第21話 魔人予兆《デッドライジング》
『――――私が奪い貴方が施す…
生を喰らい、死を飲み干し。我が
暴虐の死よ、我が足元へ。敬虔なる生よ、我が心胆に
ここにあるもの総ては我にぬかずき給う―――――――』
なんという恥知らず。なんという傲岸不遜
この言葉は絶対者の
この声は俺の骨髄から震動として伝わっている
そんな言葉は知らない
―唱えよ。さすれば与えられん
いらない。俺はそれを望んではいない
―平服せよ。さすれば蹂躙せん
お前の欲しいもの救いたいもの。すべてがおもうままに…
それは殺し文句のつもりだろうか。そんなもの要らないと言っている…!!
「目が覚めたかい☆」
アリアの声で脳が覚醒し瞼を開く。その行動で俺は自身がまどろみの中にいたということを知る。横には花道さんとキャシーにアリアがいる
簡易型の結界とベースキャンプを設営してくれておりその中で眠っていたようだ
「あ…俺寝てたのか」
だが眠りについた記憶はなく休憩を取るという事を立案したわけでもない
気が付いたら寝ていた。その程度の認識しかできない
「といっても一時間くらいだ。まだまだ時間に余裕はあるよ☆」
とアリアは言うが三時間しかいられないダンジョンでの一時間のロスはかなり痛い
とても不味い事をしてしまったと謝る
「ごめん…。えっと…なんで俺って寝てたんだっけ?全然前後の記憶がないや…」
「どうやら
突然ズサーと倒れたから佳夕ちゃんパニくってたよ☆ホントあんまり心配させないで上げなよ☆」
「そうですよ!アリアさんがとっさに受け止めて結界を施してなかったら危なかったですよ!!アリアさんが過労による気絶だと言ってくれなかったら本当に今の今まで気が気じゃなかったですよ!!!」
本当に俺は迷惑かけっぱなしで心配かけすぎだと再度謝る。
「真面目にすみません…」
「ま、良いよ☆痛みは転ばなきゃわからないものだし
冗談めかして言ってはいるが確かな助言だ。
・・・体力は回復した。もう動ける。時間を無駄にした分成果を出さなきゃと立ち上がる
「色々迷惑かけてごめん。もう大丈夫」
再三再四謝って俺は平気と伝える。急がなきゃな…そう思っていると
「・・・・・・・・」
? アリアは訝し気に俺を見ている。どうしたんだろう。俺に変なところあったか?
そして彼女は
「佳夕ちゃん。ちょっとお姉さん雄一君と話があるからキャンプの片付け頼んでいい?」
それは…さっきまで反目していた花道さんが聞いてくれるだろうか?
だが思いのほか上機嫌に花道さんは答える
「はい!ちゃんと雄一さんを見守っててくださいよ!」
まさかの花道さん。アリアの言葉を聞いて片付けに取り掛かっていた…
謎が謎を呼ぶ。なので尋ねてみる
「…どしたのお二人さん…?」
「さっきの一件で信用してくれたみたい☆私としてもちょっと信じるの早いと思うんだけどね…」
周りが敵という状況下にいたのかそういった無償の信頼というのが不用心で信じられないというようにアリアは頬を掻く
まあそこが花道さんのいいところだ。だから俺も心が開けた。そこは非難するべきではないと思う。それよりも…
「で、話って?」
アリアから話を切り出すのは珍しい。いや、まだ日が浅いからよくわかんないんだけど。そして真剣な面持ちで彼女は口にする
「ねえ…
「あるよ。ハンターなら大体知ってる」
というか一般常識だ。ハンターを志す者として聞かないわけがない
「それが?」
話の因果性がよくわからない。それが一体俺とどういった関係があるのだろうか?
だが彼女は真剣だ。いつものお茶らけた口調ではない声音で話をつづけた
「君ってさ…
さっきの
でも君は一時間足らずで回復した。・・・だから、君はもしかして…」
もしかして…?え?まさか…?俺が
「…え?いやいやちょっと飛躍しすぎじゃない?
