第18話 モーニングショット

『なあ、キャシー…』

≪…チャット使ってまで何?ここアンタの部屋でしょ?誰も聞いてないわよ≫


退院後部屋でベットの上に寝転がりキャシーに尋ねる。無論そのことは言うまでもない。女神の事だキャシーは俺の頭上に浮いている。

そのことだろうとわかっているはずなのにキャシーは意外にも口をきいてくれた

あれ以降気まずく話さないだろうと思っていたが…


『口きいてくれるんだな。シカトされるかと思ってた』

≪私はアンタのフェアリー。何も話さないフェアリーに何の存在意義があるのよ≫

『じゃあさ、聞いてもいい?』

≪…女神の事、でしょ…?≫

『いや?今日の天気予報』

≪…は?≫


そう尋ねるとキャシーは口をあんぐり開けた。開いた口が塞がらないというように


『最近天気予報が外れるの多くてね。キャシーに教えてほしかったんだ。今日天日干しに適しているかって』

≪え?ええ?ここは女神について聞くとこでしょ!??知りたくないの私が何かを!??≫


まあ知りたいかと言われれば知りたいが俺にとって洗濯物を干せるかが一番の課題だ。花道さんと会うことが多くなった今変なにおいとかしないよう努めている。なので


『そんなことより天気予報おせーて』

≪そんなことよりッッ!??何か腹立つ!!優先順位が洗濯より下なの私!??≫

『そんなことないけどさ。それってプライバシーの事だろ?キャシーは俺のフェアリー。変な詮索はしないし女神とどういった関係があるか知っても俺はただの一般ハンター。何の得にもなんないし。だから聞かない。キャシーに嫌われたくないし』

≪・・・・・・・・・・・・・・・≫


そりゃだって聞かれたくないことは誰にだってある。俺だって両親の魔蝕病について聞かれたくないし。それを無理に聞くというのは無粋というものだ。そしてキャシーはもしもと前置きをし、言う


≪…もし、私が女神に頼んでレベルとか自由にできたらって思わない…?≫


その返事は即答で俺は言い切った


『ないね。ナンセンスだ。ハンターは平等。店長も言っていたよ。魔石を無理やり買い取ろうとはしたけど反省した。みんなほしいものがあってでも力が足りなくて半ばで諦めた人がいるだろう。そんな中俺がどんな事情があってもそんなことは絶対しない。俺は俺の手で俺の力で異世界に行くんだ』


こぶしを握って宣誓のように俺は自身に言い聞かせる。

そう、例え両親を救う近道だろうとそれだけは…それを選択せず両親を死なせたとしたら俺のせいだ。

魔蝕病に苦しむ人は多く俺のようにそれを何とかしようとする人だっているはずだ。その人たちも断腸の思いで諦めた人がいるかもしれない。

その人たちを想いレベル操作で魔王を倒す手だってある。その場合その人たちに変わって救うことができたとしても…ごめん、それでも…出来ないと謝るしかない。

憂色を隠せていなかったのか心配そうに俺を眺めるキャシー。心配ないと笑って見せる

はぁ…最近自分らしくない事ばかり考えるな…俺

まあとにかくだ。例えキャシーが女神に頼んで俺をレベルMAXにできたとしても…


『ま、そんな事より天気予報天気予報。俺にとって差し迫っているのはそれだ。

キャシーちょっと頼める?女神さんの力借りて』


結構、そう思うと後悔が渦巻かないといわれれば嘘になる。本当は欲しいし早く魔王を倒したい。・・・そんな悩みを振り払うように話題を戻す

天気がどうなるかくらいなら、少しくらいのバチしかあたらないだろう


≪・・・いいわ。頼んでみる…ちょっと待ってなさい≫


そう言ってキャシーは消える。そして俺は誰もいない部屋の中…つい…


「やっぱ…人間って強欲だな…俺も」


政府の連中と変わらない。女神の力があると思えば色んなことができる

あらゆるスキルの創造にステータスやレベルの無制限解禁。考えるだけで頼まなかったことが悔やまれる。

はぁ、とため息を吐く。俺も弱い人間でしかない。誰かをとやかく言う資格なんてない。だから自分の出来る範囲をやろう。女神のことは聞かなかったことにしようと心で復唱して頬を叩く


