押しされれば無理をしないように努めるだけだ。
俺だって死にたくないし楽しんでいたい。だから強く成るたびに戦う回数が増えることに歓びが…
うわ…これはないな…。前言を翻す。
ハンター生活はあくまで戦いではなくアイテムや宝物ゲットの喜びと仲間と苦楽を共にする。それだけに限定したい。そしてそれだけじゃない。花道さんとアリアの手料理が食べれる。これも思わぬ楽しみのひとつになっている
最初はコミュ障でソロハンターになると戦々恐々していたが今や頼もしすぎる仲間がいる。そしてキャシーという女神の関係者も
これ以上ない僥倖。幸甚の至りだ。
といっても仲間に頼り切りというのも忍びない。
俺も戦力として役立てるように頑張らなければ。あと花道さんにふるまう料理を考えておかなければ
ということで聞いてみる
「佳夕さん。そういえば好きな食べ物ってなに?」
「え?」
「約束したじゃん。手料理ふるまうって。でも何を作ったらいいかわかんないしできればリクエストしてほしいな」
とアゴに人差し指を添えて花道さんは少し考えた後
「ん~…好き嫌いは特にないのですが…しいて言うなら暖かいもの。シチューやグラタンが好きですね」
いいね。俺も好きだし本格的なものではないけど作れないことはない
それならば弁当としても持ってこれる。シチューは魔法瓶に入れればいいと思う
「わかったよ。作ってみる」
「ありがとうございます!」
感謝を言われることではない。現にそれ以上の料理を食べさせてもらったんだ
本来ならそれ以上のお礼をしなきゃいけないが俺の力量不足だ
そこは申し訳ないが出来ないものは出来ないので妥協してほしい
そしてそこにアリアが話に割って入る
「えー、私には好きなもの作ってくれなかったジャン…」
「いや、アリア…まず作ってほしい料理言ってくれないジャン。君…」
「あ、そっか☆なら次から注文しよー☆無理難題突きつけてやろっかなぁ~?」
そういっていじわるに笑う。こ…こいつ。自分の方が料理の腕が上だからって…
「無理なものは作れねえよ。そん時は激マズにしてやる」
「あー!食べ物を粗末にしちゃいけないんだー!」
「安心しろ。それは責任もって俺が完食するから」
流石に食べ物を粗末にするほど金に余裕はないし粗末にするのは嫌いだ
激マズ料理はつくらないでやろう…!!
などとそんな他愛もない事を談笑している。
そんな中沈黙をしているのが一人。キャシーだ。
最近になって自分から話すことはなくなり俺が話題を切り出さない限り話すことはない
何か悩みがあるのか。だがそこをズケズケと土足で踏みあがるほどデリカシーのない俺ではない。・・・悩んでいる事。もしかしたら女神のことかもしれない。
仲間であるのに打ち明けられないもどかしさ。それほどに深刻な秘密なのだろう
チャットモードに切り替えキャシーと話す。アリアには丸聞こえでがそこはいい。よほどの事ならば吹聴はしないはずだ
『キャシー…どうした?最近になってしゃべらなくなったけど…』
≪・・・・・・・・・・・・・・・・≫
そう言ってもキャシーは黙したままで上の空のように自分の世界に入っている
俺が話しかけても返答がないのは珍しい。・・・そんなに女神の事を思い詰めているのか。
俺達に信用がないわけではないだろう。だが話せば俺達に危険が付随する。おそらくはその線の話だ。でもだからと言ってそれでキャシー自身を苦しめる理由にはならない。
例えそれが危ない橋だろうとも。キャシーには打ち明けて気を楽にしてもらいたい。
責任なんて感じなくていいのだから
そう色々考えていると独り言のように。いや、キャシーは一人ごちる。
かすかな声、聞き取りずらいが確かに聞こえた
≪…料理…か。私やったことないな…≫
「・・・は?」
何言ってんだコイツ…。いや、なんか俺が疲れて聞き間違えただけかもしれない
そう思いアリアに視線を向けると
うんうんと首肯している。つまり俺の聴き間違いじゃないよー☆という反応だ
つまり…つまりだ…今まで深刻そうな面持ちで黙っていたのはただ…料理について悩んでいただけという事だ…!!!
俺達三人が料理出来て蚊帳の外と思えば確かに説明はつく…だが別に悩む事じゃなくない…!??
