第19話 斬鉄嵐《ブレイクストーム》

とりあえず花道さんに状況を説明するためにダンジョンの施設内に集合のメールを送信。というかメールで大体のあらましを伝える。そして帰ってきた返信はこうだ

【…直接会いましょう。ダンジョン施設内にて】

内容の意図がわからない上に俺の発信した内容と同じなのでなんか怖い

そして集合時間、アリアを連れてダンジョン施設内で待つ

すると花道さんは来たので俺は戦々恐々と

「・・・やあ」

それしか言えなかった!!だって怖いもん!!!!

そして花道さんの返答はアリアの前に歩いて行って

「色々言いたいことはありますが、雄一さんにもしものことがあったら絶対許しませんから」

宣戦布告めいた啖呵を切り花道さんは真面目な風にそうアリアに告げる

それに対しなぜかアリアは嬉しそうに答える

「ん~良いね☆そういうの好きだよ☆大丈夫だよ、彼には貸しがあるからね。貴女と一緒に雄一君を護るからさ☆」

「…その言葉をとりあえず信じます…ではメンバーとしてよろしくお願いします」

「よろしゅ~☆」

ふざけているような口調で結構まともなことを言うアリア。意外だ。一触即発になるかと思い胃がキリキリしそうだったが杞憂だったようだ

そして俺の横を通り過ぎる際花道さんは俺に聞こえるように伝える

「メールのお話。後できっちり聞かせてもらいますからね」

さっきと言って代わり殺意マシマシで俺にそう伝える花道さん

安心した。予想通りですごく怖い…ッッ!!!

といっても今弁明してもややこしくするだけなのでとりあえず彼女の言う通り後で事情を教えることにした


アリアと殺し合ったダンジョンの階層3へ向かう俺達三人。レベル30の敵であるが

アリアがいれば余裕だろう。おこぼれに預かるとしよう。

そんな俺の心を知っているかのようにアリアはいやらしく笑う

「もしかしてー雄一くーん。私が戦って経験値をたくさんもらおうとか思ってない?☆」

図星を見事突かれ冷静に返答

「え゛゛!!?なななななななナンノコトカナー?いくらなんでも女性に戦わせるのは良くない気がするナー☆」

「口調でバレバレ。そーいう甘さは後々痛い目を見るからさ。今後の教訓として私はサポートと戦いのノウハウを教えるって役目に努めまーす☆。戦い頑張ってね☆」

くぅ!!!ぐうの音も出ないほど最高のポジションに彼女はいる

確かに俺はレベルだけでなく戦いの経験も乏しいにもほどがある。

なのでサポート兼戦いについてのプロフェッショナルであるアリアに御指南受けるのはかなりいい経験になる。すると花道さんは口をはさみ

「…いえ、アリアさん。貴女にも戦ってもらいます。貴女が一番レベルが高いですし本来ならもう少しレベルの高いダンジョン階層で戦ってもらいたいのですけどね…」

それは…花道さんの要望ではない。俺の事情を汲んだ話だ。俺について話していないが前回の俺の態度である程度察したようだ。魔窟に行こうとしたりアリアのパーティー入りを諦めた事、おおよそ俺が焦っていることをわかっていた…