ありえないし不可能だ。そんな人間どこにもいない。そしてアリアは話す。自身の話を…触れてはいけないはずの事を
「…実はさ、私って
「・・・・・・・・」
その辺の黒いうわさは知っている。
魔人はダンジョンの外でも霊脈に関係なくレベルやスキルを行使できるという理論が確立されているらしい。つまり最強の兵器。現代兵器でもさしたる威力を発揮しない魔物相手を屠れるハンターが自由に力を振るうことができる。それを量産し手中にあればいかなる存在も敵ではない。その一人が…水無月アリアだったということだ
「
「それは…」
アリアは
「だから私は失敗作。だから政府に不利益なダンジョンハンターを間引くことが仕事になったワケ☆」
踏み込んではいけないところまで彼女は気にせず話す。何も臆面もなく、全幅の信頼を寄せるように
だからこそ俺も聞いてはいけない闇を訊いたのかもしれない…無意識にその闇に手を突っ込んでしまう。
「・・・アリアは今まで何人殺したの?」
「フフッ…」
それを聞かれておかしなことに心底嬉しそうに笑う。失言だったと弁明する前に
俺の唇に人差し指をピッと抑えた
さながら、歌を口ずさむように、恋語りをするように彼女は告白する
「実は…誰も殺せてないの☆実は初ミッションが女神の捜索と危険因子の排除。つまり本来最初に殺すはずだったのが…君なんだよ☆」
愛おしいように人差し指を彼女は自身の唇に当てる。間接キスをされてドキッとしてしまう。そして殺伐とした話なのに愛を語り合うように気恥しい奇妙な感覚
つまり彼女は暗殺者という肩書だけで誰一人として手にかけていないということだ
「…なんで嬉しそうなの?」
だがそれは暗殺者として不名誉では?と俺は思った。だがそれは俺の
「そりゃ誰だって人殺ししたくないじゃん☆殺しに抵抗をなくす訓練はしたし雄一君を殺すのにためらいはなかったってのはほんとだけどさ…雄一君。私嬉しかったんだよ…。初めて誰かに純粋に必要とされたの、誰も殺さずに足を洗えたのも、君のおかげなの☆」
「・・・でもアリアなら普通に抜け出せたんじゃ…嫌ならなおさら」
逃げ出してしまえばいい。今みたいにと繋げる前に
「それじゃ動機が薄いんだよ…私の存在が許されたのは政府だけだった。それが私の世界だった。不利益をもたらすハンターを殺す。それだけが私の存在証明でしかなかった…。そうじゃなきゃ私の今までを裏切ってしまうから…」
なんてひどいことを言ってしまったのだろうと後悔する。
アリアは
「でも気にしないで☆だって私救われたんだから☆他でもない貴方に。
だから改めて言わせて☆ありがとう、私を誰も手をかけさせずにいさせてくれて」
「いや…そんなことまで考えてなかったよ…」
そんな深い意味はなかった。いやぶっちゃけアレ嫌味だったんだけどね
ガチで来るとは思わないじゃん。しかも戸籍俺の家にするなんて
だが合点はいった。アリアがどういった存在か。なぜ足抜けしたのかを
だから…さっきの話を聞いて
「ならさ、もし俺が
それはそうだ。魔人として生み出され魔人になれなかった彼女にとってもし俺が何の意味もなく魔人になれたとしたら怨敵でしかない。切った張ったはないといったがありそうで不安になってくるがその問いにアリアはどうでもいいように
「そりゃないよー☆だって私魔人になんかなりたくないもん☆むしろなれなくて良かったって思ってるくらい☆人じゃなくなるって絶対いやじゃん☆」
「―――――――――――――」
そうだ。そんなものなりたいはずがない。人間として生きているのだから人間として死にたいのは当たり前だ。好き好んで化け物になりたいとおもうやつなどいない
だからあの言葉はまやかしだ。ただの夢だ幻聴だ
何故言葉が詰まったのか。それはアリアが俺の思っていたことと同じことを言ってくれたから。それ以外ありえない。まして魔人になろうという選択肢を否定されたからではない
「どしたの?」
「ああ。いやなんでも…ちょっと疲れてたかもね」
そうではないとアリアは見抜いているだろうが気を使ってくれて
「佳夕ちゃん☆時間延長☆まだ休憩続けていい?」
「あ、はい!実はちょっと片付け方がわかんなくて困ってたところでした!!!すみません!!」
「アハハ☆佳夕ちゃんカワイイー☆素直でよろし―☆じゃ、今度は佳夕ちゃんとキャシーちゃんとでガールズトークするからゆっくり休んでてね☆」
「うん」
そういって再び俺は横になる
…まるで体の半分が俺の意志ではない何かに蝕まれているように
闇が俺を苛んでいる。
アリアはあえて口にしなかったが証拠はある。
―キャシー。なぜ俺のところに…?
女神の関係者がなぜ俺の許へ来ていたのか
聞いてみても答えないだろう。そうやって再び目を閉じた
あと三十分休みたい。体ではなく心の消耗を回復するために…
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