『キャシーさん。もしもーし』
≪…え?もしかして聞いてたの!??アンタねぇッ!!≫
そう言ってデリカシーなさげな俺に対しプンプンと怒るがちょっと怒りたいのは俺の方だ。
『盗み聞きするつもりはないんだけどさ…キャシー…何について悩んでいたか正直にいなさい』
≪な…何って……………り…よ≫
ごにょごにょとごまかしても何について悩んでいるかは明白だ
『別に気にする必要なくない…料理なんて個人の自由なんだしさ』
≪ハッキリ言わないでよ!!二人が手料理作ってきて私は何もしないって駄目じゃない!??≫
『え!??そっち!??』
≪そっちってどっちよ!!!!≫
思わず驚いてそんなことを口走ってしまう。
キャシー以外料理できるから輪に入れない疎外感ではなく。
俺に料理が作れないことを悩んでいたようだ。
・・・正直人生で一番の驚きで予想外の事実だ。
キャシーが料理を作ってあげたいという事が驚き以外の何物でもない。
普段つんつんして素気無い態度をしているキャシーがそんなことを考え悩んでいたことに感動を覚える。
といっても…
『・・・キャシー…気持ちは嬉しいけどフェアリーは料理作れないんじゃ…』
実体が存在しないAIなのでたとえ女神関係の存在だろうともそんなことは…
≪何言ってんのよ。女神本体なら出来るわよ。料理したことはないからそこはわかんないんだけどね≫
『えええ!!??女神さまに料理作らせるの!??流石に罰当たりじゃない!??』
≪はぁ!!アンタこそ何言ってんのよ!!私が料理を作るって言ってんの!!!≫
その瞬間。俺とアリアは凍り付いた。
≪・・・?どうしたのよ?≫
と自身の発言に全く気付いていない様子。キャシー…アナタとんでもない爆弾発言をしましたわよ。
『キャシー…今何て言ったの?いえ、おっしゃりましたの?』
≪何似合わない口調で喋ってんのよ。私が料理をしたら悪い??≫
さすがにここは花道さんにも聞いてもらおうと思いチャット機能を切って話す
「いや…そうではなくて…キャシー…女神本体がどうとかって…」
≪???。だから女神である私がアンタに料理作ってあげたいって言ってるの!悪い!!≫
チャット機能を切っても俺のフェアリーであるから花道さんには話の意図が伝わらない
現にはたから聞いている花道さんは首をかしげている
・・・なのでキャシーがなにを言っているのかを俺は口にする
「それってつまり…キャシー。君自身が女神ってことなの?」
「え!??キャシーさんが女神様!?????」
「うん…私も絶句しちゃったよ」
同感。俺も聞いた瞬間アリアと一緒に固まったし。だがまるでこともなげにキャシーはその発言に対して
≪アレ?言ってなかったっけ?私が女神キャルシュリーって事?≫
「キャシーってそこが由来なの!??じゃない!!聞かれたら不味いんじゃないそれ!??」
アリアが色々用意して会話を聞き取れないよう遮断する術を持っていてももう遅い
だがキャシーは別に気にした様子もなく
≪大丈夫よ。そのワードについて聞き取れないよう細工してあるから。別の会話に差し替えられるようにしてるから別に話しても…≫
「いや!!別に隠してたことは良いんだよ!!何でそんなさらっと言えちゃうのそんなやばい情報を!??」
運営への細工とか徹底しているのはわかるけどそれをさも当たり前のように話すキャシーも豪胆すぎる。
まるであたかもすでに話したかのような口ぶりで話しているからなおさらだ。
しかも裏切ったとはいえ政府関係者であるアリアにも聞こえるように。
いや知られてもどうでもいいように話したことが恐ろしすぎる
≪別にアンタたちなら教えてもいいわよ。というか私を狙う連中なら大体知ってるはずだし。あるフェアリーが女神だって事。ただ誰についているのか。どこにいるのかがわからないだけでね。逆探知でも知られないわよ。女神パワーで≫
「嘘…私信用なさすぎ!??」
そう、キャシー奪取を依頼されていたアリア自身がそのことをまったく知らされていないのでショックを受けるのは分かる。そして女神パワーごり押しすぎだろ…
「うん、どんまいアリア。そしてキャシー…そのことについて別に悩んでなかったんだな…」
≪何?私が女神の事隠し続けることを悩んでたって言いたいの?・・・そっか、そんな心配してくれてたんだ…ありがと…≫
驚きの連続だがそこがわかっただけで良しとする。一人悩んでいて心配していたが杞憂でよかった。そして自身が女神であると打ち明けるほどに俺達は信頼を勝ち取っていたという事。まあそれはそれとして…
「と言っても女神自身が俺の家に来たら不味いでしょ…」
≪そこは大丈夫。人間と遜色ないよう擬態するから。女神パワーで≫
「女神パワー便利過ぎない!??」
≪冗談冗談。女神と人は姿が変わらないし力の測定も今の人類にはできっこないわ。
逆に女神がのこのこと現世に出てくるってこと自体想像しないでしょ≫
まあ確かにそうだなと納得する。女神がフツーに現実世界を飄々の歩いているなんて捜索していること自体がばからしく思える。
朗らかにそう笑ってキャシーはジョークよりも・・・そうか、そんな顔をするんだな君はと俺は思った。いつも気難しそうに怒っているような表情とはまるで違う。最初に合った社交辞令のような態度でもない。これが素のキャシーなのかもしれない。なんて思ってしまう
≪それより私に料理を教えなさい鹿目雄一!アンタの舌をうならせてあげるから!!≫
「いや、料理ってそんな勝負叩きつけるようなもんじゃないから…」
と言ってもその意気込みは嬉しいし期待に添うように俺も努力しよう
だが…ふと思う。料理に関してなら俺よりも…
「それなら佳夕さんとアリアに教わったら?俺より上手いんだしさ」
≪はぁ?アンタバカなの??あんなハイレベル見せつけられたら自信喪失するわよ!そこ分かりなさいよ私のマスターなら!!≫
「今更だけど女神さまにマスター呼びされるの不敬すぎない!??」
そして雄一が預かり知らないところで花道と水無月はほほえましそうに保護者のように彼らを温かい目で見守り小声で二人に聞こえないように話している
花道にはキャシーの声が聞こえないのでアリアが耳打ちで説明してこんな会話をしていた
「鈍いね~雄一君は☆ホントは料理を雄一君に教えてもらいたいだけなのに☆」
「ですね~。仲睦まじくて羨ましいです。私も二人っきりで教えてもらいたいですが流石にあの二人の間に入ることは出来ませんね」
「だねー☆なんかあの二人。私たちとは違うよねー」
「ねー」
本来なら嫉妬の対象だがあの二人は例外だというようにほのぼのとガールズトーク
それは言葉にするなら絆だろう。恋愛よりも尊く愛情よりも深く全幅の信頼のみで築かれた関係性。羨ましくも眩いそれは自分たちにはないだろう。そう思いながら彼女たちは二人を眺めていた
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