第17話 ハンターズウォー
本来ハンター同士の戦闘はご法度だ
利益の奪い合いもだが社会的損失にも繋がりハンター同士で諍い殺してしまった場合重い罰則。死罪か無期限懲役かどちらにしてもハンターとして人間としての人権は奪われるに等しい。その為ダンジョンでは常に運営が監視をし争う兆候が見えた時即時介入し止めるという措置がある。・・・つまりすでに俺たちはスタッフにつかまりお縄に頂戴されているはずなのだが一向にその気配はない。その理由は明らかで『ゲームに介入でき、さらにハンターの殺人も許容される存在』といえばひとつしかない
彼女は政府のハンターであり同時に運営とも癒着している可能性がある。つまり監視しているはずのカメラも…
「誰かの邪魔は気にしないでね☆監視カメラも切ってあるしなにより
つまりはそういうこと。女神について政府は水面下で調査しておりその刺客のひとりがこいつだ
「なかなかに腐っているな政府連中も」
「同ー感!私も結構いじくりまわされて大変だったから☆わかる?戦う為だけに生まれた存在の苦しさって?貴方たちは当然のように手にしてるけど私にはないものを持ってるんだから」
「同情してほしいのか?」
「いーや☆たださ…ちょっとナマイキだな…てね!!」
さきほどの意趣返しのように跳躍し俺の後頭部に向けまわし蹴りを放つ
「ガハッ!!」
激痛が走る。だが30レベル以上の差の攻撃をうけたにも関わらず俺はなぜか気絶していない。着地し彼女は言う
「まさか一回でダウンするなんて気の抜けた事言わないわよね?
・・・加減してあげるからなぶり殺してアゲル☆」
気絶して楽に死なせないという意思表明。ありがとう。そこは好都合だ
一発でノックアウトすれば俺は戦えない。なぶり殺し?最高だ
これ以上ない好機を俺は手にしているのだから
ダメージは45。HPは1580。まだ生かし切れる数値ではないが
≪致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―≫発動
俺のHPが少ないほどに比例し全ステータスが上昇する
その雰囲気を察知したか女は
「へぇ…どうやらダメージ受けるたびにパワーアップするみたいだね。キャッ。ドM☆」
「言ってろ」
そう吐き捨てて再び吶喊。馬鹿の一つ覚えかと思っているのか同じ迎撃態勢で迎え撃とうとする女に向けて
「
『
突撃はブラフ。雷魔法を女に向けて放つも全く通用していない
「この程度まぶしいだけだって☆」
「だろうな。それが狙いだ」
「!??」
魔法を放っている中俺は彼女の後ろを取った
重要なのは攻撃ではなく目くらまし。一瞬の間で俺は女の背後に回り
唐竹割りを放ち重量のまま振り下ろす。
「やるね☆」
だがまだ大したダメージに至っていない。そして次はこの手を使えない
ならばあらゆる手を算出しダメージを与え続けるだけだ
「ねえ?もう手品はおしまい?もしかしてスキルもそれだけ?キャハ☆よく私に挑もうとか思ったね☆」
「ぶっとばさなきゃ気が済まないからな」
「やだ無謀で男らしい~…でも楽しくなってきちゃった☆
イーヴィルヴァーン。どうやって倒したか知らないけど
格下が格上を倒すジャイアントキリング。どうやったのか興味あるしー☆」
そう言って花道さんに向けて何か魔法を放つ。だが攻撃魔法ではない
これは…結界
「なんのつもりだ?」
「何ってココダンジョンだよ?この子気絶したまま放っておいたらモンスターの餌じゃん」
「そっちの方が好都合じゃないのか?」
「やだなー。私は殺し屋だけど殺しは消極的なの☆まあホントは君に本気を出させるためだよ☆その子気にしながら戦ったら絶対君負けるじゃん☆だ・か・ら。こうしてあげれば君もいかんなく戦えるってわけ」
「そうか…」
「でも殺気を抑えるのは早いよ?私は下されたオーダーは必ず実行するタチだからね☆君がその娘に触れたら…ドカン☆。私を倒して解除しないと助けられないよ☆」
つまり人質か。だろうな。俺に対し配慮する意味はない
そしてこの説明自体に意味がある。
「俺が逃げないようにするための予防線か」
「そだよ☆人質兼君が全力出させるための起爆剤。キャー☆触っちゃったら本当に爆発するけどね☆」
その言葉は本当だろう。この女は確実に俺をなぶり殺すための確実な準備を整えた
花道さんを傷つけ怒りを向けさせ花道さんを見捨てないという俺の精神を見抜いている。言葉通り俺への起爆剤になった。
さて、どうするか…手の内を総て読まれている。つまりこれからじわじわと殺されるのは分かり切っている
花道さんに廻らせた結界を信用し俺は女から彼女を遠ざけるためにダンジョンを走り抜ける。迷宮であるここなら足場が上下左右に存在する。
レベルも戦闘経験も知恵も相手が上。確実な詰みだ。それでも
男の矜持として仲間を傷つけたやつをただで済ませるつもりはない…!!