「それは、どういう意味かな?・・・もしかして、雄一君。切羽詰まった状態?」

やはり勘のいいアリアはすぐに俺に向けてそう質問する

だが事情は話せない。アリアなら別に伝えても暗い感じにならないだろうが

花道さんは別だ。余計な重荷を背負わせたくない。そう言うこともあって二人には話せない。どちらかに事情を伝えて片方に伝えないのは不平等だ。

だから

「ありがとう佳夕さん。俺のことは気にしないで。アリアの言ったこと正しいし

俺は地に足付けて頑張るって決めたから」

事情は話さず感謝を伝える。その気持ちはとても嬉しい。それだけでかなり救われたのは事実だ。

感謝の意を花道さんに伝えた

―そう、後悔がないといえばウソになるが。もう卑怯な手で異世界に行こうとは思わない。そう心に固く誓ったのだから

「・・・・・・・・・・」

「なるほどね☆」

≪・・・・・・・・・・≫

とまあ暗い感じは抜きにして

「アリアさんの言った通り俺たちで頑張ろう。そして戦い方を教えてもらおう。

それが一番の近道だろうし」

さっきおこぼれを預かろうと思った自分に忸怩を感じながらも

アリアがいるという僥倖を最大限に生かし俺は今のやり方で進んでいくことで納得する。

そして話しているうちにダンジョンにたどり着いた

いつも通り迷宮エリアから始まりそこを抜けてフィールドへたどり着くという構図は

どのダンジョンでも共通している。以前はここでアリアと戦った。

なので俺が行ったルートは覚えているのでそこはまだ安全だ

・・・そういえばここでモンスターと遭遇してなかったな。その事情を知ってそうなのは一人だけで

「アリア。君と戦った時モンスターがいなかったけどなんでだ?」

「ああ、アレね。君と戦う前に掃除しといたの。邪魔されたくなかったし☆」

つまり花道さんに結界を施したのはガチめに人質として使う気満々だったという事だ

最初から花道さんを殺す気がなかった。それだけ聞ければ俺にとって信用に足る

そんな態度を見てなぜかアリアはこんな質問を投げかける

「・・・ねえ、前々から思ってたけどさ。君って自分の命を軽視しすぎじゃない?」

「そうです!イーヴィルヴァーンさんの時もそうでした!!!」

アリアの質問に対しそうだそうだと同調する花道さん

…そういえば言われるまで気が付かなかったが俺って結構死にかけたことが多いな

違うと俺はかぶりを振る。

「いや、そんなことないよ。俺は死にたくない。絶対に。でも目の前で誰か死なれるのも怖い。だから自分で何とかしなきゃって思っちゃうだけだよ。イーヴィルヴァーンの時は逃げられたら逃げてたしアリアと戦った時は絶対に死なないようにしてた。それは間違いなく言える」

俺は俺が大切だ。生き残った命だから粗末には出来ない。それだけは絶対にやっちゃいけないことだ。その二件はたまたまそうだったし次はどうなるか分からない

「もしかしたら二人を犠牲にして俺だけ助かろうとするかもしれない

結構俺って自分本位なんだよね。俺にとって最善に期するだけだよ」

パーティーに伝えるべきでないことを堂々と言う。

失礼なことを言ったのは承知だがだがこれで俺が自分の命を大事にしない奴だと思わないだろう。軽蔑の目で見てくれて構わない。だが予想と違い

そういうと3人(俺はヴィクター君が見えない)はジトーと訝し気に眺めながら

「ないね絶対」

「ないですね絶対」

≪行動でわかるわバカ≫

即そう断言する。俺の事を信じてくれるのは嬉しいけど

それって俺が死に急ぎ野郎じゃないって言葉信じてないよね

「もうちょっと俺の事信じてくれない!??」

「ま、信じてあげるけどさ。今はそんな場合じゃないんじゃない?」

「雄一さん!後ろです!!」

≪来たわよバカ≫

三人(ヴィクター君は見えないのでわからない)にそう言われてはたと気づく

話に意識を向けすぎた為か俺は後ろに構えているモンスターに気づかず無防備になっていた。それを補うかのようにすでに二人は武器を構え牽制し攻撃されなかったとわ理解した。

即座に大剣愛染に手をかけて武器を引き抜く。早速死にかけ案件に直面して顔を覆いたくなったがそんな暇はない。まずはレベル30のモンスターと戦わければならない


先ほど言った通りアリアは手を出さない。あくまで危険に際した時に手助けするだけで傍観するように立っている。それに対しモンスターはアリアに攻撃を仕掛けてこない。当たり前だ。ネズミがライオンに挑むわけがない。それほどまでに力の差が彼らには見えるのだろう

敵の名はショットスネーク。毒蛇であり牙に備わった毒を武器に、そしてその毒を弾丸のように飛ばせるモンスターだ。主に目を狙う傾向があり当たればたちまち視力が失われてしまう。(病院で一応直せる)

