第22話 酷死剣《タナトス》
休憩ののち魔人について後回しにした
まだ憶測の域を出ていないし夢やキャシーの存在などそれらしいものはあったが…
ねえな。俺が
三十分の休息で色々すっきりして頭も心も透き通っている
正直頭良くない俺がとやかく悩むのは性に合わない。そんなことよりもだ
一時間三十分のロス。全部俺のせいで後半分しかリミットが残っていない
明日に回せばいいとは思うがやはり今日の内にとかく何かを得た方がいい気がする
俺はまだまだ貧弱。だからこそアリアに教わった剣技を試してみる
手ごろなモンスターゴブリンドがいたので俺一人で戦うことを伝える
そう念押しして納得してもらった。さすがに今回は無茶はしない
ただ新しい技である『
新たに手に入れた魔石の力の試しも込めて一対一でサシの勝負が始まる
ゴブリンドのレベルは30と俺の方がレベルは上だ。そしてレベル上げに適した存在ではない。経験値は魔物によって優劣がある。強くても経験値が乏しい魔物もいてゴブリンドはその一匹だとネットで見たことがある
揺れる大剣、幻惑する刃の踊り、ゴブリンドの意識を剣に向けさせる
ここまでは何とか行けるようだ。だが問題は残像と同じタイミングで斬撃を放てるかだ
一回目の剣撃は残像であり空転する。それに奇妙を感じたゴブリンド
そして一撃目に放った残像に実体を重ねて抜き放つ…だが
「ちッ!!」
「ギャゴ?」
タイミングがずれた。たまらず舌を打ってしまう。残像に合わせることが困難だ
そもそもこの技は一朝一夕で習得できるものではない
アリアのレベルや
実体剣を視認しゴブリンドは持っている棍棒で大剣をはじく
初撃は失敗に終わる。だが
「ガゴ!??」
連撃は放てた。はじいた棍棒に三回の剣撃が撃ち込まれ棍棒はたやすく折れる
そして武器を失ったことにより戦意喪失したゴブリンドは撤退。折れた棍棒を換金しみんなの元へ戻る
「いやー、マジムズイね
「そういうのは早計だよ☆初めてにしてはかなりつかみが良い。やっぱり剣の才能はピカイチだよ君☆」
「だと良いんだけど…」
正直自信はない。レベル補正があるからと言ってハンターになる前は剣すら握ったことはない。せいぜいゲームで培った程度で剣の才能があるとは思えないけど
「もっと自信もってホラ☆私に勝ったんだしさ☆」
「うーん…そうかなぁ…?」
そうはいっても俺にとって向き不向きにかかわらずこの技は使えると思う
攻撃力偏重気味な俺にとって技巧は必要だ。
使えるならぜひ使いこなしてみたいとは思うのは本当だ
そして少し焦りもある。それは…『俺のスキル』の事だ
レベル35に伴い追加されたスキルというのが『起死退転』というHPがゼロになる代わりに1残るというもの。どう見たって『致死を癒す病(ダメージオブランゲージ)』専用スキルでありもしかしたらこれからレベルアップできてもこんな感じのスキルしか覚えられないのではないかという懸念がある
つまり今の俺に必要なのは剣術であり技だ。その為にやみくもに剣を振り回すのではなく剣の技術を鍛えなければならない。それが今後の課題だ
魔石による愛染の特性に疾風が付いた。つまり俺にとって一番適しているのは負担の多い『
俺は俺でしかない。だからこそ俺なりのやり方で『
「アリア。ごめんけどアリアの方法で
「いいよー☆そもそも我流だからね。私専用に作ってたから雄一君は雄一君なりに改造しちゃいなさい☆」
許可は貰った。後はどうやって俺流の揺残剣を作るか。決まっている
魔石で追加された
オリジナルからかけ離れるかもしれないがそこは申し訳ないけど許してほしい
そして再びレベル30のゴブリンドと遭遇。先ほどと同じく一対一と好都合
風の
連撃は出来た。ただ残像に合わせるのが出来なかった
ならば…残像を数を増やして合わせやすくするしかない
揺れる空気、緩急による視線誘導ではなく疾風によってできた光の屈折の剣の残像が浮き上がりそれは先ほどより多い
上下左右に剣の残像を展開…視線誘導は成功。
アリアの揺残剣は一振りの一か所に残像を重ね
俺の場合は足りない技巧で残像と重ねるためにまず
右から横一閃だけではない上下左右に剣の残像を造り出し残像も先ほどの比ではない
これなら合わせることができる…。俺がアリアの真似をして失敗したのはひとえに残像の少なさによるものでアリアには無駄がなかった。だが今回は逆に俺は無駄を多くして確実に
唐竹、左右一文字、逆風に現れる剣の残像はまやかしだ。だが次に放つ剣撃は本物で
まるでそれは確実に相手の命を刈り取る剣技で
眠りによる死(ヒュプノス)というより…
十字の残像を展開し左右上下に現れるフェイントと連撃を組み合わせたそれは
(―
無駄を活用した剣は『贅沢な
生を喰らい死を飲み干す剣技が今ここに誕生する
「たはぁ~!!シンド…やっぱアリアみたいに格好良くいかないなぁ~~~」
レベル30のゴブリンドを斬殺しドロップアイテムに金貨があったので紙幣に変換。悪くない戦利品と満足したいが…まだまだ改良の余地ありだとため息をつきたくなる。まあそれよりもハードな動きによって疲労の息切れの方が出てしまうが
「
そう頭を悩ませてしまう。その中で雄一は気づかなかった
アリア自身驚いていたことに。想像を超える技を放ったことに対し
(上手くいっていない?冗談でしょ?あんなのレベル30そこそこで出せる技じゃない
まず私自身あんなの打てない…。本当にすごいよ雄一君は)
ちょっぴりプライドは傷つくが剣に対する彼の成長は目覚ましい
同時に
…まるで対照的。魔人になる為に生まれたが成れず血を吐くほどの訓練をして身に着けた技のひとつ『
その上位互換を生み出しなおかつナチュラルボーンで魔人になれる男雄一
何故こんな差ができたのか。普通を享受した雄一と享受できなかったアリア。
血を吐いた意味も、何のために生まれたかも、努力した意味も。恵まれた才覚のある鹿目雄一に塗りつぶされている
これでは水無月アリアの存在自体を否定されたも同然だ
それでもアリアは素直に喜んだ。なぜなら
(…これで、私も普通の女の子として生きていける…)
その否定がなによりもほしかったから。水無月アリアの化け物ぶりは人を逸している。だがそれを超える男がいることで女を実感できた気がした。
(ああ、悲しいくらい。私は女だ…)
だがそれが誇らしい。女の子なら強い男の子に守られたいものだ。お姫様願望というのだろう。その王子様が目の前にいる。だから
(好きになっても…いいよね。こんな私でも…)
普通の人生なんて送れるとは夢にも思わなかった。死の物狂いの努力よりも
普通に生きることを彼女は望んでいたのだから。プライドが傷つかないといえばウソになるが間違いなく…彼女が普通でいられる理由を鹿目雄一はくれたのだと実感する。
「ねえアリア!ごめんけどもっかい教えて!!マジで格好良く決まらねえの!!?」
どこか天然で自身の才覚に気づいていない私の王子様は私に教えをこう
教えることはまだたくさんある。だからこそ私を超えてもっと立派な男の子になってほしい。その願いを込めて
「良いよ☆まったくぅ…しょうがないんだから☆」
私の知りうる総てを、私の総てを貴方に捧げたいとアリアは思った
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