女はすぐに追いついてきた。レベル差だ。当然わかっている
そして奴自身俺が危殆に陥るほど強く成ることは知っている。だが勝敗を決する為に互いに体力を削り合うのは必定。ゆえに奴の両手から扇子のように短剣が展開
刃を持って俺に向けて投擲。だがそれだけではなく
跳弾ならぬ跳剣。迷宮の閉鎖された空間で縦横無尽に俺めがけて短剣が射出される
―厳然たる力の差を見せつけられた。この空間で有利なのは俺だけではない。あいつもだ。そしてどの状況下において適切な攻撃を放つ周到さがあいつにはある。
当たったらまずい。そう思い大剣を大きく振りかぶり旋風を巻き起こし短剣を振り落とす。単純な剣速で対応できる数ではない
嵐によって落ちた短剣を見る。やはり毒が塗られている
当たった瞬間から体力が徐々に削られ動けなくなる
もちろん隙を見せたわけではない。短剣を見ながらも意識が常に奴に向けられている。奴の姿はない。天井を足場に俺に向かって直剣を突き立てる
攻撃力はまだ不完全。奴の剣を薙ぎ払えるほどの威力はない。
「キャハ☆どーする?」
「馬鹿正直に受けるわけないだろ!!」
刺突する直剣の刀身をなでるように受け流し威力を受けぬまま沿って往なす。しかしてその威力を殺さず直上の敵に向かい振り上げる
だが
「だよねー☆そうするよね☆」
「!??」
奴は剣をねじることで軌道を変え逆に俺の力を利用し大剣を伝って剣を軸にスケートのように滑っていく
肉薄する敵。そして俺はそれに対処する術はなく
上半身から足にかけて滑り落ちる刀身に無様にも切り伏せられる
「がッッ!??ああああ!??」
切られた箇所が焼けるように痛い。これがリアルの痛み。本来のダメージ
ゲームで体感した痛みと比べ物にならない激痛が脳髄を焼き切っていく
次弾、まわし蹴りを予測するが体が痛みで動かず無抵抗にも攻撃を喰らい迷宮の壁に叩きつけられる
鈍い音と共に背面に鈍痛が走り肺の酸素が一気に吐き出され意識と共に呼吸困難で失神しかける。だが…
≪致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―≫作用。
体力を半分きりようやく強化の恩恵が追い付いてきた
ダメージを負った分ステータスが上昇している。そのおかげか体がさっきより軽い
―右肩から足までグロテスクに傷口がミンチになり骨が露出している。これでもスキルのおかげで動けている。なんだ、思ったより使えるなコレ。
そして敵対している女が訝し気に俺に尋ねる
「・・・致命傷を避けているのは偶然かな?」
「さあな?」
その問いにすっとぼけて挑発。もちろん偶然ではない。どの程度なら死なないかはすでに検証済みだ。ゲームがどれだけ現実に忠実かは不明だがさっきの裂創も偶然ではなく回避した結果だ。まわし蹴りももちろん手加減されているとはいえ致命的な被害を避けている。
それが却って警戒を生んだようで
「どーやら、イーヴィルヴァーンを退けたのは偶然じゃないみたいだね」
余裕がなくなったのか厳格なトーンでそうさえずる
「だから、もう手加減しないね。本気で殺す…」
本気の声音でそうのたまい瞬間女は消えた。
このままダメージを与えれば俺のステータスを上げるだけ。
つまりアイツの狙いは一撃必殺。次の一撃で俺を完全に殺すつもりだ。
狙うは脳か心臓か首か。どちらにせよ確実に殺す手段をもって俺を屠りに来るだろう。
そして即座に殺さないのは俺の
まぐれ当たりで俺が剣を振り回して当たらない為だろう。つまりすでに女に通用するレベルまで俺のステータスは上がっている証左だ。
深呼吸をし少しめぐる
どこかに潜んでいる女の気配は一向に感じられない。どの方向からどのタイミングで来るかまるで見当はつかない
奴が攻撃を展開する前に、俺は…
「が、ああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
自身の腹に刃を突き立てずぶりと突き指し大剣が背中に生えてくる
「――――――――――――――――――――――――――」
言葉で言い表せないほどショック死しかねないレベルの激痛が走る