それが数十匹群れを成している。気持ち悪い…男の俺でも嫌悪感を感じるので花道さんはもう目に見えて今にも泡を吹きそうだ。集合体恐怖症でなくともこの蠢動する群れは気味が悪いだろう。しかも大きさはアナコンダレベル。だが倒さないことには始まらない

それに、

イーヴィルヴァーンやアリアとの戦いを経てスペックが一時的とはいえ飛躍的に上昇した。そのこともあって出来ることも増えている。あの時できそうだった技がなにか掴めていてそれをちょっと試してみたかった

右肩上まで腕を上げて剣を構える。

「ん?」

アリアは何かすると感づいたようだ。まあそれは気にせず

そして右から左へ振り下ろすと同時に前に突進し脚を地面から切り離し体をきりもむ。弧を描く剣は回転を描きさらにそれは竜巻のように旋風となった。

轟轟と響く回転は風を刃に変えて渦を巻く。それは横に竜巻が形成されたように暴風が刃となってショットスネークへ俺は吶喊する

ショットスネークの毒が弾丸となって俺に打ち込まれるも刃の風が障壁となって俺を守る

暴風はショットスネークの群れに衝突し数十匹に群れていた彼らへ向かい攻撃を放つ攻撃は通じて、威力はある。だがまだレベルが足りないようで。肉は斬れたがまだ骨には達せず反撃され

「マジか…」

蛇たちの尾撃によって無情にもはじき返される

反動で後退し剣の嵐はやむ。ダメージは与えたが殺し切るには至らなかったようだ

一匹や二匹なら殺しつくせたが数十匹の群れだ。頑強さが違う

となれば…

「致死を癒す病≪ダメージオブランゲージ≫に頼るかぁ…?やだな」

「ねえねえ。今の技初めて見たんだけど?」

遠くから眺めているアリアは俺に向けてそういった

確かにあの時は使ってなかった。それに対し花道さんは得意げに

「あれはイーヴィルヴァーンさんに使った技ですね!あの時は良く見えなかったですがよく似ています!!」

と誇らしげにエッヘンと胸を張ってそう指摘する。その通りだ

「今はレベルが足りないみたいだけどイーヴィルヴァーンの時に使ったんだ

あの時は無意識だったけどこれは技として使えるかなって」

「技ねぇ…スキルではなく。ね」

確かにスキルではない。というか俺のスキルは一つしかない。なので俺の当面の目標は技を作る事だ。剣技を使う剣士は少なくはない。スキルを補うためにないしスキルを強化するために武術を使うハンターはいる。

「名付けて『斬鉄嵐ブレイクストーム』!!!!!!我ながら格好いい…!!」

「でもいい気になってる場合じゃないゾ☆敵はまだいるからね☆」

(ブレイクストーム…ストームブレイカー。あまりいい名前じゃないけど…)

ストームブレイカーは架空の武器であり破滅をもたらす邪剣の名。自己破滅型ではないとはいえ鹿目雄一の戦闘を見れば水無月アリアがそれを連想するのも無理はない。

(死なないように戦えるとは言え死と紙一重の戦いは褒められたものじゃないね。だから私が色々教えてあげないと☆)

自然魔法メレウィー!!!」

詠唱を放つ暇はない。佇立している時間はなく緑の弓矢を腕につがえ射放つ花道さん

さっきのダメージを与えられた部分を的確に当てダメージを与える

反撃に毒液を花道さんに放つが

「そうはさせない」

大剣愛染を盾にガード。毒は愛染を傷つけるには至っていない。流石店長。良いのを選んでる

(それだけじゃない…魔素洞調律シンクロニシティが上がってる…?それによって武器が強化されてるみたいだね☆)

そして即座に攻撃に転じる。ただの攻撃では通じない。先ほどの『斬鉄嵐ブレイクストーム』をもう一度使う

それを察してか相手は蛇行する体が地面をにじる

「花道さん。もう一度自然魔法メレウィー撃てる?」

「はい!もう何十発も」

「撃った後さ、俺の剣に炎魔法ヴィリア付与バフして。これは…」

俺の作戦を理解したのか説明する前に

「分かりました!!!」

流石、俺の作戦を察してくれてる。これなら確実に倒せる…!!