「よし、吹っ切れた気がする…。今日もがんばろう」


そう言ってベッドから降りて朝食の準備にとりかかろうと一階に降りる

今日も何事もなければいいな。そう考え事をしていると


「あ、おっはよーう☆朝食出来てるよ☆」


エプロン姿の水無月アリアがそこにいた

思考が停止する。いつの間に俺の家に?というか朝食用意してくれたの?嬉しいな

しかも普段俺が作る者より豪華でサンドイッチ三っつを野菜やハム、卵の三種類用意してくれている。俺の買った食材…ではない。多分自腹で買ったのか?それとも政府経由でヤバ目に手に入れたのか?そのほか色々疑念が渦巻いているがとりあえず


「・・・何で、いるの君…?」

「君だなんてよそよそしい、アリアって呼んで☆」

「じゃあアリア…じゃない!不法侵入ですよ不法侵入!警察呼ばないと!!」

「えー?こんな美少女に朝食作ってもらってその対応~?思春期の男子なら喜ぶと思ったんだけどなぁ~」

「正直夢かと思ったし嬉しいけどマジで何があったのこの事態!!」

「それよりもさ、冷めちゃうよ朝食?嫌いなものがなければいいけど☆」


…確かに、作ってもらったものをむげには出来ない。その好意を素直に受け取って俺は椅子に座って手を合わせて


「・・・いただきます」

「いっただいちゃって~☆たくさん食べてね☆」


警戒心を出しながら食事に手を付けた。





一週間前まで殺し合ったのはどこへやら。というか…

「あのさ、新聞に政府中枢議員一斉逮捕って載ってるんだけど…」

「うんうん」

「何で君は無事なの?」

「ちょちょいと工作をね☆それに、密告したのは私☆身分を偽装して今ここにいるってワケ☆」

「ならさ…俺の家にいる理由がわかんないんだけど。なおさら」

「そ・れ・は☆君の戸籍に登録したから~☆」


飲んでいたコーヒーを思わず吹き出そうとしてしまうが堪えた

まったく意味が解らない。何で政府みうちを売ったのかとか立ち回りで新たな人生送ったのはわかったとして…


「何で俺の戸籍!??俺兄弟いないんだけど!??絶対おかしいよね!??突然姉がいるとか登録した人疑問に思わなかったの!??」

「いちおー生き別れた姉ってことで登録できたよ☆最近は機械で出来るの知らなかった?その辺のコンビニで登録してきたんだ☆」

「安易すぎる!!!」


それでいいのか現代日本


「ていっても証明書であるハンターライセンスって力があるからねー☆」

「そうだった…ライセンスって偽ること出来ないからなによりも証明になる…」

「ライセンスそのものは政府による交付でステータスも魔素洞調律シンクロニシティによる底上げとはいえ本当だしね~☆」


まあ、人体実験していたとはいえ政府は政府、その一部により手渡されたとはいえ本物であることは間違いない。それはいいとして…


「じゃあ本題、なんで家?」

「何でって…君言ってたじゃん。メンバー待ってるって☆だから♡」

「家族になれって意味じゃない!!!!やべー!!花道さんに何て言おう…絶対あらぬ誤解を招かれるよ…」


この女のぶっ飛び具合を忘れていた…。いや忘れるわけない。だがここまでやらかす奴だとは全く想定してなかった

そして間が悪く…彼女が帰ってきた。嬉々とした気分で明るくキャシーは告げる。のだが目の前の光景を見た瞬間


≪聞いてきたわよ~今日は…………………≫

「・・・・・・・・・・・・」

「チャオチャオ~☆」


絶句し思考停止するキャシー。気まずく押し黙る俺。空気読まず気さくな挨拶をするアリア

そして…あらぬ誤解を受けるもう一人がこちらのフェアリーさん

≪~~~~~~~~~人をパシッといて何してんのこのヘンタイ~~~~~ッッ!!!!≫

予想通り例によって体当たりによるビンタが俺の右頬にストレートにかまされた。