四メートルある巨剣だ。内臓や骨はさけられない。だが即死に至る重要器官は避けた
痛みで声が出ない。このまま死ぬと脳髄が叫ぶ。HP補助による補正とステータス上昇で体が動きそして女は俺の意図を察したようだ。花道さんのいる場所へ向けて走り出す。
―彼女のいる位置まで後数十メートル。ある程度の距離がなければ起爆できない
―背中を見せたのは愚策。だがあのまま狙えば確実に迎撃されていた
―≪致死を癒す病―ダメージオブランゲージ―≫極限。残りHP6
ステータスは1700を超え奴に迫れるレベルまで行った。かなりの大けがだが普段以上に十全に動ける。と言っても早急に片をつけなければ数分も持たず死ぬのだが
迎撃は出来た。今ならスペックは俺の方が上だろう。経験は女の方が上だがそれほどまでにスペック差が開いている証拠だ。それならば確かに即座に俺を狙わなかったのは得策だ。だがな…。俺がそればかりを気にしているとでも…?
花道さんがいるまでの最短距離を女は駆け抜ける。起爆すれば戦意喪失し確実に叩けるだろう。なのでこの戦いは水無月の勝利に終わる
距離は後数メートル。起爆射程距離まで後数歩。その先に
「!!!!!????」
あり得ない姿。何者かの影。いや、知っている男の姿。鹿目雄一が立っていた
莫迦な…たとえスキル効果でスペックで優っていたとしてもこちらは最高速で最も近い距離を駆けたというのになぜ…?
水無月は気づいていない。それは彼女から見た最短距離でありこのダンジョンにおいての最短距離ではない
そう…鹿目雄一は先ほどの戦闘で走り抜けながらも道を覚えていた。マッパーたる彼は体感し見聞きした場所を必ず覚えている。
東奔西走した道を知り人質の花道佳夕を案じながら動いていたのだ。そして万が一彼女が危険にさらされたという事態を想定しダンジョンで最も早く彼女へ駆けつけられる道を見つけていた。
それが誤算。水無月アリア自身が気づかなかった過ち。まさかすべての通路を覚えている阿呆がいるとは思わなかった油断
想定外の事態に体が硬直、その寸隙に向け俺は女の腹に向けて一閃を解き放つ
最大威力で放たれる斬撃はたとえレベル68であろうとも致命傷であり胴体を泣き別れさせるには十分すぎる威力。≪致死を癒す病―ダメージオブランゲージ≫の恩恵はそれほどまでに大きく彼女は死を覚悟する。だが事態は予想に反して
「か…はぁ………」
切り裂かれる創傷ではなく鈍痛による打撃が腹部に伝わりダメージによりHPはゼロ。意識は貪り食われHP効果による強制的に瀕死状態となり
戦闘不能。大剣愛染の刃がない中央の腹部分での
女を倒したことで結界は崩壊し花道さんは意識を取り戻す
「大丈夫?」
そう話しかけた瞬間
「―――――――――」
花道さんは泡を吹いて卒倒した。どうしたのかと思って体のザマを見てすぐ納得する
スキルで肉体を維持しているとはいえこれで生きているかと言われれば違うだろう
「これじゃ死人だよな…ごめん花道さん…」
≪もしもし!医療班はすぐに来て!可及的に!!!≫
そして運営との連絡も可能となりキャシーが連絡を入れすぐに運営スタッフが到着
事の顛末を語る前に俺は即座に担架に乗せられ病院へ直行された
「大丈夫ですか雄一さぁん…!」
「ジョブジョブ。すっかり元気だよ」
それから一週間で俺の大けがは完治した。現代医療は魔石や魔物のドロップアイテム。宝により飛躍的な進化を遂げているらしい。
魔素によるタンパク質の構築。それを応用した縫合手術によってだ。
病院はあまり好きではない為知らなかったがなかなか魔王の力とやらはバカにできないものだと認識した。
どんな重傷だろうと手足がちぎれようとも再生できるといわれているが正直半信半疑で今までは聞き流していたが嘘ではなさそうだ。
だからと言って天の恵みだとは全く思わないが。
そして魔障病はまだ治療不可能と言われている。なぜなら今の医療は魔素の応用を旨としている為魔素そのものを取り除く技術は備わっていないらしい
魔素部分自体が肉体と融合しているから重要器官ごと切り落とさなければならずその時点で即死。
もちろんHPによる死ではない為蘇生魔法を龍脈経由で使用しても効果はない。やはり魔王を倒さなければいけないらしい…そう聞いた。
