カンワ3 タイクツ
暇である。
もう一度いう。暇である
あれ以降レベルは無事花道さんと俺は37レベルまで上がった
…あまり気にしていなかったがレベル35の壁を超えたのである
つまり俺達は才能が多少あるということが証明された
あれ以降魔石は出なかったがドロップアイテムとして宝が出てきた
ギヴィーという首飾りで魔法使い専用装備。魔力値、つまりMPを上昇させるアイテムだ。
これでハンター生活は安泰。そう俺がとわかった瞬間から謎の脱力感に見舞われた。
燃え尽き症候群というのは早いのだがなんというか…スリルが足りないというか…。着実に前に進めているというこれ以上ない幸運を持て余しているという非常識さ。
両親の魔蝕病を直せる光明がもっと明るくなったというのに…やはり俺は酷薄だ。
両親の病気よりも俺はハンターとしての生活を楽しむことを優先している。
それに対し嫌悪感があるのは確かだが退屈を持て余しているという感覚があるのも事実。俺はヒーローではなくただのダメ人間だという事が理解できる
そしてあろうことか…
「ご飯できたよー☆」
「うん。今行く」
償い(そんなに悪い事してない)としてアリアに家事をさせている始末。これを人間の屑と言わずなんというのか。いや違うんですよ。俺が命令したとかじゃなくてアリアが自主的に…ね。だとしても屑である。知ってる
男として年の近い女の子の手料理を食べて順風満帆な生活を送っている
これ以上何を求めろというのか。それでも俺は満たされていない。ゲスだ
アリアが作った味噌汁をすすりながら少し上の空になる。悩む事なんてない。これ以上望むことはない。なのに刺激を求めている自分を血祭りにあげてどこかに吊るしあげたい気分だ
「どしたのー☆」
アリアが尋ねる。そりゃそうだ。あからさまに態度に出ているのだ。察しが悪くとも何かあるというのも簡単にわかるだろう
といってもこれを口に出すべきか悩む。『ハンター業も順調で最高の生活。なのに
だが隠し事しても仕方ない
「実は…なんか足りない気がしてさ…いや、スッゲー裕福なのはわかるよ。でもなんかスリルが足りないっていうか…」
素直にそう口にする。贅沢この上ないセリフだ。人生のどこかで行ってみたいセリフであるが口にすれば最低だ
それに対し反発せずアリアは
「んー☆まあイーヴィルヴァーンや私との血なまぐさーい戦いよりは刺激が薄いかもね☆どう☆また死合おうか?」
「いや遠慮しとく」
流石に俺も死にたいわけではないので却下。次は勝てないと確信できるし。でも不思議と的外れじゃない気もする
「思ってたハンター生活と違う?不便だけどスリルがある冒険の旅を期待してたとか☆」
「うん…多分それだと思う」
言いたくはないが俺達のメンバーはゆとりがありすぎる。
アリアを筆頭に花道さんの優秀さもあって何の苦も無く進めている。
困窮極まって魔石ねだっていたころはどこ行ったと俺自身にも問いかけたいがなんというか退屈なのだ。
でもなんか違うような気もする。少しずれているというか…なんというか…よくわからないのだが…うーん。なんて言ったらいいか
するとアリアは神妙な面持ちになる。やはり気に障ったか。まあ流石にこんな体たらくで自堕落なことを言えば説教の一つやふたつ…
「…
ドクンッと心臓が高鳴った。まるで核心に刃を突き立てられたように俺にも知りえないなにかをアリアが見破った。満たされない何か。渇き…そうか…魔人化の影響か…
「マジか…あんま気にしてなかったから気づかなかった…」
「いや、もしかしたら気づきたくなかったと思うよ。魔人の事は良く知られてない。前例がないからね。多分だけど
・・・こういうところが好きだ。アリアは嫌われることと知っていながら人の知りたくない部分を率直に言う
心の中の憑きものが落ちた気がする。胸のつかえがストンと取れた気がした。
アリアの言っていた血なまぐさい戦いをしたいというのは間違いない。合っていた
多分だが今俺が求めているのはまだ見ぬ強敵と戦いたい殺し合いたいという感情。イーヴィルヴァーンやアリアとの戦いで
…
最初はビビっていたが今はそうでもない。むしろ普通のままで魔王を倒せるはずはないのだ。正直言うと別に人間であることにこだわりはない。
「まー、今は悩め少年よ。とりあえず今はお風呂に入ってゆっくり寝るといいよ☆」
「それもそうだね。色々ありがとうアリア」
「いーのいーの。背中流してあげるから☆」
「・・・はい?」
「だから一緒にお風呂入ろってこと☆そうすれば色々気分いいでしょ☆」
「それはだめだと思う!!!!!!!」
断固として拒否し俺は自室に戻る。ほんとうに女の子と同棲は心臓に悪い。
ちなみに家事は交代制。流石に償いで一任は酷だし洗濯だって男女別ということで俺は無理を通した。布団にくるみ眠る。
「魔人…」
そう布団の中で呟く。俺が別にそれになるのは良い。ただ…
「闘争心…」
それを仲間に向けることがなにより怖い。そう思った
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