誤解だあああああああああああああ!!!!と心の中で絶叫したのは言うまでもない






そして状況をおおむね理解し冷静になったキャシーは


≪なるほどね。身内売って自分はのうのうと人様の家に居座っている。と≫

「ひどいなー☆専業主婦って言ってほしいな☆」

「断じて違う!!?姉だろ立場!??」

≪アンタは黙ってて≫

「はい…」


ピシャリとマジトーンで言われ押し黙る俺。尻に敷かれてる夫のようだ


≪てことは私を付け回してるってわけじゃなさそうね≫

「そうそう~☆女を付け回すシュミないから私☆」


確かにそうだ。政府と手を切った彼女はもうターゲットである女神を狙う理由がない。個人的にあるとしてももう後ろ盾はないし高権力は使えないだろう


≪ま、信じるわ≫

「え?信じるの!??」


と言ったのは俺だった。特に反応がないアリアにも驚く

だって女神の力だぜ?少なくとも聞き出そうとか何か企むのが普通だ

というか俺自身まだ警戒しているんだけど。

それに対しキャシーはどうでもいいように


≪当たり前じゃない。だってコイツダンジョン以外で何もできないじゃない。恐るるに足らずってやつね。それに女神はこいつに力は貸さない。私ならそーする≫

「キャーひどい☆」


とセリフとは裏腹に別に気にしてなさそうな反応。そしてキャシーは言葉を続けて


≪そして私個人、雄一マスターの命を狙わないなら別にそれでいいわ。

その辺気にしてないでしょアンタは?≫

そう俺に向けて言われれば…。というか初めて聞いた気がする。キャシーが純粋に俺の事をマスターと呼んだのは。いつもはアンタとしか呼ばないのに。そのことに比べれば俺の事情はどうでもいいのでさらっという。わかりきったことだ


「ああ、ぶっちゃけ切った張ったはしないと思う。俺を殺すってこともね。

その辺は信用してる。でも…」

≪女神や私の事、心配してくれてアリガト。でもそれくらいアンタを信じてるってコト、覚えておきなさい≫


俺がキャシーを心配しているくらい、キャシーは俺の身を案じてくれているという事か。以心伝心というか…結構信頼関係築けていたんだなと嬉しく思う

そんな光景を見て不服そうに


「私は蚊帳の外ですかー…まったく朝食まで用意してあげたのにこの扱いはひどいと思いまーす」

「いや朝ごはん作ってくれたのは嬉しいよ。ありがとう。ただ何考えてるのかわかんなくてさ」


俺の暗殺やキャシーの女神についてでもない。ならなぜ俺の家にいるか。そこが議題だ。それについて聞いてみた。するとさらに不服そうに


「もう本当に鈍感ですね雄一さんは~☆あんな粋な告白されて振り向いてあげたのにぃ」

「語弊を生む言い方しない。純粋にパーティーメンバーになってくれるって事なんだな?」

「そそ、私も改めて本当のハンターになる事。そして今までのお詫びを込めて。ね☆」


この朝食もそのひとつということか。・・・正直彼女が今まで何をしてきたかはわからないしそれが償いになっているかはわからないが…


「なら、俺も改めて。水無月アリア。君をパーティーに喜んで迎えるよ」

「うん。今後ともよろしくネ☆」


そういってテーブル越しで握手を交わす。さて、この後が問題だ

どうやって花道さんに事情を話そうかということだ。彼女の事だ。また俺が命を狙われると気が気ではないと思う

あ、そういえば


「なんで普通にキャシーと会話できてるの?運営サーバー乗っ取るのもうできないんじゃ…?」

「ああ、それはちょっと運営に細工して…ネ☆」

「現在進行形で犯罪重ねてる!??絶対反省してないよこの人!??」


パーティーメンバーとともに悩みの種が増えてこの先どうなっていくか

不安と期待を胸に抱いてサンドイッチを平らげた。美味しかった…!!

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