そして退院した道の先に…水無月アリアがいる。
花道さんは警戒するがここは現実世界。彼女は俺たちと同じレベル1のままだ
例え
そう彼女から聞いている。入院している間俺は戦闘不能になっている彼女についてスタッフに聞かれ『仲間が魔物に襲われて自分も負傷した』と証言。警察へは届け出さなかった。もちろんスタッフは信じているわけではないが証拠も同時にないため俺の証言が優先され今に至る。水無月さんの関係者もいるので黙殺されたというのもあるかもだけど
「なぜ私を助けたの?政府経由とはいえこれは国際問題に発展する事案なのに…」
上層部にもみ消される。ということはないのは知っている。汚職事案そのものである人体実験が公で公開されれば関係者は即座に逮捕されるだろう。だがそんなことはどうでもいい。政府がなにしようと俺の知ったことではない。ただ助けた理由としては…
「水無月アリアさん…貴女は佳夕さんを殺す気がなかった。それだけだよ」
「・・・気づいていたの」
「???????」
まあ花道さんは気絶していていたし知らないのは無理もない。というか話すの忘れてた…
「結界の起爆装置というのは本当だろうけど、佳夕さんを殺さず人質にするだけで済ませる気だった。佳夕さんのところに行くとき、スキルのおかげで殺気がないことがわかったよ」
全ステータス上昇でわかったレベルの境地。それを垣間見えて理解できた。
そもそもまず『あの結界 遠隔でも起爆できただろうし』
近距離で爆破すれば起動者もただでは済まない。用途として相手を捕縛し遠隔爆破を起こす結界だと思う。だのに水無月さんは花道さんの許へ向かった
そういった確信があったから俺は迷わず花道さんの許へ走り抜けたのだ
それに対しカウンターのように痛いところを彼女は突いてくる
「もし殺気を消す術を持っていたとしたら?もしかしたら勘違いで彼女を殺すことになったかも」
それは爆破はせず結界だけ解除し目の前で殺し戦意喪失させるということか…なるほど…それは考えてなかった。殺気を消す術か。それも知らなかった。ぽりぽりと色々と至らないことを反省する。まあそうだとしても…
「あー…それは思い至らなかったな…。多分貴女を信頼してたかも無意識に」
どちらにしても俺が間に合うことは確信していたしたとえそうでも問題ない。
あのまま俺を直接攻撃しても
確実に間に合うルートを計算していたし
最善だったと思うよ多分。見苦しく自分にそう言い聞かせる
その様を見てか水無月さんはおかしそうに笑う
「そう…。大物ね。本当に」
そう言って振り返って彼女は去っていく。
間違いなくバカにしているだろう。まあ俺ってこういうバカだし
ああそうだ、まだ伝え忘れていたことがあったんだ
水無月アリアさん。その後ろ姿に向けて俺は言う
「メンバー募集。待ってるから」
あの時の意趣返しと揶揄も込みで俺は放言する。貴女を歓迎する。いつでも待っている。と
踵を返して去っていく彼女の口端は後ろ姿越しだったが少し笑みを浮かべていた気がした
そして彼女の姿が見えなくなると
「むぅ~~~~~~~~~~~~!!!!」
今までにないほど花道さんが怒っていた。かわいく頬を膨らませて怒りをあらわにしている
「? どうしたの佳夕さん?」
「どうしたの?じゃないですよ!!!!!アリアさんを信用して私が死んでいたかもしれないんですよ!!!そんなに薄情なんですか雄一さんはッッ!!!!!!!!!」
あー、確かに。一歩間違えれば花道さん死んでいたな…いや、あの時は……うん。弁明の余地なし
なので
「・・・ごめんね花道さん☆」
ペロっと舌を出して水無月さんの真似をして謝罪。この笑顔で許してと暗に伝えると
パキッポキッっと指を鳴らして花道さんは般若の如き表情を浮かべていたのを目の当たりにし逆鱗に触れたと察した後
「この…バカあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
声高な叫びと共に俺は良い感じにホームランをかまされた
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