(へえ…やるね☆)

「それは天から降り注ぐ緑の流星くさび自然魔法メレウィー!!」

詠唱中攻撃してくるショットスネークたちを俺が迎え撃ち背後から花道さんが

緑の矢を数射する。そしてすぐさま

「燃やせ燃やせ大地の緑を、芽吹く命は次代へつなぐ…炎魔法ヴィリア!!」

俺の大剣に向けて花道さんはバフを施した

準備は出来た。お膳は整った。巻き込まれないよう伝える前に花道さんは後退したことを確認。いかんなく俺はこの力を振るえる。

致死を癒す病≪ダメージオブランゲージ≫に頼らない。俺の技を今抜き放つ!!

気流を巻き上げて上昇、宙に浮いた俺は中心を軸に周囲に旋風を巻き起こす

迷宮の通路を覆うほどの炎の竜巻は逃げ場がない。これだけでも威力は十分だろうが

念には念を入れている

属性魔法は≪バフ≫が可能だ。そしてそれは敵も例外ではない

ショットスネークの属性は多分毒だが魔法分野において炎が最もダメージを与えられるのは緑である。傷口から打ち込まれた緑の矢が蛇の体を侵食し属性を変異させている。そして…予想外だったが俺が今起こしている風を燃料に炎は燃焼を激化している

相乗効果というやつか。この嵐は魔法ではない為効果はないと思っていたが、

大気中の魔素を巻き上げてる分魔法と誤認しているのか仕組みは分からないが…

今の俺の剣技は風魔法と炎魔法により強化されているらしい

それも相まって巻き上がる横の竜巻。というか回転する風のドリルをショットスネークの群れに向けて突撃する。俺自身が鉄さえ切り裂く刃となりやつらの鱗の装甲も意味をなさない。様々な要因で威力を上げた風の刃は奴らを切り刻み、焼き、焦がし肉片が残らず焼却される

敵が消えたと同時に回転を止め着地。・・・経験していたとはいえちょっと酔う。まだまだレベル不足を実感しながらもショットスネークの群れを倒し

『レベルアップ 鹿目雄一様 レベル35 花道佳夕様 レベル 34となりました』

「ええ!??同じじゃないの!??」

と不平を漏らす俺。レベル配分は平等故に同じだと思っていた。せっかく花道さんの大立ち回りを侮辱しているようで嫌だ。それを気にしていないように花道さんは

「いえいえ。全然ですよ!!レベル25からここまで上がるなんてすごいです!!」

「まあレベル配分は平等だけど経験値は雄一君が上ってだけだったようだね☆」

「なんか納得いかない…」

「むしろ私が悪い気が…大して何もしていないのにこんなに…」

「ええ!??むしろ花道さんの魔法がなかったら勝てなかったよ!!謙虚すぎは良くない」

「いえいえ!!作戦立てたのは雄一さんで倒したのも雄一さんですよ!!これで同じ経験値配分はフェアじゃないと思うくらいです!!」

「やれやれ、お互いに謙虚だねぇ☆それより、ドロップ品見たら☆」

「あ」

「あ」

アリアが言ってくれなければ気が付かず花道さんと同時に声が出た

ドロップ品。大した品はないと思っていたのでそれを見て目を丸くした

「…魔石」

「…ですね!」

「あれだけ倒せば出てくるでしょ☆おめでとう、君たちのご褒美だね☆」

ようやく…当初の念願だった魔石を手に入れた。花道さんと一緒にそれぞれの武器に魔石をはめ込む。だがまだ始まったばかりだ。うかうかしていられない

レベル35ではあるが逆を言えばレベル50という壁に近づいたという事

勝利に酔うよりもまずそれが脳裏によぎり俺たちは迷宮を進んでいった

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